それがお前のやり方か!!①【プリシラ視点②】
次話、ベルナルド視点は約2時間後、9日0時に更新です。
ベルナルドはそれからも私の前に現れた。
「やぁ、仔猫ちゃん(笑)」
ヤツは女の子と見れば『コイツの脳ミソ甘味でできてんじゃねえのか、ゼリーとか』と私に思わせる程、イチイチ甘い台詞を吐く。そのせいで私は気色の悪い想像をしてしまい、ゼリーを食べられなくなった。非常に迷惑している。
しかも私への甘ったるい台詞には、小馬鹿にした臭いがプンプンする。
それでも一応それっぽい台詞を吐くのは、多分ヤツの仕様に違いない。
「ご機嫌よう、馬鹿ぼっちゃま」
最早私も隠すことなくぞんざいな台詞で返す。
コイツのお陰でモブキャラだった筈の私の、学内でのイメージは『仔猫』どころか『仔ゴリラ』だ。
嫁の貰い手に不安が凄い。
なんとか『眼鏡をかけてくださるナイスミドルの後妻』くらいには収まりたいところ。
「全くつれないお姫様だ。 少し笑顔を向けてくれるだけで、僕も満足するんだがね?」
「生憎スマイルは売り切れですの。 他をあたってくださらない?」
「厳しい言葉も刺激的だな。 僕が見たいのは君の笑顔だ」
「クソうざですわね。 やんわり言ってるうちにさっさと失せろあそばせ?」
「既にやんわりじゃないよね(笑)」
端から見るとベルナルドは、私を口説いている風に見えないこともない。だが実際は、このふざけたやり取りを楽しんでいる様子。
正直なところ、私ももう彼のしたことをそんなには気にしていない。どうせ私の好きな眼鏡様はいらっしゃらないのだし、もともとモブレベルの人間だ。むしろ自由に振る舞えるようになったとも言える。
まあコイツがあんまりうざいときは怒るくらいで。
「で、君いつも何してるの?」
日がな図書室に通う私に、ベルナルドがそう尋ねるので、溜め息を深く吐いた。
「私にもよくわからん……」
お前こそ何しに来るんだ、というツッコミも出ないほど、私は無力さを感じていた。
サッパリわからない。
どうすれば皆が眼鏡をかけてくれるかが。
最初は眼鏡に魔力付与を行い、装備として使う……とか考えたのだが、魔力を上げる日常の装備は、結局のところ目立たないのが基本。
それに私の微々たる魔力を付与したところでたかがしれている。
私の『全人類眼鏡化計画』は早くも暗礁に乗り上げていた。
「何を悩んでるのか知らないけどさ、気晴らしに美味しいものでも食べにいかない? 甘いものとか」
「女子が皆甘いものが好きだと思うなよ! 安直極まりない!!」
「じゃあ辛いもの?」
「……ちょっと、静かにしてくださらない?」
図書室なのに騒ぎすぎてしまった。
注意をしたのはボリュームのあるピンクベージュのお髪をふわふわと揺らせた美しいご令嬢……
アッカーソン公爵家御令嬢、ジェラルディーン様。
王子妃候補と囁かれる方である。
……実に眼鏡がお似合いになりそうな、理知的な美少女だ。
「これはジェラルディーン様。 失礼を」
「静かに学ぶ気のない方はここには相応しくありませんわ」
「そうそう……出よう、プリシラ。 ではご機嫌よう、アッカーソン嬢」
何故私も出ねばアカン、お前だけ出りゃ済むだろ……とは思いつつも、ここで揉めたら迷惑の上塗りなので仕方なく出る。
「……しかし流石、モノホンの美少女は違うな!」
イケメン・美少女が多い中でも、ジェラルディーン様は別格である。小説でいうところの『悪役』という名のヒロイン令嬢に相応しい。
彼女ならどんな眼鏡もなんなくかけこなすだろう。野暮ったい眼鏡は彼女に愛らしさと親しみやすさを与え、スタイリッシュ眼鏡は彼女の知的さと高潔さを増すに違いない。
「なに? プリシラは女の子が好きなの? ……ホラ、美形なら目の前にいるじゃない」
「すげぇ自信だな……」
呆れたが、確かにベルナルドもモノホン美形だ。
私に顔を近付けたベルナルドを、改めてまじまじと眺める。
「プリシラ? どうしたの、見とれちゃった?」
「ベルナルドの目って、不思議な色してるね。 綺麗」
青とも緑とも言えるような、そんな色。
多分、碧とか翠とか……そんな表記で表すに違いない。
(シンプルな銀縁眼鏡……細いタイプが良いだろうか。 いや、いい意味でチャラいというか、敢えてハズシにかかって丸、というのも……何気に髪と同じオレンジのグラサンもいいかもしれない。 昔のレイバンの様なティアードロップ型も、コイツならシャープかつ、ゴージャスな印象に……)
「…………プリシラ」
「なに? ふぐっ……!」
気が付けば廊下の柱の陰。唐突に私は唇を奪われた。
──ファーストキスだった。
ファーストキスは眼鏡の方と決めていたのに!
2回目は眼鏡が邪魔で外す、というシュチュエーションが憧れだったのに!!
私は再び、ベルナルドのボディにワンパンお見舞いした。
余談ですが、ゼリーを冷凍庫で固まらせると、脳ミソ感がアップする場合があります。