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現実はいつも夢から  作者: aciaクキ
18/35

18 悪夢の始まり

 窓から外を見ながら心拍数が上がっていくのを感じていた。問題の体育の時間は次の授業だ。今の授業ももう終わろうとしていた。


「もうすぐだ……」


 襲撃に来る人はきっと片元だろう。根拠はないがそんな気がしてしまう。

 チャイムが鳴って授業が終わる。できることはなるべくやるつもりだ。朝、家で用意したカッターナイフをポケットに忍ばせて更衣室へと向かう。


 カッターを体操服のポケットに入れながら野球をしていた。時々落としそうになって肝が冷えたときもあったが、無事問題の場面まで難なく来ることができた。

 カッターでの迎撃。もっと色々と出来ることは沢山あっただろうが、これしかないと今では思っている。というより学校に来た時点で覚悟を固めていた。

 玲奈が学校を休んだ。

 その事実が決意を固めた最大の理由だ。Kのとこで見たあの夢の続きには玲奈が出てきた。そして今ここにいないということは既に片元に連れ攫われたということ。

 玲奈に会うには俺も攫われるしかない。でも、やられるだけでは終わりたくない。だから少しでも抵抗をする。


「わりぃ!夢汰、ボールは頼んだ!」


 ボールが遠くまで飛んで神草に入っとこでそんな声が届いてきた。

 

「はいはーい!」


 来た、と心のなかで覚悟を決めてボールを取りに神草の方へ走っていく。

 神経を後ろに向けて、ボールを探すふりをする。


 ガサリ、と何かが草にこすれる音が後ろでした瞬間前回りで後ろと距離をとる。直後、ブオンと鈍器を振り下ろすような音が聞こえた。


「間一髪……っ!」


 一撃目を避けたことで少し余裕が生まれた。カッターを握りしめ、後ろを振り向くとそこには誰もいなかった。


「あら、避けられるとは思ってなかったわ。夢で見たのかしら?」


 誰もいない場所から片元の声が聞こえてきた。姿が見えずに首を動かして一生懸命に探す。そして1つの考えに辿り着く。


「まさか、お前の能力って」

「想像とは少し違うかもしれないわね」

「どういうことだ?透明化じゃないのか?」

「さて、どうかしらね」


 片元のいると思われる場所を目を凝らして見続ける。するとうっすらとその姿を捉えることが出来た。完全な透明なら見えることはできないだろう。


「別に教えなくても良いのだけれど、私の初撃を避けたことに称賛して特別に教えてあげるわ」

「そりゃどうも」

「私の能力は気配操作」

「気配操作?」

「そうよ。その名の通り、私自身の気配、つまり存在感を薄くしたり濃くしたりすることができるのよ。だから誰よりも目立たせることもできるし誰も認識できないほど影を薄くすることもできるの。おかげで使いこなすまで苦労が絶えなかったわ」


 だから気が付かなかったのだ。そこにいるのは確実なのに姿が認識できない。というよりも意識すれば見えるのに、意識しないからその姿をとられることもできない。

 警官が倒されたのも存在感が認識できないから拘束する力を弱めてしまったからだろう。ならば……


「なら、その戦闘力はどう説明してくれんだ?何も持ってないようだけど?」


 さっき風も殴り倒すような音がしたから鈍器の1つでも持っているのかと思ったが、何も持っておらず手ぶらだった。

 思い返しても、警官たちも素手で倒していた。


「あら、これは自分で手に入れた技術よ。能力に頼ってないわ」

「嘘だろ……」

「嘘じゃないわ。私って昔から色んな人に狙われる存在だったのよ。特に男に。自分の護身のために独学で努力したの」


 もし本当に事実なのだとしたら、非常に手強い存在だ。素手でやりあえば殺されかねない。かと言ってカッターを使ったとしても通用はしないだろう。

 今この場面での最善策は逃げることだろうが、逃げきれば玲奈とは会えないし、そもそも逃げきれる気がしない。だから俺の取る行動は1つだけ。


「最後まで足掻いてやるよ」

「ええ、来なさい」


 敵と相対したときしてはいけないことは、目から視線をそらすこと。手練であればあるほど視線には敏感だ。

 俺のような素人は攻撃の際に攻撃を加える場所に視線を集中させがちになる。だから俺の視線は常に片元の目だ。


「はあっ!」


 短い距離を全力で走って距離を縮める。刃が届く場所まで近づくと、左の太ももに刃を突き立てるもそれが叶うことはなかった。それよりも右腕の激痛に耐えきれずに叫び声を上げてしまう。

