表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/13

……なんて日だ!【プリシラ視点①】

 

 ベルナルド・ポッド様。

 流石極モテ・チャラ男だけあり、物凄いイケメンだ。


 だがそんな麗しき(かんばせ)など、今の私には辛いだけ……しかもチャラ男属性とか、反吐が出るほど嫌いな私。

 これが眼鏡キャラならばまだ許せたものの……と思うと、尚のこと切なさが込み上げてくる。


  「なんでもございません。どうぞ、お気遣いなく」

  「でも、泣いているじゃない」

  「これは……心の汗です!」


 よくわからない理屈で私が立ち去ろうとするも、何故か腕を引き寄せられた。


  「君の様な愛らしい娘がそんないたいけな姿を晒すというのは、男共には目の毒というものさ。せめて涙が乾くまで、僕の胸に隠れているといい」


 私の理屈も酷いが、コイツの理屈はもっと酷い。よくそんな台詞がスラスラ出てくるモンだ。甘すぎて顎がガタガタならんのか!


  「間に合ってます! もう乾きました!! 吟遊詩人にでもおなりになったら如何ですか?」


 ついうっかり余計な一言を足して、私は奴から離れた後、不快感と怒りをあらわにしながら立ち去った。


  (せめてコイツが眼鏡キャラならば……嫌いなチャラ男属性であれど、もう少しときめけたものを……!)


 そう思わずにはいられない。


 私は再び溢れる涙を拭いながら、決意した。

 本当に眼鏡キャラは存在しないのか。

 まずはそれを確かめよう、と。




 結果は惨憺(さんたん)たるものだった。

 私は自ら傷口に塩を塗り込む行為を行ったに過ぎなかった。


 ──眼鏡…………いやしねぇ。


 私はその事実に、寮の自室の片隅で(むせ)び泣いた。




 ありがちな設定だな~と思うが、案の定魔力は上の爵位程高い傾向にある。まあ、魔法を使えるという優位性を考えると、どうしても爵位との相互関係が生まれるのは当然の事だろう。

 故に女子は魔力が高いほど良家に嫁ぎやすい。


 血に関係するとはいえど、勿論個人の能力だ。家柄がいい方が魔力量が高い傾向にあるだけで、関係なく魔力が高い人はいる。


 そして子爵令嬢のこの私だが……


  『まっまさかッ!? 子爵令嬢の分際でこの魔力とは……!!』


 ……等ということもなく、子爵令嬢に相応しい、安定の下の上から中の下スペック。

 そして別に、淑女としても学生としてのスペックも高くない。ちょっとばかり前世の記憶があるだけである。(しかも役に立ちそうもない)


 この世界の、私の周囲の人間に、一向に眼鏡がいない理由……それはおそらく魔力にある。身体能力が自然と強化されるのだ。

 つまり、視力が衰えない。

 故に……眼鏡なんかかけてたら『僕、魔力が少ないです』と公言して歩いている様なモンだ。

 貴族なんて、舐められたら終わり。

 ……かけているヤツなどいるわけなかった。



 ──だが、挫けぬ……!!


 鳴かぬなら、鳴かせてみせようホトトギス……

  『いないなら、作ってみせよう眼鏡キャラ』!!



 こうして私の無謀な挑戦は始まった。



 始まったとは言っても、まず、なにをすべきかすら思い浮かばない。ノープラン……滅茶苦茶無謀である。


  (とりあえず図書館にでも行ってみることにしようかな……)


 何を調べるかもわからんが、なんかしら発想のヒントになるものがあるかもしれない。その程度の期待を胸に、私は終業の鐘とともに席を立ち、教室を出ようとした。


 ──その時だった。



  「やあ、プリシラ」

  「!」


 ザワッと教室が揺れる。──震源地、()()


  「チャ……げふんげふん、ベルナルド・ポッド様……ご機嫌よう」


 なんと、チャラ男/ベルナルド・ポッドが私の元に現れたのだ。



 なんて迷惑な男だ、名前を呼んできやがるとは……!

 仲良くもないのに、こんな目立つところで!

 大体にしてなんで名前を知っている?

