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現実はいつも夢から  作者: aciaクキ
19/35

19 忍び寄る悪魔

三人の視点が描かれます

 Kから届いたと示している手紙を見つめながら嬉しさを噛みしめる。


「すげえな、Kって」


 俺が捕まっていることも全てお見通しなのだろう。でもここは能力は使えない。なぜここにKからの支援物が届いたのだろうか。

 手紙の表を向け、内容を読み込む。


『遅くなってすまない。結界の影響で手紙とキューブ一つしか送れなかった。時間もない、キューブの説明をする。それを持って欲しい物を頭の中に思い浮かべると、それに変形してくれる。ただし変形回数は3回まで。有効活用してくれ。外には妹ちゃんが居てくれている、外へ出たら合流してくれ』


 短い文で完結にまとめられていた。りなが待ってくれているのだという。それはとてもありがたかった。

 床に転がっているキューブを手に取りまじまじと見つめる。


「あっ」


 どこかで見たことがあると思ったら、これはKに初めて会った日に運ばされたキューブの一つだった。こんなところで見ることになるとは思ってもみなかった。

 3回までしか使用できないこのキューブは慎重に使う必要がある。まず1つは牢屋の施錠を解除する鍵、2つ目は何か武器系統が良いだろうか。玲奈を放って外には出られない。といっても玲奈は今、別人格の支配下にあるうえ、今どこにいるのかもわからない。もしボスとか言う人物の元にいるのだとしたら連れて行くのは不可能だ。でもこのまま脱出したら玲奈がどうなるかわからない。最悪殺されるなんてこともあり得る。


「でもここに居ても研究で使い潰されるだけだ」


 どうするべきか。複数のビジョンを思い浮かべ、何が最善なのか考えを巡らせる。


「これしか思いつかないな」


 もっと方法はあったかも知れないが、今思いつく限り一番いいのはこれだろう。


「よし。はじめよう」


◇◆◇◆◇◆


 コンコンコンと一定のリズムで刻む音が施設内に広がる。隣には朝とは別の男性がうつろな目でお盆を持ちながら歩いていた。洗脳とも呼べるボスの能力には恐怖とは別に純粋に尊敬してしまう。あそこまで能力を応用して使用する能力者はそこまで多くない。ボスたるべき存在だからボスなのだと片元が言っていた。

 もうすぐで囚われている夢汰がいる牢屋に到着する。我が体の主、玲奈はあの男のどこが良いのか私にはさっぱりわからなかった。


「おい、昼ごはんを持ってきてやったぞ。食べろ」


 ちらりとベッドの横に置かれている持ってきてるものとは別のお盆を見る。その上には中身が空になった容器が置かれており、朝ごはんを食べた証拠が残っていた。


「なんだ?朝とは打って変わって随分とおとなしいじゃない。まだお昼だってのにもう諦めたのか?」


 ベッドの布団が盛り上がっていることから、寝ているのかも知れないと思いながらも話しかける。何を言っても微動だにしない夢汰を不審に思いながら、男に昼ごはんを置いて朝ごはんを回収するように命じる。すぐ近くで人が動いているというのにピクリとも反応しない。本当に寝てしまったのか。


「チッ、おもしろくない。次から片元に変わってもらおう」


 何にも反応しない夢汰に完全に興味を失いその場を後にしようとした矢先、ドサリと何かが倒れる音がして後ろを振り返る。地面に倒れ込んでいる男を視界に入れた直後、後ろから何者かが首に腕を回してきた。


「動くな」


 一言だけボソリと耳元でつぶやくその声には聞き覚えがあった。


「まさか、夢汰?」

「黙れ。じゃないとどうなるかわかってるな?」


 そう言いながら目の前に何かを見せつけてくる。バチチと電流が流れる姿はスタンガンそのものだった。


「わかった、黙る。だから開放してくれない?」


 もちろんこのまま従うわけがない。開放した瞬間男の急所を狙って痛がっているうちにスタンガンを取り上げてやる。


「わかった。今開放する」


 来た。そう思い行動する準備を整える。ゆっくりと腕が開かれるのを感じながら動こうと首を動かそうとすると、ガクリと膝から地面に崩れ落ちた。


「え?」

「悪いな、今の玲奈は信用できない」


 本当に最低な奴だ。黙るって言ったのにスタンガンを当ててきやがった。おかげで意識が、飛び、そ…………


◆◇◆◇◆◇


 俺は牢屋の中で軽い細工を行っていた。

 1つ目にキューブを変形させるのは鍵だ。玲奈が朝に使っていたのを見ていたおかげでしっかりと覚えていた。

 頭に鍵の形状を思い浮かべて目を閉じる。手の内でうねうねとキューブの形が変わっていくのを感じた。動きが収まった時点で目を開けると手の上には玲奈が使っていた鍵が手に握られていた。