 目で捉えられないほどのスピードで腕を殴打されて骨を折られてしまっていた。

 片元は滑らかな動作で口に腕を回し声を封じた。


「叫ばれたらここに人が来てしまうもの。ちゃんと声は封じておかないといけないわね。人が来ちゃったら口封じで殺さないといけなくなるもの」


 痛みに悶絶し、上手く返事ができないでいると、片方の腕が首に巻かれ締め上げられる。


「ゔ、がぁっ………」


 息ができずに意識がだんだんと遠のいていく。地面と足が離れぶら下がった状態になった瞬間、意識がプツリと途切れてしまった。



 酷く寂しい低音が頬を侵していく感覚が強くなって目が覚めた。


「こ、ここは……?」


 周りを確認すると、何度か見た牢屋の中だった。


「あら、ようやく目を覚ましたのね夢汰君」

「片元……っ!」

「そんなに怒らないでもらえるかしら?それともこれは夢に見てないのかしら?」

「玲奈はどこにいる!」

「ここであの子の名前が出るってことはやっぱり夢に見たのね」

「どこだ!」

「そう急かさないでちょうだい。今連れてくるから」


 片元の呼ぶ声に反応するかのように少し遠くから足音が響いてきた。


「夢汰くんっ!」

「玲奈!」


 夢で見たときとは違って手が後ろで縛られている状態で一人の男性に連れてこられていた。


「あんたは……っ!」

「こんにちは、夢汰君。はじめましてですか?」

「いや、久しぶりだ……」

「ああ、思い出したのですね。やはり貴方の能力は厄介で実に素晴らしい」


 夢で見たあの男と同じだった。あれから何も変わっちゃおらず、相変わらず礼儀正しく堅そうな人だった。


「あの日の、キャンプの日に怪我した玲奈を運ぶのを手伝ってくれた人……」

「ええ、その通りです。しかしまだそこしか思い出していないのですね」

「どういうことだ?」

「あのキャンプの日に参加した人全員の記憶に蓋をしました。もちろん身内は除いてですが。今の所記憶に干渉した方々の中で記憶を取り戻したのは貴方だけですよ。これだけでも研究が進むというものです」

