21 親友と
司と七海の戦闘から始まります
「後ろに回ると見せかけてきて本当は正面!」
「くぅ!」
ビルの屋上、爽やかな風が吹き去っていく中で二人の力がぶつかり合う。
「はは、舐めんなっつたろ、美里」
「あなたの能力は人を殺さない戦闘には向いてないのよ」
「はっ!こっちは種さえあれば武器になるんだ。特にたけのこは使いやすい」
こんな楽しい戦いは初めてだった。戦い方は思春期のときに発案したが、実践したのは今回が初めてだった。
俺の能力は使いこなすのに時間が掛かった。木を成長させるとどうしても根が俺にまとまりつく。部分的な成長は慣れていても難しい。今じゃ息をするようにできるが。
今使ってる竹は、リーチもあるし軽い上に上部で扱いやすい。屋上で使うには長すぎるから節で折ってるものの一番使い勝手が良い。
「はあ!もうちょい!」
竹を槍のように突き、大太刀のように振り回す。美里に近づかれたら一瞬でねじ伏せられる。それを回避うる為には遠距離からの攻撃が必須になる。
美里も襲いかかってくる竹を横へ受け流し受け流しジリジリと近づこうとするも、別の植物で遮られる。
そんな攻防を繰り返しているうちに屋上は数多の木が密集する小さな密林と化していた。
「くっ!木が邪魔ね!」
圧倒的なパワーで木を薙ぎ倒していく。それでも止まることを知らない植物たちは種類を問わずに生え放題のカオス状態になっていた。
「これじゃ存在を消しても意味ないじゃない」
死角からの攻撃、気配を察知してすんでのところでガードする。飛んできた──否、伸びてきた竹を折って投げつけるも大木で阻止される。
「何なのよあいつ!植物使いにでもなればいいのに!」
スピードを上げて周辺の木を次々に蹴り、殴り倒していく。気配のした方に折った枝を投げつけたりするも防がる。
「これがお前の力か?弱くなったな」
「うぐっ!」
いつの間にか近づかれていて、至近距離からの竹の攻撃を防御できずにもろに受けてしまう。
「ふう、ふう、落ち着くのよ私」
私の能力は自分の存在の操作。自分の位置がバレなければ近づかれることもない。邪魔だからと木を薙ぎ倒していたのは逆効果だったわね。
「悪かったわね。そろそろあなたを楽しませてあげる」
司もそろそろ種が切れる頃。ここからは私の番よ。
心を沈め、鎮め、無の境地に立ち入る。今ここに、私はいない。
「気配を消したか。植物に触れればある程度分かると思ったが、本気で消しに来たな。面白くなってきた!」
美里の気配を消す能力は単なる透明化とは一線を画す。ただの透明化なら、どこを歩いているのか目に見えてなくても存在で分かる。
けど、美里の能力はたとえ姿が見えていたとしても、認識できない。だからまるで透明になったかのように感じる。
存在でも視覚でも察知できないなんて強すぎる。そんな美里でも完全に隠しきれないものがある。それは……
「くっ!うしろぉ!」
間一髪で攻撃を防ぐ。1度の殴打だけで竹がへし折れてしまった。
「なんてパワーだよ。けど、やっぱり隠しきれてないな」
唯一隠せないものは『殺気』。殺す気はないから今は薄いが、殺す気で来ないと俺に勝てないと踏んだのかさっきから殺気が漏れ出ている。
「探れんのがそれだけって結構辛いな」
種もそろそろ底をつきそうだった。
「あんま無駄遣いも出来ないな。ってこれは」
気が付かない間に木が倒されていた。いや、気が付かない訳がない。人が木に触れるとその感覚が俺に伝わるからいつもなら分かる。だから倒されて分からないはずがなかった。
「これはまずいな。これは存在を消すなんてレベルじゃないな」
急激に膨れ上がる殺気を感じ、咄嗟に後ろを振り返る。外からでも中身を抉られそうな感覚を腹に味わいながら後ろに吹っ飛ぶ。
「がはぁっ!」
巨木に背中から打ち付け、吐血する。一撃を食らっただけでのこの威力。次受けたら立つこともできなくなる気がした。
向いている方へ一直線に木を伸ばす。立っていた無数の木を巻き込んで破壊していく。美里を倒したのかもしれないという期待もつかの間、後ろから強烈な殺気を感じた。
もはや無意識の境地の中で竹を振り回して攻撃を防いでいた。
「っぶな!」
全方位に巨木を伸ばしていく。尋常じゃない重量が乗ったスピードはあらゆるものを破壊し尽くす。もはや屋上としての機能は破壊されており、多くの巨大な丸太が無造作に散らばっているだけだった。
「まじで何処いんだよ!」
障害物として活躍してくれていた密林を全て薙ぎ倒し、まっさらな状態にしたというのに、一向に美里の姿がつかめない。
「これはちょっと無茶するか」
ポケットから複数の小さな瓶を取り出す。
「これだけ暴れても割れないとかすげえな」
それぞれの瓶の蓋をとって中に指を突っ込む。ぬめりとした感触に少し嫌悪感を抱きながらも能力を発動すると、それぞれの瓶から多種多様な動物が生み出された。
ライオンにトラ、ハイエナといった強力な野生動物たちが活発に動き出す。
「全員、俺と七海が親だ!言うことを聞け!」
