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31話目 ケイトとクリス

 それでも沈黙の時間が辛くなって、ケイトはニコリと笑った。

「ゴメンね。言いたかっただけなの。……アルフレッドのところには、今まで通り来てくれていいから」

 それ以上のことは望まない。寧ろ、今まで通り来てくれるなら、それでよかった。

「……えーっと、どういうこと、ですか?」

 クリスが眉根を寄せる。

「だから、私がクリスの事を好きだってこと。伝えたかっただけなの。それだけ」

「えーっと、ケイトさんが……僕のことを好きってこと、ですよね?」

 問いかけられた内容に、ケイトはうつむいた。急にバツが悪くなった。

「そうよ」


「えーっと……それって、僕と結婚するって意味、ですか?」

「……え?」

 ケイトは顔を上げる。クリスの顔は真剣だ。逆にその表情にケイトは慌てる。

「クリスがそのつもりもないのに、結婚を強要したりはしないわ! 私がアルフレッドを生んで育てるって決めたんだから、クリスに責任を負わせたりするつもりはないの」

 クリスが瞬きを繰り返す。

「それって、僕が結婚したければ結婚してくれるってこと、ですか?」


 ケイトは首を傾げた。

「え? ……それは……そう、だけど。だけど、」

 ケイトの言葉は、クリスに抱きしめられて止まった。

 ケイトは目を見開く。状況が理解できなかった。

「ケイトさん、結婚しましょう」

「え?」

 クリスは体を離したかと思うと、片ひざをついてしゃがみこんだ。

 クリスを視線で追うケイトに、クリスは手を差し出した。

「ケイト・ホイラーさん、いや、ケイトさん。僕と結婚してくれませんか?」

 

 以前は絶対取ることはないと思っていたその手を、ケイトはそっとつかんだ。

 クリスの顔に満面の笑みが浮かぶ。

 だが、ケイトの顔はまだ戸惑ったままだ。

「ケイトさん、どうかしましたか?」

 クリスも不安そうに瞳が揺れる。

「クリスは、私のことまだ好きでいてくれたの?」

 クリスが慌てて立ち上がる。

「当たり前じゃないですか!」

「だって……あの事件のあとから、よそよそしかったから……もう私に興味はないんだろうなって……」


「それは! 皆さんにアドバイスされたんです! いつもいつも気持ちを押し付けるばかりじゃ単なる子供だぞって。……聞くんじゃなかった! 変な誤解受けてるし……」

 クリスががっくりと肩を落とす。ケイトは理由がわかってホッとする。

「でも……もしあのままだったら、私も意固地になってただけかもしれないから」

 え? とクリスが顔をあげた。

「今日も、妻って言って庇ってくれたのに、あっさり帰っていくから……もう可能性はないんだと……」


 クリスがケイトの手をつかむ。

「あります! 大ありです! むしろ可能性しかありません!」

 勢いよく告げるクリスに、ケイトは少しおののく。

「あ、ごめんなさい。それがダメなんだって、皆からダメ出しされたんです」

 クリスがしょぼんとなる。

 ケイトはクスリと笑う。

「私たちにとっては、いいアドバイスだったかもしれないわね」

 クリスがホッと息つく。

「それなら、いいんですけど」


「……ねえ、ここじゃ何だから、私の部屋に行かない?」

 ケイトの言葉に、クリスが眉を下げて首を横にふった。

「実は、サムフォード家の応援のために来ているって名目なので、戻らないといけないんです」

「ごめんなさい! 知らずに呼び止めてしまって」

 慌てるケイトに、クリスは笑う。

「いえ。ケイトさんの愛の告白を受ける名誉を得たんですから、謝られることではないです。それに、代わりをしてくれているのは、リズの夫なんで、事情をよく理解してるから大丈夫です。むしろケイトさんと両想いになったって言ったら、喜びます」


 ケイトはホッとして笑った。

「じゃあ、仕事が終わったら、来てくれる?」

 クリスがコクリと頷く。

「もちろんです。これからのことを話し合わないといけないですしね!」

「そうね」

「ケイトさん」

 クリスがかしこまる。ケイトは背筋を伸ばした。

「これからよろしくお願いします」

「こちらこそ、お願いします」

 ケイトを見つめていたクリスが、スッと目をそらす。


「どうかした?」

 ケイトがクリスの顔を覗き込むと、クリスは唇を噛んでいた。

「どうしたのクリス?」

「どうしてここが外で、どうしてあそこにフォレスがいるんだろうと思ってしまって」

 ケイトは訳がわからずに首をかしげる。

「だって、キスができないじゃないですか」

 じわじわとケイトの顔が赤らむ。

「じゃあ、またあとで部屋に行きます」

 嬉しそうに笑うクリスが手をふって歩き出す。

「行ってらっしゃい!」

 見送るケイトは、初めて帰ってくる人を待つのが楽しみに思えた。 

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