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現実はいつも夢から  作者: aciaクキ
15/35

15 再開と助手

 ピリピリとした空気が漂う。もっとも電流が走るような場所にいるわけではないが、感電してしまうような気がする。それほどまでに、玲奈とりなのにらみ合いは白熱していた。


「な、なあ玲奈…」


 だんまり。


「玲奈さん?」


 痛い。左脇腹につねるような痛みが走る。


「あの…りな、さん?」


 こちらもだんまり。

 痛い、今度は左脇腹に殴られたような痛みを感じる。


「あ、あの二人共?」


 こちらが話しかければ無視をし、俺が黙れば互いににらみ合うし、俺がどちらかに話しかければもう片方に痛めつけられる。


「なぜだ」


 頭を抱える想像をしながらこうなった経緯を辿っていく。


▲▽▲▽▲▽


「こんなところに用があるの?ここ中学校だよ?」


 俺と玲奈は学校終わりに中学校に寄っていた。りなを迎えに行くためだ。タイミングはちょうど良かったようで、ぞろぞろと校門から生徒が出ていっていた。


「ああ、人を迎えに来たんだ。俺達と同じ能力者をね」

「能力者?それってどんな人?」

「見てからのお楽しみ。っと、噂をすればなんとやらだな」


 駆け足でこちらに叫びながら近づいてくる一人の女子中学生がいた。


「おーい!おにーちゃーん!!」


 立っていても座っていても走っていても愛らしい我が妹、りなが手を振りながら周りの目なんて気にせずに走ってくる。ここは甘えたいが、玲奈が隣りにいるし、公共の場だから兄として注意ぐらいしたほうがいいだろう。


「アイタッ!」


 飛んで抱きついてくるも、心を鬼にしてりなの可愛い頭に軽いチョップをかます。


「こら、叫びながら走ってくるなんて、はしたないぞ。しかも間髪入れずに抱きついてくるとか、もうちょっと周りを気にしろよ」


 なあ、と玲奈の方を見てみると今まで見たことのないような形相でこちら、正確には妹を見ていた。


「れ、玲奈?」

「お兄ちゃん、その人が彼女さん?」

「い、いや……ちがう、けど」


 妹に移していた視線をチラリと玲奈に戻すと、さっきとは打って変わって清々しいほどの笑顔でこちらを見ていた。そんな顔が余計に怖く感じてしまうのは、決して気のせいではないだろう。


「れ、玲奈…さん?どうか、されましたか?」

「いや、何もないけど?」

「いや…おこっtぐえ」


 スッと近づいてきたかと思うと、自然な動作でお腹を殴ってきた。軽くだけど。


「怒ってないよ」

「怒ってr」

「怒ってないよ」

「……はい」


 食い気味の否定に押されてこちらが折れる。妹はといえば、さっきから腕を絡ませながらずっとこちらをジト目で見ている。たまに玲奈の方を向いたと思うと睨みつけるという行動を繰り返している。

 俺と玲奈の会話が一段落すると、りなが玲奈を邪悪な笑みを浮かべて嘲笑するような目で見ていた。


「あら、彼女さん…じゃなかった、えっと?玲奈さんだっけ?ごめんなさーい、てっきり彼女さんかと」

「ちよ、ちょっとりな」

「ふうん。そう言うあなたもいち妹としてしか接されてないんじゃないの?私と夢汰くんは名前で呼び合うほどの仲なのよ。私達は先へ行ける」

「それにしてはまだ友達としてしか見られてないようだけれど?」

「まだこれからよ。時間はあるのだから焦る必要はないわ。あなたは兄弟なのだからこれ以上発展することはないんじゃないかしら?」

「あらあら、私は毎日お兄ちゃんと仲を深めているのよ。同じ屋根の下に住んでいるのだし」


 バチバチと音が立ってもおかしくないほど二人は渾身の表情で睨み合っていた。ここはあえてこう言う方が良いだろう。


「二人とも仲がいいんだね」

「「はあ!?」」


 この有様である。想像通りの反応すぎて逆に面白い。やはり二人は仲がいいようだ。


◆◇◆◇◆◇


 そうこうしているうちにKがいる空間に行ける社に着いた。相変わらず二人は睨み合いながら歩くものだから想定以上の時間がかかってしまった。


「ほら、着いたんだからそろそろやめてくれないか?」


 さっきほど言い合っていた訳ではないが、ここに来るまで一切会話をしていなかった。

 逆にここまで歪み会えるのも一種の才能なんかじゃないかと思ってしまう。


「ほら、二人とも行くぞ。りなは初めてだから心の準備はしとけよ」

「はーい!」


 静寂に響くりなの元気な声を聞いて玲奈と頷きあい、社の中の本を手に取る。腕に絡みつけられた二人のそれぞれの腕を感じながら本を開く。瞬間、大きく光が広がっていき、3人を飲み込んでいく。


