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現実はいつも夢から  作者: aciaクキ
3/35

3 転校生

更新不定期ですみません^^;どうぞお読みください!

「………んね。わ…しの……で、こ……」


 誰かが話しているのを感じた。誰かは全くわからない。分かるのは、女性が話している、ということだけだった。


「ゆ……てほ…いの」

「…え、きい……れ…?わ…しの、過去を」


 とぎれとぎれで何を話しているのか全然わからなかった。ただ、最後に、過去を聞いてほしい、とそう言われた気だけはした。ただ、それだけで、その後は何も聞こえなかった。意識は眠りの更に奥へと誘われる。



 ガラガラと音を立てそうな教室の扉が開くと共に担任教師が教室に入ってくる。声は聞こえないために何を話しているのかはわからなかった。先生は扉に向けて手を広げると、教室の扉がまた開かれる。入ってきたのは、一人の女子生徒だった。

 先生の口が動いているのを見て、軽く紹介をしているのだろうと想像していると、大体の紹介が終わったのか、女子生徒が黒板に名前を書こうとチョークを手に持つ。

 そのまま名前を見ようとしたところで目の前の景色がガラリと変わってしまった。


 視聴覚室前、窓を通して校舎内を照らす夕日に目を細めながら目の前に立つ人を視界に入れる。目の前には、先程教室に入ってきていた転校生がいた。どうして彼女と二人だけでこんな場所にいるのか想像ができなかった。

 彼女は何かを話しているようだったが、あいにく聞くことができなかった。彼女の顔はとても真剣で、夕日でなのか、話している内容でなのかわからないが、眉間にシワが寄っていた。

 

 俺に真剣そうに話をする彼女が転校生としてやってくるというのは、大きなターニングポイントとしてこれからの人生が大きく左右されそうな印象を受けた。情報量が少ないのは少しばかり心配になるものの、たった一つだけ確信できることがあった。


 この夢で見た出来事は必ず起きるのだ、と。転校生がやってきて、放課後では二人きりで会話をするという出来事が、例外なく必ず起きる。次第に視界がぼやけていき、気づけば真っ暗な暗闇へと落ちていくような、あるいは浮上していくような感覚が襲った。



 カーテンからの木漏れ日が大きくなり、部屋を明るくするほどの明るさの光と、やかましく鳴り続けるアラームに目が覚めて、ムクリと起き上がる。

 いつものように妹が起こしに来るまでベッドの上でだらだらするのも悪くないと思ったが、夢で見た女子生徒のことが気になって目が完全に覚めてしまう。今日の転校生、残念ながら名前は見れなかったし、顔も少しぼやけていてはっきりと見れなかった。でも、俺にとって重要な人物な気がしてならない。


「起きてー!おにいちゃ、あ!起きてる!めずらしい〜」

「ふふ、お兄ちゃんもやればできるんだよ」

「いつも頑張ってよね。ご飯できたから食べよ」

「ああ、わかった。先行ってて」

「はーい」


 いつものごとく天使のような妹は起こしに来てくれた。やはり天使だ。ただ今日は自然と目が覚めてしまった。きっと夢のせいだろう。



 校門を過ぎた頃、嬉しそうにソワソワしている泰介が目に入り事情を聞いてみた。


「おい、なんでそんな落ち着きないんだよ」

「よく聞いてくれた!今日、転校生が来るらしいぜ?」


 何故か小声で耳元で囁かれた。顔を引き剥がしながら疑問をぶつける。


「なんで知ってんだよ。俺知らねーぞ?」


 正夢で見たから知っているものの、夢で見なきゃ知らなかったから、知らないふりをする。


「昨日、田中が喋ってるのを聞いたんだけど、職員室に行ったとき、見たことない女子が先生と話してるのを見たんだってよ。しかも超美人。楽しみだろ?」

「へえ、まあ少しだけな」

「なんだあんま興味なさげじゃないか」

「そんなことはないぜ?」

「俺は超楽しみだ」


 イケメンのくせに性格が良くも悪くも好かれるものじゃないのがかわいそうの部分だな。顔に出さないように心のなかでそっと呟く。

 教室に着くまで転校生談義に花を咲かせていた。



 ガラガラと教室の扉が開くのと同時に担任が入っていくる。


「なぜかもう噂になってて知っている人もいるかも知れないが、今日は転校生が来ている。朝のホームルームは転校生の自己紹介で時間を使おうと思っている。じゃあ入ってきてください」


 扉に広げた手を向けて、入ってきてもいい旨を伝える。また、音を立てて扉が開かれると一人の生徒が入ってくる。キラキラと効果音が入りそうなほどきれいな見た目は、男女関係なしに目を奪う。長い黒髪は風も吹いていないのに後ろになびき、細い足と腕と小さな顔は体全体のバランスを絶妙なラインで保っている。その姿の美しさと可愛さに、クラスでは誰ひとりとして声を上げることができなかった。それは俺も同様に。


