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24話目 ロマンスの形

「アルフレッド、今日の機嫌はどうだ?」

 クリスが抱き上げたアルフレッドに問いかける。その姿を、ケイトはじっと見つめる。

 キャロラインに言われたことが、頭の中をぐるぐると巡っていた。

「あー」

 アルフレッドがご機嫌な声をあげる。パッと笑顔になったクリスがケイトを見る。ケイトはハッと息を飲む。


「今の聞いた? アルフレッドが返事をしたよね? この子はもうコミュニケーションが出来るんだ! 天才かもしれないぞ!」

「そ、そうかしら?」

 ケイトは自分の心の動きに戸惑いながら、肩をすくめる。少なくとも、今のは偶然の産物だとは思う。

「そうだって。なぁ、アルフレッド」

 クリスの視線がアルフレッドに戻る。その口許は柔らかく弧を描いている。


 クリスはしばらく抱っこしてから、アルフレッドをベッドに戻した。まだアルフレッドの機嫌は良くて、あーあー、と声を出している。

「それじゃあ、ケイトさん失礼します。アルフレッドも、また来るからね」

 ケイトには儀礼的な挨拶を、アルフレッドには目尻を下げて声をかけて、クリスはケイトの部屋を後にした。

 パタン、と閉じた部屋に、ケイトのため息が落ちた。


 アルフレッドに対して、クリスは甘い表情を見せる。だが、ケイトに対しては、線を引いたような態度が続いていた。以前のように、ケイトと結婚したいという行動も発言も、一切なくなった。

 いつからか、と言われれば、間違いなくあの大けがをした時を境に、クリスの態度は、ケイトとの間に線を引いていた。

 クリスがアルフレッドに会いに来るため、会う頻度は間違いなく増えたが、ケイトとクリスの間にある距離は縮まることはなく、寧ろ明確になって行くような気がしていた。


 レインやジョシアに抱かなかった気持ちを、クリスに抱いた理由。

 もっと前に、クリスに好意を抱いていたからだ。

 その気持ちをなかったことにしていた。いや、なかったことにできるくらいには、小さな気持ちだったんだろう。

 だが、あの事件があって、ケイトはクリスへの気持ちが膨らんだ。

 クリスが命をかけてケイトを助けてくれたから好きになったわけではない。

 好きだったから、死にそうになったクリスの大切さに気付いた。


 ケイトはロマンスという言葉にこだわり過ぎて、全ての気持ちをなかったことにしようとした。

 でも、気が付いたら、クリスはケイトへの好意を示さなくなった。

 いや、全く好意がないとは、ケイトだって思わない。

 だが、以前のようにケイトとの結婚を希望する態度は一切ない。

 だから、ケイトは自分の気持ちに気付いてしまっても、動けずにいた。

 今のクリスとの関係性は、以前ケイトが間違いなく望んだ形で、そして、クリスは今その関係性で満足しているように見えるからだ。

 

 アルフレッドの父親だろうと、ケイトの気持ちを押し付けることはできるかもしれない。だが、そんなことはしたくなかった。

 人の心とは、本当にままならないものだ。

 クリスに言い寄られている時には、煩わしいとしか思っていなかったのに。

 自分が好きだと分かったら、煩わしいと思っていた出来事がないことにショックを受ける。

 そして、何事にもタイミングと言うものがあることを、ケイトは嫌でも理解するしかなかった。

 ケイトは、そのタイミングを逸してしまったのだ。


「アルフレッド。お母さん、本当に駄目ね」

 あの時、逃げなければ。

 あの時、プロポーズを受けていれば。

 もしかしたら今、ケイトは幸せな気持ちでいられたかもしれないのに。

 アルフレッドを囲んで、クリスと笑っていられたかもしれないのに。

 それを全て拒否したのは、他でもないケイトだ。

 

 ケイトは母親と父親が付き合い出したきっかけのロマンスに納得していなかった。

 そんな夢物語の延長上にあるものが、あの生活だとは思いたくなかったからだ。

 だが、そんなのは形でしかないのだ。母親と父親が付き合うきっかけになった形。そこに恋愛感情があったから、母親は父親と結婚までしたんだろう。

 ケイトをあんな男に売ろうとした父親を捨てることなくそばにいることを選んだのだって、父親のことを愛していたからなのかもしれない。

 ケイトにとっては信じたくない真実が、ロマンスの中には沢山詰まっていた。

 だけど、それは、ケイトが勝手に作り上げたロマンスの形だったのかもしれなかった。

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