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現実はいつも夢から  作者: aciaクキ
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5 事後生活

よーし、頑張ります!

長い、長い、夢が終わる。


 ここまでが、俺に残った記憶。何処か暗い場所の中、ベッドの上で目を開ける。



 竹浦夢汰の交通事故のあの日から数日が経ち、教室では落ち着きを取り戻していた。たった一人を除いて。


「玲奈ちゃん、ご飯食べよー」

「うん」


 笑顔を取り繕っているものの、今までの元気さが未だに出ないでいた。それを私の友達は察してくれていたからこそ、私を元気にしようとしれくれていた。

 本当に、いい友達を持った。


「昨日のテレビ見た?寺内翔くん、かっこよかったなぁ」

「見たよ。確かにかっこよかったけど、みなほど好きじゃないかなぁ」


 この学校に転校して最初にできた友達の、沖未奈美おきみなみだ。最近は二人でご飯を食べたりして、仲良くしてもらっている。


「むぅ、えいっ!」

「ちょ、ちょっと何してるの!」

「お弁当の具を取っただけだよ?」

「なんで取って当然見たいな言い方なの」


 へへんと、私のお弁当から取っていったタコさんウインナーを見せびらかしてくる。たまにこういう意地悪してくる。

 けど、そんな底なしの元気は今の私には一番必要だったようで、いつも助けられてる。きっと私のことを思ってだろう。

 いつかまた気落ちするときが来るかもしれないけど、今はつきものが落ちたように良い笑顔を友人に見せることができた。


「ふふ、ありがと、みな」

「なによ、ウインナー取られたのがそんなに嬉しいの?」


 照れ隠しなのか、はにかみながら冗談混じりで皮肉を言う。パクリと、取っていったタコさんウインナーを口に入れて。


 しばらく黙々と食べているとミナが口を開いた。


「今日も行くの?」

「……うん」

「はぁ、毎日熱心なことね」


 なぜ毎日お見舞いに行けるのかわからないと言わんばかりにため息をつく。


「そんなに心配?」

「心配だよ。だって、私の学校案内をしてくれたらその日だもん。ミナは心配にならないの?」

「そりゃあ、私だって心配だよ?でも、今までそこまで関わってきてなかったから、玲奈ほどじゃないけど。れいなも会ったのはあの日が初めてなんでしょ?昔から知ってたとはいえ」

「ま、まあ」

「それに、帰りで玲奈と別れた後でしょ?玲奈のせいじゃないよ。気にすることないって」

「……」


 そう言ってくれるのはすごく嬉しい。もちろん、すべて私のせいだとは思ってない。けど、《《私》》のせいなのは変わらない事実。気にしない訳にはいかなかった。



 学校が終わり、いつものように病院に来る。通院ではなく、お見舞いだ。手には花束が握られていた。

 

 私は今、どんな顔をしているのだろうか。きっと酷く落ち込んだ顔をしているに違いない。病室に着くまでに何人もの看護師や患者さんとすれ違った。どんな顔に見えていたのだろう。

 あの日から彼はまだ目を覚ましていない。命に別状はないからじきに目を覚ます、とお医者さんは言っていたが、信じきれなくて最近は心は穏やかでいられなかった。


 病室の前には

『竹浦 夢汰様』

と書かれた名札があった。


 スライド式の扉を開け、いつも通り飾っている花を変えようと竹浦が眠るベッドに近づくと、話し声が聞こえてきて、とっさにカーテンの影に隠れた。


「……わね。起き…るわ。あなたのそれは私たち……ような…よ」


 ガガ、と椅子を引く音と共に、カーテンの影に人が立ち上がったような影が映る。


「ここに置いておくわ。目をさますことを祈ってるわ。さて、そこに隠れてるお嬢さん、おまたせしたわね。あとはお若い人に任せましょうかしら」

「!?」


 バレていた。物音一つ立てずに息を潜めてじっとしていたのに隠れていたことが気づかれていた。


「驚かせて悪かったわね。私、人の気配には敏感なの。ちゃんと扉が開く音も聞こえていたし」


 そう言いながらカーテンから出てきた人は、美しい女性だった。生きてきた中で、これほどまでに女性らしい女性を見たことはなかった。身体は細すぎず太すぎずのバランスの取れたスタイルだった。背は高く、髪は長めに伸ばしていて、ハイヒールを履いていた。そして身体に合わない程の大きさの胸をしていた。服は合っていないのか少しきつそうだった。