 冷たさが肌を強く刺激し、まぶた越しに刺さる光に目を開ける。前回同様、広い草原の中に横たわっていた。


「玲奈!りな!大丈夫か!」


 二人がぱっと見で見つけられず、最悪の事態を想像し戦慄する。

 少し離れた場所から草がこすれる音が聞こえた。急いでかけつくと、そこには玲奈とりなが手をつないで気を失っていた。


「二人とも、大丈夫か?そろそろ起きてくれ」


 玲奈が少し唸り、居心地が悪そうにその場で少し動き──りなの上に乗り上がる。


「お、おお」


 思わず小さな歓声を上げてしまったのはどうか許してほしい。だって、容姿も整っていて大事にしたい女の子が二人で絡み合っているのだから、これ以上目に優しい景色はそう無いだろう。

 しばらくこのままにしておきたいが、本来の目的も果たさないといけないから起こすことにした。


「二人とも起きて。こんなとこで寝てたら風邪引くぞ」

「……夢汰、くん?」

「んん、おにーちゃん?」

「そうだよ、夢汰でお兄ちゃんだよ。玲奈、りな、おはよう」

「夢汰くん、おはよってちょっちょちょ!」

「わ、わわっ!なんであんたが私の上に乗ってるのよ!」

「し、知らないわよ!」


 ササッとお互いに離れていくさまは漫才でも見ているようで、思わず声を上げて笑ってしまった。


「夢汰くん、どうして笑ってるのかな?」

「いやいや、二人ともほんとに仲いいなと思って」

「「どこが!」」


 そういうとこだよと言うのは命の危機を感じて止めた。やはり二人の相性は良いのだろう。


「じゃ行こうか」


 睨み合う二人を置いて目的の建物へと歩みをすすめる。

 建物の中に入るとやはりスピーカーなしの放送で出迎えられる。


『やあ、よく来てくれたね。今日は一人増えたんだね。今日はナビは無しだから頑張ってここまで来てね』


 一度来た場所はほとんど完璧に覚えている。能力のおかげで苦労することなく二人をリードしてKの元へと行くことができた。


「こんにちはー」

「いらっしゃい3人とも。今日は紹介したい人がいるんだ」

「紹介したい人ですか?」

「そ、じゃあこっち来てー」


 俺たちが入ってきた場所とは別の扉が開いて一人の人物が入ってくる。


「はじめまして、髙野薮たかのやぶと申します。よろしくおねがいします」


 物腰の良さそうな男性が丁寧に自己紹介をする。その紳士的な雰囲気は正しい大人の男性を感じた。


「っ!!」


 体をビクリと震わせ、一歩後ろに後ずさる玲奈の表情には恐怖があった。


「玲奈、大丈夫か?」


 はっと、俺の呼びかけで我に返った玲奈が髙野さんと見た後に俺の方を向いた。再び髙野さんの方を向くと、深くお辞儀をした。


「す、すみません。突然驚いてしまって……何でもないです。もう大丈夫です」

「そ、そうですか?何かすみません」

「い、いえこちらこそすみません」


 暫しの沈黙に気まずさを感じている中、そんな空気を壊したのはKだった。


「ゴホン。少し想定外なことがあったけど、紹介を続けるよ。彼は僕の助手だ。昨日来てくれたときは事情があって来れなかったみたいだけど。ま、それはさておき、能力の説明をしてあげて」

「分かりました。それでは説明させていただきますね」


 コホンと一息ついて体裁を整える。


「私の能力は、伝言というものです」

「伝言?」

「はい、竹浦君や綾川さんは体験したことがあるはずですよ」

「もしかして!」


 互いに顔を合わせ、合点のいったような顔をする。


「ええ、想像通りのものと思います。手紙を読みなさいとあなた方の頭の中で響かせていたのは私の能力によるものです。訳もわからないのに伝言通りに従って頂いてありがとうございます」


