それがお前のやり方か!!②【プリシラ視点③】
次話、ベルナルド視点は本日21時UP予定です。
「っばか!! このっ……ばかー!! ばかぁぁぁぁぁ!!」
衝撃に語彙が飛んだ。
もっと口汚く罵ってやりたいが、もう『馬鹿』という単語しか出てこない。
とにかく『馬鹿』と言いながら、走った。
そしてこの間と同じ様に、寮の自室。
片隅で咽び泣いてはいないが、その代わりにひたすらウロウロしたりベッドに転げたりした。
ちゅーをしてしまった!
ちゅーをっ……!!
感触とか、ベルナルドの目の色とか、あの時の色々を思い出してしまい、恥ずかしさにのたうち回る。
「ふぐぅぁあァァァァァァ!!」
誰かに見られたかもしれない!
いよいよ嫁にいけないではないか!!
「これはもう市井に降るしか……はっ!」
──そういや平民はどうしているのだろうか。
平民ならば……きっと眼鏡の素敵な方々がいるに違いない!
っていうかなんだったら眼鏡屋さんや眼鏡職人もいるのでは?!
「これは……不幸中の幸い……いや、雨降って地固まる?!」
なんか違うかなーと思いつつ、私は立ち上がる。とにかくもう、眼鏡のことだけ考えるのだ!!
あれは…………そう、事故!!
「……うわまた思い出しちまったァァ!!」
そしてのたうち回ること数回を経て、私はようやく動き出した。
週末の外出許可をとることにしたのだ。勿論、眼鏡及び眼鏡キャラを探しに市井へ出るために。
それからはひたすらベルナルドを避けて過ごした。
あるときは教室の机の下に隠れてから、低姿勢のまま移動……逆側の教室扉、或いは窓から逃走。
またあるときは素直に従うフリをして、油断したところで逃走。
またあるときは、猫だましの後で逃走した。
逃走に必要なのは足の速さだけではなく、トリッキーな身のこなし、地の利を活かした経路の選択や場の物を利用した動き……私の意外な才能が発揮された。
淑女である事を求められる貴族令嬢の日常には、全く役に立たない。……ジョブチェンを希望したい。
──だがとうとう捕まってしまった。
ヤツは卑怯にも、魔法を使いやがったのだ。それは奇しくも初めて声をかけられた場所。
「──馬鹿なの?! つーか馬鹿だろ! 呆れて物が言えんわ! この馬鹿ぼっちゃま!!」
(みだりに魔法を使う行為は、どんなに軽くても停学だぞ!?)
誰もいないとは思うが、迂闊に口にもできない。──そう、『みだりに魔法を使う行為』は重大な校則違反だ。
どんなに軽くても、停学。
普通は退学。
重ければ放逐。
更に重ければ放逐したうえで、家にも責任がかかる。
だがベルナルドはそんなものどこ吹く風、といった感じで私にツッコんだ。
「呆れて物が言えないもなにも、充分言ってるじゃない。 プリシラ」
「うるせぇわ!」
ヤツは、はあ、と溜め息をひとつ吐き、非常にシンプルな理由を述べる。
「だって君、逃げるから……」
「そりゃ……! ……………… 」
思 い 出 し た 。
今一瞬忘れてたけど、思い出した。
「!!」
「おっと!」
繰り出した三度目の物理攻撃は不発。それどころか腕をとられてしまう。
「プリシラ。 僕ら人間は、幸いにして言語という手段を持つ。 まずは話さない?」
「ほほう……盛った獣の様に見境のない貴様に、人としての在り方を問われるとは思わなんだ……」
「それはまた随分な言われようだな……」
ガックリと肩を落とし、腕をとっている手の力を緩めるも……離してはくれそうにない。
仕方ないから言い訳ぐらいは聞いてやろうと思う。だが舐められたくはないので、尊大な態度を続ける。
「良かろう、話すがいい……」
「好きだ」
あくまで聞くだけであるという姿勢で放った、私の魔王風口調(※尊大イメージ)の言葉の途中で…………なんか言い出した。
「は?」
「好きだ、プリシラ」
「…………」
初めてのキスの次は、初めての告白。
私の頭は一瞬真っ白になった。
「…………」
「プリシラ……?」
「……アンタ、
そう言や済むとか思ってんだろッ?!」
「いや、違うよ?! 確かに今までの僕の素行はちょっとアレだったから信じられないのはわかるけど! こんな気持ち初めてなんだ! 好きだって自分から言うのも……」
「アホか! 誰が信じるか!! 眼鏡かけて出直してこいや!」
「えっ!? ……めが……えっ?」
私はもうそれ以上聞く気もなく、その場から走り去った。
何故ならば……
本気にしてしまいそうだからだ!!
なんてチョロいんだ私!!
眼鏡でもない男……しかも唾棄すべき、チャラ男なんぞの告白を真に受けるなんて!!!
(落ち着け私! ……私は別にイケメンスキーではなかった筈!!)
深呼吸を行いながら、三回『眼鏡』と唱える。
『眼鏡×2』で息を吸い、最後の『眼鏡』で息を吐く。
そう、私の好きなのは眼鏡キャラである。断じてイケメンチャラ男ではない。
ドキドキしているのは、走ったせいだ。間違いない。