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28話目 決別

 ケイトは食堂の前にいたローザに、アルフレッドを預けた。

 どう考えても、今から話す内容が、嬉しくなるような内容のわけがない。そんな内容を、アルフレッドの耳に触れさせたくなかったからだ。


「親子で話をしたいんだ。部外者なら出ていけばいい」

 ダンが食堂まで案内したフォレスを睨む。

 フォレスはケイトとダンが座ったテーブルの真横に立ち尽くしていた。

「いえ。この家の使用人を統べるものとして、使用人に危害が加えられないと理解できなければ退きません」

 しれっと言いのけたフォレスに、ダンが目を怒らせる。

「自分の子供をどう扱おうと関係ないだろう!」


「それはどうでしょうか。子供は親の持ち物ではありません。それにお言葉ですが、自分の職場で自分の職域で必要とあらば、私がどこにいようと勝手ではありませんか?」

 にっこりとダンに笑ってみせるフォレスは、目は少しも笑っていなかった。

「……勝手にすればいい」

 ダンは口で勝てそうにないと悟ったのか、無視することに決めたようだった。


「ケイト、お前は私の娘だ。私の世話をする義務があるだろう」

 ケイトは予想外の内容に、眉を寄せる。

「世話? ……母さんは?」

「……マーゴは死んだよ」

 悲痛な表情をしたダンに、ケイトは目を見開く。マーゴは母親の名前だ。

「……亡くなったの?」

 ケイトの声が掠れる。予想外の内容だった。母親は生きていると信じて疑っていなかった。


「どうして最初に教えてくれなかったの?!」

 ケイトの声は叫ぶようにも聞こえた。

 なのに、冷たいダンの視線がケイトに浴びせられる。

「家を捨てたお前には、関係ないだろうと思ってね。マーゴを愛していたのは、俺だけだ」

「そんなわけないわ!」

 反論するケイトを、ダンは鼻で笑った。

「だとしたらどうして15年もの間連絡もしてこなかったんだ!」


「そんなの、できるわけないじゃない! 子供を売ろうとした父親に会いたいと思う人間がいると思うの?!」

「マーゴにすら連絡ひとつ寄越さなかっただろう? マーゴの持ち物を整理したが、お前からの手紙などひとつもなかったぞ」

 大袈裟に首をふるダンに、ケイトはすぐには言い返すことができなかった。


「薄情な娘に懺悔の時間を与えようって言ってるんだ。町に戻って俺の世話をしろ」

「……嫌よ」

 ケイトは声を絞り出した。

「お前は私の娘だ」

「……だから、どうしたの?」

 ケイトがダンを睨む。ケイトが父親を睨んだことなど、初めてかも知れなかった。


「お前は俺の子供なんだ! どうして親の言うことを聞かない?! あのときだって!」

 ケイトは怒りで血が沸き立つのだと言うことを、生まれてはじめて知った。

「私はあなたのものじゃないわ! 私という個人なの! あんな最低な男に娘を売り渡そうとして、よく親だって主張できるわね!」

 だがダンはおかしそうに笑い出す。


「何がおかしいの?!」

「要らない娘を売って何が悪い? それに、あいつのところにいけば、うちにいるよりまともな生活を送れたかも知れないんだ。最低だなんてどうしてわかる?」

 ケイトは目を閉じると、首を横にふった。

「あの男は犯罪者だわ」

「娘を売り買いする人間なんて五万といる。それくらいで犯罪者呼ばわりするな」


「あの男は本当に犯罪者よ。今王都の騎士団に捕まっているわ」

 ケイトの言葉に、ダンが目を見開く。

「あいつ王都に居たのか?! 一体何を?!」

 ダンの表情は本当に驚いていて、知らなかったのだと感じられた。

「私を誘拐して乱暴しようとしたのよ!」

 だが、ケイトの言葉に、ふ、とダンは力を抜いた。

「そんな罪か。……人を殺したわけじゃないんだな」


 そんな罪。

 ケイトはダンの言葉に絶望しか感じなかった。

 少しも娘のことなど気にしていないのだとはっきりとわかる言葉だった。

 わかっていたことだ。だが、こうやって突き付けられると、ケイトの心はきしんだ。あきらめていたつもりでいたのに、やはりどこかでダンの本心は違うんじゃないかと期待したかったんだろう。

 ケイトは自分の甘さに苦笑する。結局ロマンスにこだわっていたのだって、ダンにこだわっていたからだ。

 本当にダンと決別する時が来たのだと、ケイトは思った。


 一つだけ救いなのは、どうやらダンはガストンとはもう繋がりがないらしいことだった。ダンはサムフォード男爵家を害しようとしているわけではないはずだ。

 もうそれで充分だと思うしかない。

 ケイトが期待する父親など、どこにもいないのだ。


「ダン・マッケローさん。お帰りいただけるかしら? 私、あなたのことを存じ上げないの」

 覚悟をしたケイトの声は、冷たかった。

「何を言っている? ケイト、お前は私の娘だろう?!」

「あなたの娘は、もう死んだのではないでしょうか?」

「ここにいるだろう?! ケイト、何を言ってるんだ?!」

「いえ、ケイトは、ケイト・ホイラーです。あなたの娘ではありませんよ」

 ケイトは後ろから聞こえてきた声に振り向く。

 そこには、息を切らしたクリスがいた。

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