……甘ぁぁぁい!【プリシラ視点⑦】
もう無茶苦茶だ。
一から十まで全部無茶苦茶だ。
なんでコイツがあの時話し掛けてきたのかわかって、頭に血が昇って……
…………逃げた。
いつから?
どうして?
ジェラルディーン様は?
聞きたいことはいっぱいある。
いっぱいあるのに、聞きたくなかった。なにを躊躇っているんだろう?
グチャグチャした気持ちで走る。
答えはすぐに出た。
私はベルナルドの告白を──
『好きだ』という気持ちを、信じたいんだ。
なにかを聞いたらきっと、責めてしまうだろう。
責めたら自分の気持ちを認めているようなものだ。
認めてしまったら、悲しくなってしまう。
私はヤツの気持ちを、信じられないのだから。
きっと、私が責めることが何故か、ヤツはきちんと理解しない。責めてしまって、謝られてしまったら終わりだ。
もうなにもかも、私の耳には言い訳としか届かないだろう。
「プリシラ!!」
結局、庭園で捕まった。
がむしゃらに放った私の攻撃なんか簡単に防がれてしまう。
私はみっともなく泣いてしまっていて……それを見られたくなくて、掴まれた腕をブンブンと振り回した。
「っ……離せっ……!」
「……嫌だ」
聞きたくない。
「──僕はプリシラが好きだ」
「嘘だ!」
「嘘じゃない、好きだ」
「煩いッ」
「好きだ」
「……黙れ! 聞きたくな」
「好きだ!
僕は、プリシラが好きだ!!」
ガッカリしたくない癖に、どこかで終わらせてしまいたい私の気持ちには沿わず、ベルナルドはそれしか言わない。
──馬鹿じゃないのか?!
頭にきて顔を上げた。
「好きだ」
「…………」
なんでコイツは──……
(なんでコイツは泣いてんだよ……意味わからん……)
「…………なんで、アンタが泣いてんの」
「…………え?」
……なんか間抜けな返事が返ってきた。
ズルいズルいズルい。
こんなの、ただでさえズルいのだ。
言い訳ぐらいしろ。
辻褄の合わない気持ち。
……馬鹿は私であるのは間違いない。
ベルナルドは馬鹿というか……どうかしている。
脱力して、溜め息が出た。
脱力?……違う、これは。
(──好きなんだ……)
そう信じてしまうのは、チョロいだろうか。
……チョロいのかもしれない。
抱き締められた私は、少し抵抗をしてみたけれど……実際どうしていいもんかわからなくて、抵抗をやめた。
「……好きだ」
馬鹿の一つ覚えみたいな、ベルナルドの言葉。走ってからもう結構経っているのに、心音が凄く速い。
(ああクソ……)
眼鏡もかけてないくせに。
眼鏡キャラじゃないくせに。
……眼鏡キャラのいない異世界転生などに、ときめきがあってたまるか!
結局私は素直になんかなれなくて、意地悪な台詞を吐いた。
「……逃げないから。 言い訳くらいは聞いてやる」
それは自ら『好き』を『言い訳』に変換させる言葉。
疑いを消せない、可愛くない私。
──でもベルナルドはそれにも乗ってこなかった。
「言い訳もなにもない。
……好きなんだ、僕は君を」
完敗だった。
もうチョロくても良いことにした。
短くなってしまった……orz