「……誰も覚えてないのか」

「はい。あのキャンプが貴方とこの子、玲奈さんが初めて出会った場所ですから記憶は残せませんよ。そういうボスからの命令ですから」

「ボス……?」

「これ以上は怒られてしまいますのて言えませんね」

「佐野」


 佐野と呼ばれたその男性は玲奈を強引に引っ張り俺に見せつけるように格子に押し付ける。


「きゃあ!」

「玲奈!」


 佐野を睨みつけ、憎しみを添えて叫ぶ。


「お前玲奈を離せ!」

「良いですよ。ただし条件があります」

「条件?」

「はい。夢汰君、私達の研究を手伝ってください」

「……わかった。それで玲奈は助けてくれるんだな?」

「そう言ってくれると信じてましたよ。わかりました、玲奈さんは開放しましょう」


 そう言って玲奈の腕から手を離す。ゆらゆらと力が抜けたように玲奈が後ろに下がる。


「なーんてね!」


 どこから聞こえたのか。いや、それは明白だった。目の前の俯いた人物。あまりの唐突さに一瞬何を言われたのかわからなかった。

 ニィ、と口が左右に狂気的に広がり、甲高い声で盛大に笑い声を上げる。


「……れ、れい、な?」


 その声の主は紛れもなく、腕の縛りから開放されていた玲奈だった。


「あははははっ!ばっっっっかみたいっ!!」


 突然の出来事で何が起こっているのか理解できなかった。


「どうせ私のために研究に協力するって言ったんでしょ?ほんっとくだらない。そんなことで命を投げ出すなんて」

「な、何言って……?」

「あは!自己紹介まだだったね。私は綾川玲奈、よろしくね!」

「……別人格の玲奈か?」

「違うよ?」

「は?」

「って言ったらどうする?」

「違うはずがない!玲奈はそんな人間じゃない!」

「ねぇ君、私の何がわかるっていうの?何も知らないでしょ?」

「知ってる。玲奈は優しくて、顔に出やすくて、強い子だ!お前とは違う!」

「可能性は考えられない?」

「可能性?」

「そ、最初っから私で、猫かぶってた可能性。これが本当の私で君が接してた玲奈が別人格だった可能性」

「それは……」


 ない


「とは言い切れないんじゃない?」

「っ!」

「明日また来るね、《《うたくん》》」


 その言葉を皮切りに3人が去っていく。取り残された俺は呆然と、ただ呆然と座っていることしかできなかった。


 夜、かは分からないが何となく眠たくなってきた。ここで眠りたくはないから眠らないように我慢していたが、流石に限界が来たようだった。


「くっ!」


 唇を噛んで眠気を飛ばす。じわりと血の味が口内に広がっていくのを感じながら玲奈のことを考えた。

 本当にあれが本当の玲奈なのだろうか。別人格なのは確実だろうが、真面目に考えれば考えるほどわからなくなってくる。

 俺を道路に突き飛ばしたのはあの玲奈に間違いないだろう。でも、どっちが本当の玲奈なのか、分からない。

 少しの間しか一緒にいなかったが、あの優しい綾川が本物であって欲しい。そうあって欲しいのに、それを信じきれていない自分に嫌気が差した。


◇◆◇◆◇◆


「おい!起こしに来てやったぞ!」


 いつもは絶対に聞かない言葉にビクリと肩を弾ませて目を開ける。いつの間にか寝てしまっていたらしい。


「玲奈……」


 いつもの見た目とは一変してボーイッシュな服を着た玲奈は、いつもの玲奈ではなく別人格の玲奈なのだと理解させられた。


「囚われの身なのによく寝られたね。その神経の図太さには驚きだよ」


 寝ていた。改めてその事実を認識し、ある違和感を覚えた。


「夢を見てない……」


 寝るたびに見ていた過去視と未来視が今回は見なかった。


「この施設には能力を使えなくさせる結界が張られているの。だから君がいくら寝ようと夢は見ない」


 そう言いながら別の人がやってきた。見たことのない人で、この人も協力者なのかと見ると、目が光が宿っておらず虚ろだった。

 お盆を持ってきていて、その上には簡素な料理が並べられていた。


「朝ごはんよ。死なれちゃ困るからね。ちゃんとご飯は用意してあげるよ。ボスに感謝しなさい」

「ボス……」


 片元も言っていたボスと言うなの存在。すべての元凶はそのボスとやらだろう。


「明日からあなたの研究が始まるからそのつもりでいて」

「素直に従うと思っているのか」

「従わないとこの体の子がどうなっていもいいの?」

「死んだらお前もなくなるだろ?」

「さあ、そうとも限らなかもよ?」


 否定できないのが辛い。本当に俺にできることはないのか。


「今日はまだ暇な日だから、そこでアホみたいに捕まっていな」


 息をするように毒を吐いてその場を去っていくのを黙って見ていた。救助に来てくれそうなのは、Kか。


「いいや、バカか俺は」


 自分で脱出もできないなんて無能にも程があるだろう。とはいえここには本当に誰もいない。自分の力で脱出できると思っていないのだろう、見張りすらいなかった。少しこの場所を調べることにした。

 頑丈な壁でできており、牢屋と廊下を隔てるものは鉄格子だった。鉄格子の真ん中には扉があり、さっき食事を牢屋に入れたときはここの扉を開けていた。

 近づいて見てみると、案の定鍵がかかっていた。幸いなことに鍵さえ手に入れば開くようになっていた。


「鍵は玲奈が持ってたな」


 次いつ来るかはわからないが、もし玲奈が来たら力ずくで奪えるかも知れない。あまり手荒な真似はしたくないが、手段を選んでる場合でもない。

 しかし見た感じ脱出できそうな場所は正面の鉄格子からしかなさそうだ。窓も抜けられそうな穴もなし、壁を叩いてみた感じ空洞はなさそうで敷き詰まっているようだった。もし仮にここが何かの施設の地下だとしたら、壁をぶち破っての脱出は不可能だ。


カラン


 後ろで何かが転がる音がして勢いよく振り返る。見ても何もなく、ただ壁があるだけだった。ふと視線を落としてみると、謎のキューブと手紙が落ちていた。


「これって、まさか……」


 どこかで見たことがあるようなキューブに一縷の望みを抱き、直ぐ側に落ちている手紙を拾った。

 裏にはしっかりとした字で


『K』


と書かれていた。

最後まで読んでくれてありがとうございました!次話もお楽しみください!

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