12 僕の昔と今と未来
「おはよう、二人とも。いい夢は見れたかな?」
「わかってるくせに」
「あはは、意地悪なことをしたね。ごめんごめん」
「玲奈?」
「…」
さっきから黙ったままの玲奈の様子を見ると、椅子に座ったままうつろな目をしていた。
「玲奈、大丈夫か?」
「ん、へ?う、うん…大丈夫だよ」
「なかなか辛い夢を見ていたからね」
「夢、見てたの、見たんですか?」
「見たよ。夢汰くんはあいも変わらず能力的夢だったね。玲奈ちゃんの方は、過去を振り返ってたね、かなり鮮明に。おかげで忘れていた記憶も戻ったんじゃない?」
「っ!最初からそれが狙いですか?」
「いや、過去を見たのはたまたまだと思うよ。多分、夢汰くんの能力の影響を受けたんだろうね。可能性は低かったけど起こりうる事態ではあったね。隣同士で繋げていたから」
「そ、そうなんですか」
「だいたいデータは揃ったから君たちの能力について、話そうか」
二人で、机に移動し、Kと対面するように座る。
「聞きそびれてたんですけど、貴方のことはいつも通りKと呼べばいいんですか?」
「いいよ。むしろ本名よりもそれで呼んでくれたほうがこっちとしても嬉しいしね」
「わかりました」
「それじゃあ、話をしようか」
Kは一呼吸置いてゆっくり話し始めた。
「じゃあまずは、夢汰くん。君の能力から話そうか」
「わかりました」
「君の能力は、手紙で話したものがほとんどだ。今回は君のかつての能力、完全記憶能力と絡めて話していく。
今の君の能力には3段階の夢が存在する。1つ目は過去を、2つ目は未来を、3つ目は過去に見た未来を。3つ目の夢は辻褄合わせの能力と言っていいから、そこまで深く考える必要もない。一番関わる回数が少ないのも、3つ目の夢だ。
次に2つ目の夢。これはどれだけ先の未来が見えるかっていうのが問題なんだけど、見れるのは直近の未来、それも、次の日の未来ぐらいまでしか見られない。しかも断片的にね。さっき検査したときは更に先を見ていたようだけどね。これは、普段寝るときは次の日の分しか見れないけど、深い深い眠りについたときは更に未来を見れるようになるようだね。君が見た夢は、明日起こるような出来事じゃなかったんじゃないかい?」
「はい。もっと先で起こりうる未来だったと思います。けど、あんな未来は辿りたくないけど」
「未来なんてものは簡単に変えられる。けど普通ならば未来なんてものは知りようがないから、皆運命だなんて言うんだ。
けど、君は知っている。知る手段を持っている。君が行動を変えれば未来も変わる。その代わり、大きく行動を変える必要がある上に、その影響で君の知らない未来が待っているかもしれない。それは慎重に見極めないといけない。ここまでで質問はあるかい?」
「いえ、大丈夫です」
お茶を飲みながら休憩を挟む。話しているのは、聞いている以上に疲れるだろう。まだ核心には入っていない。
「おーけい。じゃあ再開するよ。1つ目の夢は過去を見せる。これは、君がこれまでの人生で辿った道を見せる。本来の予知夢能力なら、過去を見ることは無い。
予知夢が1つ目の夢に来るか、2つ目の夢に予知夢が来て、1つ目の夢が一般人が見るような夢となるのが相場だ。だから、君のそれはかなり特殊だ。
どうしてそんなことになっているのか。それは、君のかつての能力に関係する。お父さんから聞いたと思うけど、君の能力は、ある人の力で取り除いて、予知夢を埋め込んだ。ただ、この説明は間違ってるんだ。
能力とは、その人を作るアイデンティティの一つだ。だから、それを取り除くというのは自己の消失とほぼ同義だ。そんなことをしてはいけない。だから、相性良かった予知夢の能力で完全記憶を覆って一時的に能力の発動を抑えた。だから、君の身体にはまだ、完全記憶能力が残っている。
ただ、この能力は想像しているよりも強大な能力だ。だから、その能力の漏れが、君の夢に干渉して過去を見せてるというのが僕の見解だ」
「そんなことが…」
