1夢
記念すべき連載小説最初の作品の一話目です。最後まで読んでいただけたら嬉しいです!
何もかもを救えたなら、どれだけ嬉しかっただろう。これが夢であったなら、どれだけ安心しただろう。現実はいつも非情だ。取り返しのつかないことも、暗く青で満たされた悲しみも、腸が煮えたぎって焼きこがれるような怒りも、理性では抑えきれない程の憎しみも、現実という世界は容赦なく与えてくる。
ああ、明るい未来がほしい。あの子と過ごした時間が恋しい。所詮夢なんてものは曖昧で誰の味方をするものじゃない。結局信じられるのは夢が示す道じゃなく、自分自身の力だけだ。真実は蓋で隠されていた。許しがたいことだ。
そう心の中でぼやきながら、真っ暗な部屋から明日への希望を求めて夢を見る。
「あ、起きましたか?おはようございます。今、先生を呼んできますね?」
パタパタと部屋を走り去っていくのを感じながら、体が自由に動かないことに焦る。腕はおろか、声すらも出せず、目だけは動かすことが出来た。
ここは何処だろうか。先程走り去っていった人の姿がちらりと見えたが、真っ白い看護師の服を着ているようだった。
しばらくして先程の人と、先生と思われる人が一緒に部屋に入ってきた。
「こんにちは、竹浦夢汰君。自分が誰かわかるかな?私が誰か、わかるかな?」
声は出ない。ただただ頷くことしかできなかった。首は動くようになっていた。
「まだ完全には回復してないようだね。まだ寝ててもいいよ」
その言葉に小さく頷き、静かに目を閉じる。
教室の机に向かって座っている。机の上には数学の小テストの紙が置かれていた。前を向けばそこには数学の教師が黒板の前の椅子に座って教科書を読んでいた。黒板には、
『小テスト 10分』
とだけ書かれていた。再び視線を落とし、一生懸命に問題文に視線を巡らせて覚える。今日のテストにしくじらないように。
一度の瞬きで視界が一瞬にして変わる。今度も教室の中にいた。休み時間のようで、教室内はにぎやかで殆どのクラスメイトが友達のもとへ行って会話している。俺の席にも友達である北条泰介が来ていて話していたようだった。
机の上にはゲームがたくさん載っている雑誌が23ページを開いて置かれていた。内容は全然わからないが、おそらくゲームの話でそこまで重要なものではないのだろう。少し近くでは消しゴムをボール代わりにして投げて遊んでいる男子学生がいた。
消しゴムを投げようとした男子学生に誰かの背中がぶつかってしまい、消しゴムの軌道は上へ大きくずれ、突然の出来事に驚いたからなのだろうが球速も先程よりもずっと速くなってしまった。
消しゴムはまっすぐに天井の電灯をめがけて突き進んでいき、ガンとぶつかった拍子に電灯が外れてしまう。それは着席して本を読んでいた女子学生に急降下、数名のクラスメイトが気がついているものの動きはやはり落下のほうが速い。女子学生の頭にぶつかる直前、再び景色が入れ替わる。
目の前には多くの車が横切っている。信号を待っているようだった。隣を向けば北条がスマホをいじって立っていた。俺の視線に気がついたのかこちらを向くと、声は聞こえないもののどうしたんだよ、と言っているように口が動いているように見えた。
あたりを見渡してみると、幼稚園ぐらいの少年が転がっていくボールを追いかけているのが目に入った。なんとなくこれから起こる事態が想像でき、じっとその子を見つめていた。
多くの人が行き交う道、喋り声や工事の音などの生活感あふれているであろう音の中、一台のトラックが猛スピードで走ってくるのが見えた。運転手は少年の姿に気がついたのかクラクションの音が聞こえないからわからないが、ブレーキを踏んだように、急激にスピードが落ちる。
少年はやっとのことでボールに追いつき、その手に収めて安堵したものの、すぐそばから止まりきれずに突進してくるそれからは体一つ動かずに、ただただじっと呆然と立ち尽くすくしかなかった───
ピピピピッ、ピピピピッ、ピピピピッ、ピッ
うるさく鳴り響く警告音を叩きつける勢いで止める。
竹浦夢汰の意識は覚醒する。
最後まで読んでくれてありがとうございます。だいぶ短かったと思いますが、次からは少し長くなると思います。次の投稿は、近々出そうと思います。目を通していただけると幸いです。感想、アドバイスも是非お願いします!