それぞれのプロローグ
僕はベルナルド・ポッド。
ポッド侯爵家の次男だが、それもそのうち変わる肩書きだ。
──侯爵家『次男』で、しかも先妻の息子である僕に、実家での居場所はない。
義母は母の侍女だった人だ。
穏やかな優しい性格で、母に似た僕をとても可愛いがってくれている。……ちなみに母は死んでない。珍しいことではあるが、離縁している。
父・母・義母との関係はちょっとおかしなモノだ。
義母は父と母に対して敬愛しているというか、崇拝しているというか……そんな感じであり、出ていった母も彼女と仲良しである。時折訪ねて来ては、義母と楽しげに過ごして帰っていく。
話を戻すと、義母は母ソックリの僕も可愛がってくれている。
だが父は嫉妬深く、それをよく思っていない。先にも述べたように、義母は母の侍女だった女性──当然僕も小さい頃からお世話になっているというのに、なんて狭量なんだと思う。
そんな訳で、僕は幸せ家族にとって邪魔者なのである。
別にそれを拗ねる様な年齢でもない。
しかも学校は寮……僕にとっては然したる問題ではなかった。
──ついこの間までは。
父から手紙が来た。
おそらくは、縁談。
侯爵家とは言え、『両親(家)と不仲の素行の悪い次男坊』……
ワザワザ家に入れたい、とは思われないようなイメージを作っていたのだが。
(ついに来てしまったか……)
学生時代に婚約が決まる人は少なくないが……それよりも圧倒的に入学前に決まる人が多い。不都合な家柄の異性にうつつを抜かさない為である。
従って学園は恋愛に寛容ではない。
特に、不貞には厳しい。
来る者拒まずの態勢をとっている僕だが、実際は誰ともやましいことなどはしていない。
イチイチ不貞になるか否かを調べるのが面倒だからである。
不貞にならなかったとしても、万が一結婚になんてなってみろ…………
僕はきっと結婚には向いていない。
なにしろ父と母の子だ。
幸い兄とは仲が良い。僕は結婚なんてせず、魔力を領地経営に役立てようと思っていた。
兄は対外的に仲が悪い風を装ってくれ、たまに来る縁談も父に通る前に潰してくれていた。
だが今回は、父に見つかってしまったらしい。
しかも、素行の悪いフリが裏目に出た。
「なん……だと?」
あまりの衝撃に、手紙と一緒に入っていた絵姿を落とす。
それは縁談の為のものではなかった。
僕を『女好き』と認定した父は、義母に近付けたくないがために、本人の了承なくさっさと婚約を決めてしまったのだ。
結局は逆らえないにしても、これはなかなか酷い。
だが、婚約者も学園生活を送っているらしかった。
──プリシラ・レミントン。それが彼女の名。
★★★★★
──それは突然の出来事だった。
私に前世の記憶が戻ったのだ。
私はプリシラ・レミントン。
レミントン子爵家令嬢である。
そして前世の記憶では、日本人女子であることは間違いない。
特権階級が通う、きらびやかな学園。
そして魔法。
美少女にイケメンだらけ。
(あらやだ私、乙女ゲームの世界にでも転生したのかしら……なんつーテンプレッ!)
そんな小説を読んだ記憶があるため、そうは思ったものの、肝心要の乙女ゲームに心当たりはない。
まあ……そもそも乙女ゲーム自体、あんまり知らんのだが。
万が一そうだとしても、少なくとも私は地位的にもスペック的にも、大した役どころではなさそうだ。
──だがそんなことはどうでもいい。
私は暫くしてからあることに気付き、愕然とした。
眼鏡キャラが…………皆無である!!!!
私は眼鏡キャラが大好きだ。
フツメン、モブっ娘の魅力と個性を3割増し……或いはそれ以上に引き上げる魔法のアイテム。
それが眼鏡。
どんなイケメンでも美少女でも、眼鏡をかけるべきだ。
よく『眼鏡をとったら、あら美形』という設定があるが、むしろ『眼鏡をかけたら、更に美形』にしていただきたいと、常々私は思っている。
何故ワザワザとるのか、解せぬ。
風呂と寝るとき以外は常につけているべきだ……いや、たまにかけ直すのはとても良いと思うので訂正しよう。
風呂と寝るときとたまにかけ直す(※そのペースはおよそ毎時1回とする)とき以外は、常につけているべきである。
つまり、眼鏡率0%のこの状況は──絶望。
なんで前世など思い出したというのか。
私が学園の裏庭でオロロンと泣いていると、イケメンがやってきた。
「どうかしたの?」
彼は極モテ・チャラ男で有名な、侯爵令息のベルナルド・ポッド様だった。