「おお、すげぇ」


 形が合っているのを望みながら恐る恐る鍵穴に差し込む。スッと入っていき、回すと、ガチャリと鍵が開く音が響いた。


「よし!」


 年の為に鍵はそのままにしておき、メインの作業に取り掛かる。

 枕を使って布団を盛り上がらせる。キレイに安定してくれず、試行錯誤を重ねたがやっとのことで自然な山が出来上がった。これでパッと見は蹲って寝ているように見えるだろう。

 不自然のないように枕が置いてあった場所に布団の山を移動させる。


「さて、次で最後だな」


 2つ目にキューブを変形させるのはもう決まっていた。殺さずに且つ気絶させることができる武器、スタンガン。

 実際に触れたことが無い代物だが、このキューブは想像するだけで出来上がってくれるご都合主義的な代物だ。あまり心配はしていなかった。

 

 スタンガンの姿かたちを思い浮かべる。手に鍵を握りしめて目を閉じると、またしてもうねうねと形状が変化していく。

 徐々に膨れ上がっていき、長い棒状の物体が出来上がっていく。

 目を開けると、多少補正はかかっているものの思い描いていた通りのスタンガンが出来上がっていた。

 牢屋の外に出ていき、鍵を締める。鍵式南京錠だったおかげで締めるのに鍵は必要なかった。影に隠れてコンディションを整える。

 これであとは玲奈が来るのを待つだけだった。


 目の前で横たわる玲奈を見ながら異常に上がった心拍数を抑えるように深呼吸を繰り返す。


「ここから出ないと」


 手の震えを誤魔化すようにスタンガンを強く握りしめる。

 玲奈は牢屋から見て右から来ていた。気絶した人を運ぶのは骨が折れそうなほど大変だが、ここで音を上げるわけにはいかない。


「よいしょ」


 落ちないように慎重に玲奈を背負う。男は放置して玲奈たちが来た方向へ足を運ぶ。しばらく歩くとエレベーターが一台だけあった。


「これは……駄目だろ」


 おそらくここを使ったんだろうけど、純粋にここを登ったら敵陣にそのまま突っ込むような気がしてならなかった。

 とはいえそれ以外にここから脱出できそうな場所はなさそうだった。


「今更だけど、ここ地下か?」


 エレベーターがあるということは地下の可能性が高い。ならば地上に出るしか脱出方法はない。


「やっぱり……」


 やっぱりエレベーターを使うしかここを出るには方法がないようだった。

 意を決してボタンを押す。機械的に扉が開き、禍々しい雰囲気を醸し出しながら俺が乗るのを待ち続けていた。


「あれ、地下行きのボタンがない」


 ゆっくりと乗り込んで階層ボタンを見ると、地下行きのボタンがないことに気がついた。


「じゃあここ、1階……?」


 でもとりあえずは1階を押すことにした。

 ガタンと大きく揺れたあと、ゆっくりと上へ動き出した。どこまで上がっていくか分からないが、とりあえず玲奈を座らせ、何が来てもいいようにスタンガンを構える。

 チン、と音と共にゆっくりとエレベーターの動作が遅くなり、すぐに完全に止まった。扉が開いていくのと同時に光が差し込んでくる。

 完全に扉が開ききったとき、目の前の存在からの情報量に脳が処理しきれず思わず思考が停止してしまった。

 構えていたのにも関わらずに完全なる不意打ちを受けてしまった俺は、なす術もなくその場に膝から崩れ落ちてしまった。


「さて、玲奈さん、起きて彼を運んでください」

「……」


 ゆっくりと目を開いた玲奈は黙って夢汰を壁にもたれさせる。


「方元さんとはよく喋っているのに、私の言うことにはいつも黙るのはなんででしょうね。まあ良いです。彼を私の部屋へ運んでください」


 玲奈は黙ったまま最上階のボタンを押し、ゆっくりと上がっていった。


「私も行かないといけませんね。それより先にすることがありますので、それを先に終わらせましょうか」


 男は堂々とした足取りでロビーへと向かった。


◆◇◆◇◆◇


 今私はある会社の玄関口に立っている。なぜかというと、Kに頼まれたからだ。


 今朝目を覚ますと机の上に手紙が置いてあったから見てみると、差出人はKからだった。何事かと思って手紙を見てみるとお兄ちゃんと事が書かれていた。

 昨日から帰ってなかったから何かあったのかと思ったら拉致されたとは思ってなかった。手紙を読んだときは動揺で倒れるかと思ったが、Kは既に場所を特定していた。

 場所はあの超大手会社のファミナル製薬会社だった。そこに行ってお兄ちゃんが出てくるのを待っていてほしいとのことだった。直接助けに行きたかったが、お兄ちゃんがいる所は能力が使えない結界が張られてるらしい。