 わざわざ調べたのだろうか。暇人め。



  「何故私の名前をご存知で?」


 関係なんてないんですよーアピールをしつつ、自然なレベルで声を張る。しかしチャラ男は、可愛らしく首をかしげてしらばっくれる。


  「君だって、僕の名を知ってるじゃないか」

  「私と違って有名でらっしゃいますから」


 眼鏡キャラでないただのチャラ男など、全く可愛くない。あざとさMAXだ。

 眼鏡をかけてから出直して頂きたい。

 話はそれからだ。


 イラつきからつい嫌味を含めた返しをしてしまった。だが迂闊な気持ちの吐露は、非常に面倒な事になると前回反省したので、やんわりとどっか行けオーラを醸すことにする。

 なるべく穏便にどっかいってほしい。


  「ベルナルド様。 先日は(ふさ)いでおりました私へのお優しいお言葉、ありがとうございました。 お陰様でこの通り元気ですので……もうお気遣いなく?」

  「随分と殊勝な態度だね」


 そうベルナルドが言うと、私は重力を失った……かのごとく身体が浮いた。

 ヤツが私を抱え上げたのだ。


  「ちょっと?! なにをっ……!」

  「きっとこれは熱でもあるに違いない。 さあさあ保健室へ」


 淑女にみだりに触れるなどとは……とんでもねぇ輩である。

 しかも行き先が保健室とか、嫌な想像を掻き立てられる。



 嫁入り前の、やんごとなき貴族のご令嬢が通っているのだ。学園は万全の警備体制にはあるし、秩序のために校則違反者には、階級関係なく厳罰がくだる。

 実際に学校で不純異性交遊に及ぶことは、相当難しい。



 ──だが滅茶苦茶外聞悪いことは間違いない!!


 荷物を運ぶように私を担ぐベルナルドの背中を、ぽかぽかと叩きながら叫ぶ。


  「降ろせ馬鹿! ただでさえ低スペックの私の経歴に傷を付ける気か?!!!」

  「おや、元気じゃないか」

  「うるせぇフザケロ!」

  「貴族令嬢らしからぬ言葉遣い……これは宜しくない。 よしわかった僕が色々と教えてあげよう」


  「要らん世話だぁぁぁぁぁぁ!!」



 イチイチ言葉の内容がいやらしい感じで変換されるのは、ヤツの存在が卑猥であるからに間違いない!

 眼鏡を不敵に光らせて言ったならば、まだ()()ものはあったかもしれんが、生憎私に通用すると思うなかれだ!!



 脚をまとめられて押さえられている為、足技は使えない。私は右拳を固め、おもいっきりヤツの鳩尾(みぞおち)に叩き込んだ。


  「ぐふぅっ!?」

  「甘く見んなよ! このクソぼっちゃまが!!」

  「……じょ……冗談に決まっているだろうが……君こそ淑女としてどうなの? なんて乱暴なんだ……!」


 苦し気な声を発しながらも、ベルナルドは私をゆっくりとおろす。……この辺だけは女たらしとして見上げた根性であると認めよう。──だが、


  「やっていい冗談と悪い冗談の区別もつかんのか!? そういうところがクソぼっちゃまだと言うんだ馬鹿め!」


 おふざけも大概にしろ…… つまりはそういうことである。




 ベルナルドは騒ぎを聞いて駆けつけた先生方にしこたま怒られた。いい気味だ。


 ──しかし同時に、淑女としてのプリシラ・レミントンはこの日、死亡した。


 ちょっとこう……お転婆すぎた。



 全てベルナルド・ポッドのせいだ。


踏んだり、蹴ったり。抱えられたり、殴ったり。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] オロロンと泣いたり、踏んだり、蹴ったり。抱えられたり、殴ったり。良いんじゃないでしょうか? ちなみにオロロンとは鳥の名前。これ豆知識な。
[良い点] むむ、「僕、魔力が少ないです」と思われたくないから、という理由ならば、眼鏡自体は存在するのですね!? でも、これ、実は実力あるけど隠しちゃう系キャラでも使えそうな設定だな(ぉぃ
[一言] 眼鏡!それだけで理知的に見えますのよ、オーホホホホ←楽しみに読んでおります。ぼちぼちと頑張って下さいましー
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