「あらあら、かわいいお嬢さんじゃないの。彼も隅に置けないわね」


 ふふ、と女性でも思わず目を奪われてしまうような微笑みには色気すら感じた。いったい竹浦くんとはどんな関係なんだろう。


「それじゃあ、失礼するわね」


 その女性はコツコツと音を立てながら扉に手をかけ、そのまま出ていこうとする。


「あ、あの!」


 その前に聞きたいことがあった。ここで呼び止めなければ一生会えないような、そんな気がした。


「どうかしたのかしら?」


 女性は動きを止め、呼び止められることを知っていたのかのような雰囲気を醸し出していた。


「あの……竹浦くんとはどういう関係なんですか?」


 今一番気になっていたことを聞いたつもりだった。私は真剣そのもので、笑いを取ろうなんてこれっぽっちも考えていなかった。のに彼女は、この質問が予想外だったのか、少し間をおいて上品に笑い出した。


「え、えっと」

「ああ、ごめんなさい。ええと、私と彼の関係よね。あなたが気にしているような関係じゃないから安心なさい。彼のおと……ごめんなさい、私が彼のお母さんとお友達ってだけよ。少し様子を見に行ってほしいって頼まれたのよ」

「あ、そうだったんですね……って、私、そ、そんな、気にしてませんから!」

「ふふ、初々しいわね。若いっていいわあ」

「ううう」


 心の中を見透かされたような気がして急に恥ずかしくなって顔を伏せた。


「聞きたいことはこれだけかしら?」

「あ、はい。呼び止めてしまってすみませんでした」

「いいのよ。たまには若い子と話したほうが若返りそうね」

「ははは」

「そうそう、あなたの名前、教えてもらえるかしら?」

「名前ですか?いいですけど」

「ありがとう。私から名乗るわね」


 バッグから小さな箱を取り出し、中から一枚の紙を取り出す。


「はい。私、こういう者です」


 渡してきたのは名刺だった。名刺には

『ファミナル製薬会社 経営部長 片元かたもと 美里みさと

と書かれていた。


「ファミナル製薬会社って、あの大物企業じゃないですか!」


 よくテレビCMで見かける。そんなすごい会社で働いている、しかも経営部長の人と会えるとは夢にも思わなかった。


「そうなのよ。じゃあ、あなたの名前、教えてくれる?」

「はい。私は、綾川 玲奈と言います」

「綾川…れいな…ね。流石ね」

「なにか言いましたか?」


 ボソリと小さな声で何かを言っていたからよく聞き取れなかった。


「いいえ、ごめんなさい。なんでもないわ」


 何かを隠しているような気がしたが、隠し事は誰にでもある。決して自分に関係するものとは限らない。だから、特に何も聞かずそのままスルーした。


「なにかあればその電話番号に連絡をしてちょうだい。ああ、夢汰くんが起きたとき、連絡をしてくれないかしら?」

「わかりました。名刺までもらっちゃって、ありがとうございました」

「いいのよ全然。名刺を持て余してたから、消費したかっただけよ。それに」

「それに?」

「あなたとはまた会えるような気がするから、覚えておいてもらわないとね」


 さっきも感じた、これからのことを知っているような雰囲気を感じた。このときだけ、彼女を少しだけ危険な存在に感じてならなかった。


 

 片元さんが病室から出ていってしばらく立っていた。私はベッドの隣に置いてあった椅子に座って、勉強をしたりスマホに目を通したりしながら、時々竹浦くんの寝顔を見ていた。

 健康状態に問題はなく、お医者さん曰くあとは目を覚ますのを待つだけだそう。そうだとしても、なかなか起きてくれない。外を見るともう夕方になっていた。片元さんとのやり取りのあと、何人かお見舞いに来た。竹浦くんのお母さんも来たが、片元さんが来ていたことは言わなかった。片元さんが言わないでと言っていたからだ。

 今日も何も起きずに家に帰らないといけない時間になってしまっていた。



「おかえりー」


 家に帰り着くと、私が帰ってきたことに気がついたお母さんの声が聞こえてくる。声はリビングから聞こえてきていて、同時に何かを炒める音と、食欲がそそられるいい香りがした。


「ただいまー」


 リビングの扉を開けて入ると、予想通り晩御飯の準備をしていた。


「もうすぐご飯できるから、着替えてきなさーい」


 我が家はもともと3人家族だった。訳あって今はお母さんが私一人を育ててくれている。出来ることはなるべく手伝うようにしているが、お母さんはもともとの性格上、人に何かを任せることが苦手だから、こちらも苦労してしまう。

 それに、あることのせいでお母さんの笑顔はいつも貼り付けているようだった。最近は昔みたいに笑うことも多くなったけど、それでも全然だ。

 あんなことがなければ今よりももっと幸せな生活を送れたのにな。


 そんなことを考えていると悟らせないように、気を配りながら、お母さんと楽しい食事をする。


 次の日、私はいつも通り、学校へ行った。


◇◆◇◆◇◆◇◆


 カチカチ、ピッ、ピピピ、カチャ


 機械音がする中、病室でその目は開かれた。

 あたりを見渡すと白い部屋に、白いカーテン、そして何やら自分から伸びている謎のチューブがあった。すぐ近くには白い服を着た女性が、パソコンのようなものを操作しながら、取替作業をしていた。