「十分起こりうるさ。さて、夢汰くんには最後の、完全記憶能力の概要だよ。と、その前に確認したいことがあるんだ。最近の予知夢は断片的すすぎな上に、短いと思わないかい?」
「はい。最近は前と比べて予知夢が頼りなくなった気がします」
「だろう?それはひとえに予知夢能力の影響力が弱まり、完全記憶能力が復活してきたからなんだ。もう少ししたら、予知夢能力が完全になくなると思うよ。完全記憶能力と違ってね。仮初の能力だから」
「それは、身体には影響はないんですか?」
「何が起こるかは俺の口からは言えない。ただ、夢として、過去の記憶が戻りつつあるからおそらく影響は低いと思う。でも、完全に安心することもできない。突然能力が復活して大量の記憶を脳に送ってくる可能性もある。その場合、最悪脳の動きが遅くなって寝たきりになるなんてこともあるかもしれない。だからって、そこまで気にする必要もないけどね。
さて、遠回りしちゃったけど、ようやく能力の話ができるね。君の完全記憶能力、それは言葉通り今まで見たもの、聞いたもの、嗅いだもの、触れたもの、体験したもの、そういった経験を忘れずに頭に刻み続けるといった能力だ。もちろんその能力による情報は膨大だ。だからこそ、子供だった君には負担が大きすぎた。脳が発達した今の君ならこの能力の情報量にも耐えられると思うよ」
「あの、能力って自分のアイデンティティなんですよね。だったらどうして俺の体に不調があったんですか?」
「僕でもその理由ははっきりしなかったんだ。ただ、憶測なら言えるけど、聞くかい?」
「はい、聞きます」
「わかった。おそらくだけど、君のお父さん、司の能力が完全記憶に匹敵するほど強大だったからだと思うんだ」
「お父さんの?でも、能力なんて見せる素振りなかったですよ」
「そりゃあ、能力なんて人に見せるようなものでもないからね。君も、友達には隠してるんじゃないかい?」
「確かに…」
「まあ、それもあるんだけど、能力は自分を構成するものの一つのくせに、子供を作ってしまうと消えてしまうんだ。司は、見せなかったんじゃなくて、見せれなかったんだ。能力の力が大きければ消えたときの人格に与える影響は大きくなる。今は、あんなに穏やかな人だけど、能力を持ってたときはあれと真反対だったんだよ」
「本当ですか?」
「本当さ。以外だろう?」
「はい」
「話を戻そうか。能力自体は遺伝することはないんだけど、能力の強さが遺伝されることがあるんだ。司の能力はすごかったからね、それだけ強い力が夢汰くんに遺伝してしまったんだろうね」
「お父さんの能力は何だったんですか?」
「それは悪いけど俺の口からじゃ言えないかな。本人に直接聞くといいよ。ついでにお母さんにもね」
「お母さん?」
「そうだよ。君のお母さんの七海も能力者なんだよ」
「お父さんとお母さんと、どういう関係なんですか?」
「ごめんね、それは言えない」
「そうですか……」
「すまないね。そうそう、妹ちゃんと一緒に聞くと良いかもね」
「りなもですか?」
「あの二人の子供で君の妹だからね。能力があるかもしれないからね」
「今まで相談されたり、能力を使ってるところを見たことないですよ?」
「本当に無いか、隠してるか、気づいてないかのどれかだと思うよ。まあそこまで深刻に考えることはないさ。けど、話をするなら家族全員でね」
「わかりました」
妹が能力を持っているかもしれないという事実。今までそんな素振りを見せたことがなかった。
隠していた可能性があることは衝撃と、ショックを与えるには十分だった。
「ふう、一段落着いたね。少し休憩させてくれるかい?」
「わかりました」
答えたのは玲奈だった。ついさっきまで、俺の能力の話しかしていなかったから、ずっと黙ったままでいてくれた。今度は、玲奈の番だ。どんな話をするのだろうか。
「さあ、綾川玲奈さん。お話を始めようか」
「はい」
とうとう私の番が来た。伏せていた顔を上げて、正面からKを見据えた。
最後まで読んでくれてありがとうございます!次話もお楽しみください!