2 僕の能力
第二話になります!最後まで読んでくれるととても嬉しいです!
頭に響くアラームを消して布団にうずくまる。
「んー」
短く唸り声を上げて起きることを自分が自分に拒否する。時計の針は非情にも進んでいき、起きなければいけない時間はどうしてもやってきてしまう。俺にとってはそれもいいと思っているから関係ないが。
ダッダッダッ、バン!
廊下を走る音とともに扉が勢いよく開く音も部屋の中に広がる。
「起きてよね!お兄ちゃん!」
制服姿が光る我が自慢の妹、竹浦りなだ。妹が起こしに来てくれるならそれまで起きなくても良いのではないかと考えている。昔からしっかり者のりなは毎朝俺のことを起こしに来てくれる。りなが中学生になってからは制服が光るようになって早起きしなくなってしまった。このまましばらく寝ててもいいけれども仕方なく起きることにした。
「おはよう、りな。今日もいい景色だな」
「もう、何言ってるの?早く降りてご飯食べよ。先行ってるからね」
そのまま部屋を出ていき、再び静寂が訪れる。ガサガサと布団を擦らせてどうにかベッドから這い出る。そのままクローゼットへ直行し、寝間着から制服に着替える。髪をクシで簡単に整えてから洗面所へ行き顔を洗ってうがいをする。
リビングに入ると、テーブルの上には料理が並べられていて、周りには妹、お父さんが座っていて、お母さんだけはキッチンに立ってお弁当を作っていた。
「おはよう」
「おはよう、夢汰」
「あ、ようやく降りてきた!遅いよお兄ちゃん」
「おはよう夢汰。もうご飯できてるから食べてね」
何気ない日常。幸せを噛み締めながら夢の記憶が振り返られる。
いつもと同じ時間、校門を通る手前であいつにいつも出会う。俺が歩いてくる方向とは逆からやってきて、合流するとほぼ同時に校門を通る。
「よお、夢汰。あいも変わらずいい顔してやがる。もちろん皮肉だぜ?」
「知ってた」
皮肉と言ってしまっては台無しではないかと思いながら互いに朝の挨拶を交わす。隣で歩いているのは学校て上位に入るであろうイケメン、北条泰介。なぜ仲良くしてるのか自分でもよくわからない。
「そういや今日って数学のテストだろ?ちゃんと勉強したのか?」
「は?あーあったような気がするな」
「その様子じゃやってねーな?」
「もちろん。そう言うお前はやったのかよ?」
「いいや?」
「やってねーじゃねーか!」
直前に確認しよう、と互いに決め合って教室へと向かう。
「席に座れー」
チャイムが鳴った直後に教室の扉が開き、男性の教師が入ってくる。
「テスト配るから筆記用具以外は全部片付けろよー」
先生が荷物を置いて挨拶を済ませると、間髪入れずにテストが配られた。全員に行き渡ると開始の合図が出される。
「まんま同じだな」
夢で見たものと全く同じ問題が出ていた。夢での予習に加えてさっき泰介と勉強をしたから俺は大丈夫だった。泰介の方は容易に想像できるが。自業自得だな。俺もせこいとか言われそうなものだが、知っているのは俺だけなのだから誰も文句は言わないだろう。
前の黒板を見ると、
『小テスト 10分』
と、書かれていた。
4分後、テスト終了の合図が出されて、後ろからプリントが回収される。それからはいつもと変わらない授業が始まった。
3時間目も終わり、4時間目に入る前の休み時間中、泰介が今流行のゲームの本を持って来た。
「こいつ倒すのにこのデッキが必要なんだぜ?無理ゲーだろこんなの。なあ」
「俺そのゲームやってないから知らん」
「はあ?まじかよ。これやってないとかもったいな!人生損してるぜ?」
「なわけあるか」
「じゃあこれやってるか?」
ゲーム本を開いて机に放置したままポケットからスマホを取り出す。
俺の視線は泰介のスマホではなく、少し離れたところで消しゴムを投げあっている男子の二人組だった。もうすぐで電灯が落ちる事故が起きてしまう。それをなんとかして回避しなければならないが、どうしたものか。
「わりぃ、ちょっと席外すわ」
「…からこのゲーム面白いん、だ?ああ、おっけ」