「じゃあ、自己紹介よろしく」

「はい。みなさんこんにちは。私の名前は綾川玲奈です」


 鈴のようで優しい声にギュッと胸を掴まれるような感じがした。それは全員感じたようで、彼女の声を聞こうと若干前のめりになっていた。

 一瞬目があったような気がしたがすぐに目をそらされた。


「家庭の事情でこちらに引っ越してきました。みなさんこれからよろしくおねがいします」


 丁寧にお辞儀をする姿も凛としていて心を奪うには十分すぎた。


「じゃあ、あそこの空いている席を使ってくれ」

「わかりました」

「ああ、あと、校内案内を誰かしてあげろ。でも放課後にしてくれよ。じゃあ今日のホームルームはこれまで、自由にしていいぞ」


 ほぼ真ん中の席に座った。俺は窓側の席なので席は少し遠め。授業中に話しかけるのは無理そうだった。彼女の隣に座っている男子は緊張しているようで嬉しいはずなのに話しかけずにいた。

 一方男子とは反対側に座っている女子は話しかけたくてソワソワしているようだった。だが真面目なのか、休み時間まで我慢するようだった。


 先生が出ていき、ホームルーム終了のチャイムが鳴ると、彼女──綾川さんの隣に座る女子を始めとした多数の女子が綾川の元へ集まってくる。転校生イベント定番の質問攻めがスタートしていた。男子はというと、女子に先を越されたために話しかけずにいた。


「さすが女子だな。恐ろしい勢いで行ったな」

「そうだな。泰介なら女子の中に飛び込んで綾川さんと話が出来るんじゃないか?」

「無茶言うな。いくら女子と仲がいいからって、あんだけ女子が集まって楽しい時間を壊すほど無粋じゃねーよ」

「そういうところは尊敬するよ、まったく」


 綾川は質問の雨を見事なまでに消化していく。質問をすべて聞きながら一つずつ答えていく。それがまたすごかったのか、質問は途切れることなく続く。

 その様子をじっと見ていると、ふと綾川と目が合う。周りにバレないように笑顔を向けられるも、こちらからは突然のことで何もできなかった。


「お、おい…。今、お前に笑いかけてなかったか…?」


 約一人にバレていたようだった。泰介は信じられないと言わんばかりの震え声で言ってきた。


「気のせいじゃ、ないか?」

「いやいや、絶対気のせいじゃない!おいお前、綾川さんと面識あるのか?」

「ないない!」

「ホントかよ?」

「もし知り合いだったらもっと話してるって、な?」

「ほー、まぁそういうことにしてやるよ」


 何が起こっていたのか全くわからなかった。時間が進むに連れ周りに集まってくる人の数も減ってきて、3時間目終わりには気軽に話しかけれる程度にまで落ち着いていた。


 昼休みに入ると、誰が放課後に学校案内をするのかの話が広がっていた。皆やりたそうにしていたが、部活のある人は自然と除外されていった。部活に入っていない人はクラスの4分の1と少なかった。その中で誰が行くかと、大した内容でもないのにも関わらず、大事になりつつあった。

 泰介は学校案内をしたそうにしていたので、話し合いに参加していたが、俺はそこまで興味があったわけじゃなかったから参加しなかった。というより、夢のせいでだいたい分かるから参加する必要がなかっただけだった。もしかしたら、これで未来が変わるなんてこともあるかも知れないが。


 話し合いは収集がつかなくなり、結局綾川さんが指名するという形式になった。部活がある人はなぜかとてもやる気になっていて、指名してくれたら部活を休むと言い出す人まで出てきた。


「さあ、綾川さん!誰に案内してもらいたい?」

「え、えっと、あの」


 クラス代表が仕切って綾川さんに問いかけるも、今日会ったばかりで全員が知らない人なのだから、この困惑は当然の反応だろう。なかなかに酷なことをするものだ。


「えっと、じゃあ」

「うんうん」


「じゃ、じゃあ」


 次に続くのは人の名前だろう。クラス全体が誰の名前を言うのか気になるのと同時に、自分を選んでほしいという期待で埋め尽くされていた。


「……た、竹浦…君」

「えっ!俺!?」


 予想外の指名に声が裏返ってしまった。いや、予想外ではなかったものの、やはり指名を受けるとわかっていても驚く。

 綾川さんの方を向くと頬を赤らめてこちらをチラチラと見たり見ていなかったりと落ち着いていない様子だった。その様子には、自分もクラス全員も、困惑を隠しきれなかった。

最後まで読んでくれてありがとうございます!次話も気長にお待ち下さい(_ _)

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