 てっきりKがしたものだとばかり思っていた。空間に作用するのだから、脳に働きかけることだってできそうなものだ。


「さて、自己紹介も終わったことだし、そちらの可愛いお嬢さんのことを教えてもらってもいいかな?」

「可愛らしいお嬢さんっていってこの子をナンパしようものなら僕が止めますからね」

「うーん、別にそういう意図で言ったわけじゃないんだけどね」

「冗談ですよ。じゃありな、自己紹介して」

「わ、わかった。私は竹浦りなと言います。こちらの夢汰さんの妹です。宜しくおねがいします」

「妹ちゃんなんだね、うんよろしく。ここに来たってことは、妹ちゃんにも能力があるって認識でいいね?」

「は、はい!」


 確かめるようにKがりなの方に視線を向けると、りなはその雰囲気に緊張を感じ、少し萎縮してしまった。


「ああ、すまない。怯えさせるつもりは無かったんだ。ただどんな能力か気になってね。妹ちゃん、君の能力のこと教えてくれるかな?」 

「わ、わかりました。えっと、私の能力は瞬間移動です」

「へぇ、そりゃすごい能力だ!是非検査させてくれ!」

「検査?」

「大丈夫さ、痛いことも怖いこともしないから。それに夢汰くんも綾川さんもしたしね」

「だった良い、かな」

「それはありがたい!じゃあそこの椅子に座ってくれ。もちろん夢汰くんと綾川さんもね」


 俺と玲奈は少し抵抗があるものの二回目だからなのかそこまで緊張せずに座った。りなは見た目が物騒な椅子に多少の恐怖感があったものの、なんとか座ることができた。若干涙目になっていたのは言わないでおいてあげよう。


「それじゃあ三人とも、いい夢の旅を」


 その言葉を最後に、意識がぷつりと途切れる。



 最近はどの夢を見るたびに真っ暗だ。目をつぶっているのだろう、声だけが聞こえてくる。


「今回はありがとう。夢汰が自分の能力で苦しめられるとは思ってなかった。お前がいなけりゃどうなってたか……」

「もうよしてくれ。夢汰くんの状況を察知できたのはたまたまさ。それよりもあいつに横取りされずに済んだのは行幸だ」

「□ □ □ □ については何処までわかってるんだ?あれからずっと調査してるんだろ?」

「まあな、でも肝心の部分がつかめない。あいつが所属している組織の名前はもう割れている。何をしているのかもな……」

「お前は、あいつが自分の意思であんな行動をとったと思うか?」

「……正直ありえないと思う。性格は悪かったけど、無理やりな方法を選ぶほどひねくれてなんてなかった」

「あいつが言ってた、夢汰の能力を研究すれば世界中の能力者たちを救えるかも知れないってのは本当なのか?」

「間違っちゃいない。けどおそらくあいつが欲しがってるのは、夢汰くんの能力そのものじゃなくて、能力のエネルギーのことを言っているのだと思う。けど、それだとしたら、お前達のほうがエネルギー量としては上だと思うんだ。能力の強さも。確かに完全記憶能力は強大だ。けど、お前たちには及ばないはずだ。どうしてそこまで夢汰くんに固執するのかがわからない」

「今は、あいつがどうして別人のように変わってしまったのか、それを調べてくれ。それ以外は後回しで良い」

「……わかった」

「K」

「どうしたんだい?」

「能力の抑え込みが終わったって」

「わかった。これから能力で蓋をする。二人共見届けるかい?」

「ああ」

「もちろんよ」

「じゃあこっちに来て。今から完全記憶能力に蓋をする。蓋の役割を担う能力は、未来予知能力だ」


 体が持ち上がった直後、何かに座らされた感触があった。頭、手、背中、お腹、体のあらゆる場所から繋がれている感覚がある。どうにも落ち着かない。


「それじゃあ、開始する」


 機械音が耳に入り脳に響く。自分の中からいろいろな物が抜け落ちていくのが感じた。───否、存在を感じなくなっていった。

 ブチンと音を立ててほのかな光を感じた視界は完全な暗闇へと落ちていき、一人の男性を見つめる景色が広がる。


「夢汰くんよ、君の絶望した顔が見れて嬉しいよ。玲奈の姿を見た君の表情は大変美しく、滑稽だった。ああ、別に馬鹿にしているわけじゃないさ」


 何者かに上から床に押さえつけられ、身動きが取れずに知らない男を下から見上げるような形になっていた。


「あんた……誰だよ……」

「ああ、この顔では会うのは初めてだねぇ。こうしたら良いかな」


 一瞬の瞬きの間に男の顔は変わっていた。


「あんた………まさかっ!」


 そんな事を言いつつも俺には顔が見えない。口が勝手に動いている。未来の俺にはきっと見えているのだろう。


「私の目的はまだ先にある。君の……は通過点に過ぎない」

「くっ!離せ!」

「そのまま押さえつけておいてね、……」

「……」

「君は私の言うことには黙ってしまうのが難点だねえ。やっぱり君の能力によるものなのかな。ちゃんと従ってくれるから良いんだけどね」


 一人に押さえつけられているだけなのに身動きが全然取れない。とんだ馬鹿力である。

 意識は段々と薄れていき、男が話している内容も聞き取れなくなっていった。気づけば深い深い暗闇の中に取り残され、直後に感じる光に目を開ける。

 謎めいた夢が終わりを迎えた。

最後まで読んでくれてありがとうございます!次話もお楽しみください!

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