 

「あ、起きましたか?おはようございます。今、先生を呼んできますね?」


 パタパタと走り去っていくのを感じながら、体が自由に動かないことに焦る。腕はおろか、声すらも出せず、目だけは動かすことが出来た。

 さっきの人や、周りを見た感じ、ここは病院のようだった。

 しばらくすると先程の看護師と、医者と思われる人が一緒に部屋に入ってきた。


「こんにちは、竹浦夢汰君。自分が誰かわかるかな?私が誰か、わかるかな?」


 声は出ない。ただただ頷くことしかできなかった。首は動くようになっていた。


「まだ完全には回復してないようだね。まだ寝てても構わないよ」


 このまま寝るわけにはいかないと思い、首を横にふる。


「わかりました。じゃあ、ちょっと眩しいけど我慢してね」


 目にライトを当てたり、喉の奥を見たりしていた。一通り済むと、話していいと言われた。


「…ぁ、ぉれは、t、た、たけ…うら、うた…です」


 ちぐはぐながらもなんとか声を出すことができた。どれだけ声を出してないと、こんなにも喋れなくなるのだろう。


「そうです。君の名前は竹浦夢汰君です。なぜここにいるのか思い出せますか?」

「は…い」


 さっきよりも声が出せるようになった。それよりもここで寝ている理由は自分でも驚くほどに鮮明に覚えている。


「おれは、トラックに跳ねられて……」

「そうです。トラックに体全体でぶつかって、後遺症もなくここまで回復するのは奇跡ですよ」


そういって医者は席を外そうと立ち上がる。


「もう少しゆっくりしてください。しばらくしたらまた来ますよ。急を要することであれば、そこのナースコールを押してください」


 そのまま、医者と看護師は病室から出ていく。正直、今は一人のほうが都合が良かったりする。

 さっきから頭の中に浮かび上がる文字が気になって仕方がなかった。映像も音声もなく、ただ文字だけが頭の中で浮遊しているような状態だった。内容は

『ベッド横にある棚の引き出しの中の紙を読め』

だった。

 指示通りに棚の引き出しを開け、一枚の紙を見つけて取り出す。

 手紙の内容を隅から隅までじっくりと読んだ。


『この手紙を読んでいるということは、ようやく起きたということだね。おはよう竹浦くん。さて、君に伝えなくてはならないことがある。単刀直入だが、それは君の能力のことだ。詳しいことは今は教えられないが、能力の概要だけはわかっているかもしれないけど、教えようと思う。知らないこともあるんじゃないかと思ってね。細かく知れたほうが君も自分の能力を有効活用できるはずだからね。

 じゃあ、早速。君が持つ能力は予知夢だ。それも正確な未来を予知できる。けど何にでも欠点は存在する。君の場合、断片的なものが多い。しかも重要な未来でも肝心なものを見せない可能性もある。例えば、事件が起こる予知夢を見たとして、犯人の顔だけは見れない、といった感じだ。

 そしてもう一つ。これはもう自分でも気づいてるんじゃないかな。予知夢を見るためには二段階の夢を見る必要がある。夢の中で夢を見ることができれば、それが予知夢になる。もしかしたら君には1つ目の夢がどういうものなのかわかってないかもしれない。1つ目の夢は、過去視だ。過去を見ることが出来る。だから、君がさっきまで見てきた出来事は全部過去で起きたことなんだよ。君の現実はこの手紙を読んでいるその日から始まっているんだよ。夢の中で、過去を振り返る、といった感じかな。

 これで能力の解説は大方終わったかな。まだ説明したりないけどね。それともう一つ、君に気をつけてほしい人物がいるんだ。その人の名前は、片元美里。そいつがそこに来て、何かを提案されたとしても、決して乗ってはいけない。彼女に協力した先には絶望しか待ってない。それは竹浦くん、君だけでなく、綾川さんも同様に、だ。だから、彼女に協力だけはしてはいけない。わかったね?都合上、僕はそちらに行けないが、無事を祈ってるよ。いつか会おう。  K』


と書かれていた。

 能力のことは誰にも話したことは無いし、綾川さんのことを知っているのも何やら怪しい。その片元さんという女性が誰なのか、俺とどう関わってくるのかが、全く想像できなかった。突拍子のないことではあったものの、なぜか心の中ではすっぽりとこの手紙の内容がきれいに入ったような感じがした。

 とりあえずこの手紙を引き出しに戻し、外を眺めることにした。

最後まで読んでくれてありがとうございました!書き置き書き置き……

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