 K曰くその結界は許された人しか能力が使えないらしかった。

 そういうわけで私は朝からお兄ちゃんをずっと待っている。


「やっぱ中に入ったほうが良いかな?」


 こういう会社には今まで来たことがなかったから勝手が分からずにずっと外でうろうろしていた。おかげで色んな人にチラチラと見られる羽目になってしまった。

 待ち始めてからしばらく経って、時間的にはお昼に差し掛かっているのにお兄ちゃんが出てくる様子が全く無かった。

 

 ビルに入っていく人が減ってきて、2,3人で出てくる人が増えてきた。その中で一人だけこちらに近づいてくる人物が見えた。

 一瞬お兄ちゃんかもと思ったが、すぐに知らない男性だということに気がついた。興味を失い視線を外すと手元に紙が置かれていた。掴んで見てみると、Kからだった。


『逃げろ!』


 その一言だけしか書かれてないようで、今までちゃんとした手紙が使われていたのに今回だけ紙の切れ端を使っていることから緊急なのだということを察した。

 しかし一体何から逃げたらいいのだろうか。ふと、こちらに近づいてきていた男性が頭に浮かんで見てみると、さっきよりも更に近づいていてこちらを見つめているようだった。

 手には更に別の手紙が握られていた。


『近づく男から逃げろ!』


 やはりその一言だけで、焦っているようにも見えた。近づく男というのはやはりあの男なのだろうか。

 気がついたときにはすぐ目の前に来ていて、やはり私に用があったようだった。


「どうもお嬢さん、こんにちは」

「こ、こんにちは……」

「朝からここにいたから少し気になってしまって。何かここに用があったのかい?」

「い、いえ、人を待ってただけで……」


 緊張で手を握ると、また別の紙があった。


『いいからそいつから早く逃げろ!!』


 さっきよりも鬼気迫った内容に少し危機感を覚えて、その場を立ち去ろうとする。


「ご、ごめんなさい。私にもう帰るので」


 方向転換し、男から遠ざかろうとすると、がしりと腕を掴まれてしまった。


「ちょっと待ってくれ」

「い、いやっ!離してください!」


 叫び声を上げて暴れているのが周囲の人の目に入り、この瞬間だけ注目の的となっていた。誰から見ても男性が女の子に言い寄っているという犯罪的な光景として見えていただろう。

 しかし、少し見ただけでりなの声に反応した人は皆すぐに興味を失って日常に戻っていく。


「なんで……」


 何事もなかったかのように過ごす人々に異様さを感じ、すぐさまにここから立ち去ろうとするも、また男に腕を掴まれてしまう。見えている人はいるはずなのに誰も助けてくれない。まるで見えてないかのように過ぎ去っていく。


「はっ、離してっ!」


 必死に暴れて腕を振りほどく。瞬間に言いようもない感情に支配される。きっとこれに名前をつけるなら、恐怖や畏怖だけじゃない、尊敬の念も混じったような感情だろう。頭の中がぐちゃぐちゃとかき回されるような感覚に陥り、正常な思考ができなくなってくる。膝をついた瞬間、それらが一瞬にして無くなった。

 目の前には小さな社が鎮座していた。


「ここは……」


 落ち着いて周りを見てみると、さっきの男は目の前から居なくなり、周囲の人も姿を消していた。無意識的にあの状況から能力を使って脱出したのだろう。


「はあ、はあ、間一髪だった……」


 どっと疲労感が押し寄せてきて、その場に倒れ込みそうななったものの気力で抑え込み、社の近くへと移動する。


「前来た時どうやって行ったっけ」


 前回はお兄ちゃんが案内してくれた。社の前に立ったとこまでは覚えているのに、Kのいる世界までの経路がどうしても思い出せなかった。足元からカサリという音がして下を向くと、一枚の紙が落ちていた。拾い上げると案の定Kからで疑問の答えが書かれていた。


『社の扉を開けて、中に置いてある本を開けたら来れるよ』


「社の扉を開けて……本がある!」


 紙に書いてある通りに行い本を開く。


「きゃっ!」


 本から放たれた光が周囲に広がっていき、目の前が白で満たされていく。目を閉じてもなお明るい光は意識と同時に暗くなり、爽やかな風と心地よい緑が私を刺激する。


「ん、んん」


 目を開けると、二度目になる広い広い永遠に広がる草原が飛び込んできた。

最後まで読んでくれてありがとうございます!次話もお楽しみください!

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