一つ案を思いついて席を立つ。二人のうち消しゴムを投げようとしている方に投げる直前、声をかける。
「なあ田中」
「お?どうした?」
「さっき秋野先生が田中のことを探してた気がするんだ。気のせいだったらいいんだけど」
「秋野が?うわ、一応行ってくるか。教えてくれてサンキュな」
「おう」
「ちょっと秋野のとこ行ってくるなー」
もちろんハッタリだ。でも、消しゴムが電灯にぶつかってすぐそこで静かに本を読む女子の頭に落ちる惨劇は回避された。田中には申し訳ないことをしたが、許してほしいものだ。
信号前、俺と泰介は横断歩道の信号が青になるのを待っていた。今日は帰りにゲーセンに寄ろう、ということになったからいつもとは違うルートでの下校になる。お互いに話すことは特になかったために、スマホを開いて時間を持て余していた。
俺は、スマホを開いているもののホーム画面から一切移動していなかった。意識は全部周囲にそそがれていた。目の前ではたくさんの車が行き交っていた。
少し遠くでは数人の子供がボールで遊んでいた。ドッヂボールだ。投げてはキャッチし、時には当たってしまい、描かれたフィールドの外に出ていく。そんな一連のサイクルが目まぐるしく過ぎる。誰しもミスをすることがある。投げたボールはあらぬ方向に投げられて本来いくべき場所には行かずに風に乗って遠くへ飛ばされる。
「ああ!」
一人の少年がボールを追いかけて走っていく。コロコロとボールはスピードを緩めることを知らずにぐんぐん進んでいく。
ボールと少年に距離はあるものの、少年の方が少しばかり速かった。ので、追いつくことは可能だった。でも頑張って追いかけてボールを捕まえる場所は───
「赤信号の道路……」
なんとしても阻止しなければならない。近くに大型のトラックが近づいてきていた。少し遠いがあのスピードならすぐに少年のいる場所に着くだろう。容易に想像できる結末、ボールを追いかけてトラックが近づく道路に飛び出していく。
「はい、気をつけて遊ぶんだよ」
その前にひょいとボールを拾い上げ、追いついてきた少年に手渡す。
「あ、ありがとうございます!」
肩を上下させ息を切らしながら、笑顔を浮かべて感謝の言葉を述べる。そのまま走って友達のもとに戻っていく。途中で止まると、振り返って手をふる。こちらも小さく手を振り返し、泰介の元へ戻る。
「おいおい、お前が何もしなかったら大事故起こってたな。ファインプレーだな」
「まあな」
親指を立ててグッドサインを出してくる泰介に少し得意げな顔をして、戻ってくるまで待っててくれていたことに感謝すると共に青になっていた信号を渡る。
今日起こる悲劇はこれで全てだろう。しかし、今日のはいつもより人命がかかっていたような気がして眉をひそめる。
「こういうときって大抵良くないことが起こる前兆だもんな」
心のなかで深い溜め息をつき、今日見るであろう正夢を想像するだけで胃が痛くなるのを感じた。
その日の夜、ベッドの中で夢のことに思考を巡らす。正夢は万能は決して万能なものではない。ほぼ毎日見ることはできるが、正夢を見るには夢を一つ経由しなければいけない。つまり、夢の中で寝て見た夢が現実の正夢になる、ということ。内容も断片的なもので時間も短い。
昨日見た正夢は珍しく調子が良かったのか、比較的しっかり見ることができた。おかげで全部の悲劇を回避することができた。でも明日も今日みたいに都合よくいくとは限らない。
それに最近の1つ目の夢もおかしい。前までは夢を見ていると自覚のある明晰夢だったのに、最近は正夢でも見ているかのような感覚に陥っている。昨日は病院で寝てる夢を見たし、その前は車に惹かれる夢だし。
「なんなんだろうな」
自分自身、自分の能力について完全に熟知しているわけじゃない。わからないことのほうが多い。ただ、考え続けるより寝て理解を深めるほうが一番いいのだと考えている。だから正夢を見るために、良い明日を迎えれるように、今日も眠りにつく。
最後まで読んでくれてありがとうございます!投稿不定期なので次話も気長に待ってくれるととても嬉しいです。なるべく早く出せるようにがんばります♪