そんなの関係ねぇ!②【プリシラ視点⑤】
お父様はクラリッサに「くれぐれも頼む」と言って消えた。
ホテルに泊まるのは私とクラリッサだけで、お父様はいつもの男爵のタウンハウスに行くらしい。
私がホテルなのは、逃げられないようにするため……どうやらここの応接間を借りて、見合いが行われるようだ。
ホテルの部屋には大きなスーツケースがふたつと、大小数々の箱──
そこには新品の、身に付けるもの一式。
上等の生地であつらえてあり、デザインも上品だ。既製服かと思いきや……おそらくオーダーメイド。
……いつ作ったんだよ!?
クラリッサはスーツケースの中から化粧品やらなにやらを沢山出し、湯浴みの準備を始めた。
(滅茶苦茶気合いが入っている……)
これはヤヴァイかもしれない。
クラリッサが湯浴みの準備に取りかかっているうちに、逃走経路を確保しておかねば。
私はクラリッサに、「少し食後の散歩に出てくる……夜風にあたりたいの」などと儚げに言ってみるも、彼女には通用しなかった。
でもアッサリ許可してくれた。
「ホテルにはお嬢様を出さないように話を通してあります。 ……逃げようとも無駄ですからね?」
クラリッサ、恐るべし。
流石に抜かりがない。
逃げる事が難しいと、案外ぶち壊すのは難しい。
方法が穏便でなくなるからである。
……穏便でない方法でぶち壊すのは、流石にヤヴァイ気がする。
(仕方ない、見合いくらいこなすか~)
以前の私なら嫁ぐ側……見合いくらいぶち壊しても問題なかったが(←※個人の見解です)流石にこちらに入る、となると少しまずい。
ヘイトを買うのは私だけでいいのだ。
見合いは最終的に婚約が決まらなければいいので、直接相手に嫌われるしかない。──領主に向いてそうなら、マリアンをオススメしよう。
(問題がある令嬢であればいいので、問題ない…………)
問題があるのにないとはこりゃ如何に。
だが私にはピッタリの役どころだ、素でイケる。ただ、問題は問題があることをどうやって示すかだ。
(そうだ! あのことを引き合いに出そう)
あのこととは、勿論キスの事。
大袈裟に『身分の高い方に奪われてしまいました(あとは濁す。嘘ではない)』からのお断りorマリアン選択。
これはいい考えだ……!
だが…………
「……うわまた思い出しちまったァァ!!」(※2度目)
「お嬢様!? どうなさったのです!?」
そしてのたうち回ること数回を経て、私はようやく動き出した。(※2度目)
とりあえず、ホテルの構造くらいは一応確認しておきたい。二人きりになったら逃げるチャンスもあるかもしれないし。
ちなみに先程の奇行はクラリッサにとても心配された。心配とは言っても、主に明日の私の素行が心配なようだが。
こういうところでの見合いは、前世のイメージとあんまり変わりがないようで……両家の代表と当人が揃って軽く紹介を行った後、『あとは若いお二人で……』というかたちになるらしい。
今回の私のように、領地を司る立場の男性を迎える目的を前提とする場合……今回のは単なる顔合わせ。
ここでなにもなければ(そもそも条件が婚姻に大事なわけなので)、2回目に領地の邸宅に招くのが基本的な流れだ。
2回目まで続いたら、もう逃げられない……逃げるにせよ、相手と相談の末マリアンを勧めるにせよ、今回が重要。
(庭園はきっと行くだろう)
『若いお二人で』のイメージ的には、完全に庭園散歩。
外ならば逃げやすいこともあり、ホテル内の庭園へ行くことにした。
しかし……大失敗。
ライトアップされていて、いい感じに薄暗い高級ホテルの庭園──それは、『これから泊まる二人』のための、デートスポットになっていた。
勿論高級ホテル内の庭園。
(少なくともそこでは)いかがわしいことをしているわけではないが……
(これは一人では居たたまれないパティーン!!)
庭園脇にあるカフェにはテラス席。
カフェ内との仕切りは全て開放されており、中で奏でられているピアノの音がこちらに聴こえてくる。
とりあえずカフェに避難することにし、そちらへと足を向けた。
──その時、斜め後方からこちらに向かう一組のリア充の声。
(こりゃ邪魔しちゃ悪い……)
咄嗟に隠れた。
(……ん?)
なんだか聞きなれた声。
薄暗くて良くは見えないが。
「!!」
私の視界に入ってきたのは……ベルナルドと、ジェラルディーン様の仲睦まじいお姿。
「……ここなら確かにいい感じで想いを伝えられそうだ」
「ウフフ、ベルナルドったら」
……口説いている。これは、
明 ら か に 口 説 い て い る 。
……
………………
………………な
なにが『初めて』だ?!
やっぱり口先だけじゃないか!!
チャラい男はこれだから!
ヤツなんか眼鏡かけたってお断りだ!
人類から眼鏡が消え、ヤツだけが眼鏡をかけて現れたとしても、絶対にお断りだ!!
出ていって思いっきり一発ぶちかましてやろうと思ったが……
ベルナルドと、
ジェラルディーン様。
照明と、月明かりに照らされる、庭園。
それはまるで──
白衣×銀縁眼鏡のように繊細で、
三つ編み×黒縁眼鏡のように微笑ましく、
大門×レイバンのように完成されていた。
そのため私は、ふたりがカフェに向かうのをただ眺め……何故か惨めな気持ちで走り去るよりなかったのだ。
芸人ネタが……尽きてしまった……orz
(思い付きで始めるから……)