生み出された全ての動物が動きを止め、こちらを向いて座り込む。
「殺気を感じ取って襲え。けど殺すのはダメだ!殺そうとしたやつから、殺す」
誰もがひれ伏してしまうほどの殺意を放って圧倒的な実力差を感じさせる。百獣の王と名高いライオンでさえもむやみに動けなくなるほどまで恐怖で押さえつける。
「わかったなら行け!」
その言葉を合図に動物たちが思い思いに動き出す。油断せずに竹を構えて警戒をする。
すぐに殆どの動物が同じ方向へ体を向ける。瞬間ハイエナの体が弾け飛んだ。体中から血を撒き散らしながら地面に叩きつけられる。
獣たちは物怖じせずに美里の方へ走り出し捕らえようと奔走するも、そのことごとくを返り討ちにされる。鮮血が花を描き、蝶のように舞い上がる。
司の切り札と言える獣たちの進撃を、美里は全て返り討ちにしてしまった。
「に、人間じゃねぇ」
程なくして少し離れた場所に美里の姿を捉えた。流石に能力を使えなくなるほど体力を使い切ったらしい。
「が、ごはぁっ!」
「美里っ!」
膝から崩れ落ち大量に吐血するその姿に焦りを感じる。そのままドサリと倒れた美里の元へ急いで駆け寄る。
「美里!大丈夫か!?」
抱き上げて息の確認をする。微かに息はしているもののいつ心臓も止まっても仕方ない状態だった。
ポケットからこぼれ落ちた何かを見つけ驚愕する。
「これ、まさか肉体強化剤……ドーピング……っ!」
元々の戦闘力に肉体強化のドーピングを重ねていた。だからこそあんな人間離れした動きができたのだろう。
「七海!」
隣のビルに避難させていた七海を呼び寄せて美里の治療を頼む。
「記憶がちょっと消えるけどいいの?」
「ああ、こうなるより少し前まで戻してくれ」
「……わかった」
七海に治療を任せて少し休憩しようと座り込むと、手に1枚の紙とキューブが握られていることに気がついた。
「これは……Kから!」
『夢汰くんが危ない!済まないが直ぐに行ってくれ!そのキューブを使ってくれ』
「まじかよ……。いつかのキューブだな。七海、夢汰のところに行ってくる」
「わかった、気をつけてね」
「ああ」
体の衰えが憎く感じる。さっきの戦闘でごっそりと体力が抜け落ちてしまって思ったように足が動かずもつれてしまう。
「ここだな……」
屋上から数階下とはいえ全く影響の出ていない姿を異様に思いながらも高尚な扉を見つける。
「夢汰っ!と、お前は!」
ドアを蹴り破ると夢汰が一人の女の子を抱きかかえながら蹲って涙を流していた。それを楽しげに見つめる男性が目に入った。その様子から紛れもなく敵だというのは判断できた。
「お、誰か来たようですね……って、あなたは!」
こちらを見るなり知ったような口ぶりに不快感を表す。
「俺はお前を知らない!」
一方的に知られているというのはなんとも気持ちが悪いものだ。
「会うのは初めてですから。けど、私は貴方を知っています」
「なぜ知ってる」
「貴方も私のことを知ってるはずです、いや、はずだよ?………兄さん」
にぃと口を横に広げて再開を懐かしむような、獲物を見つけた獣のような、恐ろしい笑みを浮かべた。
俺を兄さんと言ったその男の顔も名前も声も、何もかもを知らなかった。けど、何となく面影が自分と似ているのは薄々感じていた。
男の顔はさっきまで夢汰に見せていた誰の顔ではなく、本当の彼自身の顔をしていた。ある程度年をとっているはずなのに、若く見えてしまう部分は司と違ったところだった。
「兄、さん……?俺に弟がいた記憶はない」
「つれないこと言わないでよ〜。兄さんに会うためにこれまで頑張ってきたんだからさ」
「お前の目的は何だ!」
「えー今言った通りなんだけど。兄さんに会うためだよ」
「なら、ここまでする必要は無いだろう!」
「あははっ!冗談だよ。僕の目的は───兄さんを絶望の底に落とすことだよ」
きっと本当にそれが目的なのだろう。目的なのだろうがやはり納得がいかない。
夢汰や美里などと話していたときとは打って変わった場違いな陽気さが、男の不気味さを際立てていた。
「絶望の底って、俺がお前に何したって言うんだ!」
「んんー何もしてないよ?けど兄弟なのに幸せが均等じゃないって不平等じゃん」
「は?」
「もー最後まで言わなきゃわかんないの?」
「……いや、いい。俺たちの目的は夢汰の回収だ。お前の話を聞いている時間はない」
「あっそ。じゃあやってみな」
ポケットから一つの物を取り出して床に叩きつける。瞬間目が潰れてしまいそうになるほど強烈な光が放たれる。
「閃光弾っ!?」
男が驚いて動けていないうちに夢汰の元に駆け寄る。抱きついている女の子から引き剥がそうとするとどこからそんな力が出ているのか、離れようとしなかった。仕方なく二人を担ぎ上げてすぐにその場から離れる。
閃光弾の光が収まった頃には、男以外誰も居なくなっていた。
「あーらら、逃げられちゃったか」
男は焦る風でもなく、楽しそうに口を歪ませるだけだった。
最後まで読んでくれてありがとうございます!次話もお楽しみください!




