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♰NICOLAS-DAGRAVIUS♰  作者: ❁花咲 雨❁
◆第10話◆
57/73

悪魔の実験 ①

【残雪の都=エボーラ】


 星十字騎士教団(クロス・シエス)=極秘研究施設:PROTON FALL DOWNにて──施設警備員及び、北方支部所属の星騎士達が完全武装包囲で守りを固めている中、その指揮系統を握る副官ジェイビス・ダーウィン中将は、招かれざる客人に腕を組みながら、淡々と話をしていた。


「貴様ら中央の人間に手を借りるつもりはない! たかだかガキ1人を捕まえる為だけに北方まで出張ってくるとは……三下がッ! ここは要塞と謂われている残雪の都。そして、世界政府管轄下でもあるエニス様の城だという事を忘れるな! 例え教団の中枢であろうとも、この施設内部を好き勝手に歩き回られては困るんだ。それにもし、仮に不測の事態になろうとも、この要塞から逃れる術は皆無……北壁の知将と知られるエニス様を出し抜く事は不可能だ!」


 玉座に鎮座する白き智天卿(ケルブ)──大柄で重厚なその鎧は、白霧の国:四大天の1人……大将エニス・キャンティである。


 一言も話さない北壁の知将を前に、派遣された黒騎士の部下達は、底知れぬ四大天の恐ろしさを垣間見た。


「恐れながら……我々の立場と致しましても、このまま何もせずに帰還する訳にはいきません。我ら5人、主天豪(ドミニオン)の称号に誓い、無闇な詮索等は一切致しません。ですから、彼らが此処へ来るまでの間……この支部への滞在をお許し下さい」


 そう述べたのは、黒騎士率いる中枢小隊:副官ライオネル・ディング少将であった。


 その背後には同じく4人の少将が膝をつき、頭を下げている。


「黒騎士は来ぬのか? 同じ七星ともあろうに……彼奴がこの俺と同格に扱われている事が、そもそも気に食わんのだ! 部下だけを送りつけおって……まぁ、七星とは言えその内、実力のある者は実際、四大天の副官を務めている俺を含めた4人だけだがな。中央で腑抜けている3人など我々と同格に七星などと呼ばれているだけありがたいと思って欲しいものだ」

「その辺にせんか……妾の顔に泥を塗るつもりか? え……ジェイビス?」


 唐突に口を開いたエニスの声は、鎧に反響したような啜れているモノで、あまりにも女性だとは思えなかった。


「申し訳ありません……黒騎士の事になると、つい……」

「貴様は七星であろう。それに、貴様は妾の副官なのだ……中央の出涸らしとは、その実力が違う。その称号に誇りを持って行動しろと、常々言っておるではないか! そうムキになるような相手ではない。白霧にて北方こそが最強! 妾が最強! 中央のクソジジイに胡麻を擦っておるような連中など、この妾は信用などせん! いずれは、妾がこの国の元帥となるのだ……貴様らも妾への態度は考慮しておくべきだぞ。妾が帰れと言っておるのだ……優しくしている内に大人しく、あの黒き新参者の元へ帰るがいい」


 無茶苦茶な応対に為す術もなく、第一師団:中枢小隊の5人は拳を握り、部屋を後にした。



* * * * * *



 一方、目覚めたレイスとアレクは、久しぶりに会ったザックとナルバに歓喜し、その再会に胸を弾ませていた。レイス暴走以降の事情をランドールから聞かされた2人は、ザックとナルバに感謝をすると共に、生きていた事への感謝と喜びを互いに抱きしめ合う。


「良かった……2人とも生きていたんだね。2人が無事でなによりだよ」

「ありがとな。2人のおかげで命拾いしたみたいだ」


「2人共、孤児院じゃポンコツだったからなぁ……アレクは脳筋馬鹿だし、レイスは落ちこぼれだし、やっぱりオレ様がいないとな! なぁ、ナルバ! オレ達に任せておけば、万事解決よ!」

「にぃ……ナル達も実際、そんなに強くないよ……」


 その実力はまさに子供同然……これから教団の北方支部へと乗り込もうというメンツにしては、些か心許ないと言うべきか、堕天(シンラ)の幼児に記憶喪失の蛙、実力はあるが決定的に馬鹿なアレクと荷物持ちしか能の無いレイス、治癒能力しかない兄妹。


 唯一、頼りになるメルティは教団内部への侵入が不可能。以前の入団試験乱入に際し、教団側が迅速な対応でメルティ対策を講じているのだった。その為、施設への潜入は主に6人での結構となるだろうが、そこでザックがプランを立て始める。


「オレとナルバは此処に残る。大口を叩いたが、実際問題……着いていっても、足手まといになるのが関の山だ。最悪の場合に此処まで逃げて来られれば、メルティとオレ達が助けてやれる。所謂、緊急避難所って感じだな。それと、アレクとレイスは別々に動いた方がいい。2手に分かれて、アレクはメルティの言っていたジョゼフとかいう人を探せ……レイスはアマンダとジュリアを頼む!」

「何でテメェが色々と勝手に決めてんだよ!?」

「でも、ザックの案は一理あるよ。目的は2つ……2手に分かれるのが得策だろう。それに、メルティとの約束はアレク、君がした約束だ。例え僕らを助ける為の決断であったとしても、僕は未だにメルティを信用出来ない。だから僕はアマンダ達を探しに行くよ。アレクはアレクのすべき事をすれば良い」


「こりゃ……手厳しいねぇ。僕はレイス、君に協力して欲しかったんだが……仕方がない。アレク、宜しく頼むよ」


 少し悲しげな表情を浮かべるメルティをチラリと見たパトリシアが、徐にアレクの袖を掴む。


「パティはアレクに着いてゆくよ。ジョゼフって人にも興味があるし……」

「パティ……サンキューなっ。分かったよ。アマンダとジュリアは、レイス……お前に任せる!」


「なら、俺はレイスと行くって事で……体術くらいならアレクとの組手で散々やったからな。足手まといにはならないと思うよ」

「ありがとう、頼りにしているよランドール」


「北方支部の手前までは僕が送ろう。結界を抜ければ、その先は一切僕の手助けはないと思ってくれ。アレク、ジョゼフを頼んだよ。それと、レイス……君とはいずれ、分かり合える時がくるさ。さぁ──準備が出来たら行こうか! 前代未聞、不落の要塞=北方支部を落とす時だ!」



* * * * * *



 北方支部潜入10分前──極秘研究施設最下層。


 そこには、水槽に眠るジュリアを静かに見つめ、子守唄を歌うアマンダの姿があった。


 その歌声は施設地下内部に響き渡り、清らかな歌声は聴く者の心を落ち着かせる。


「──心配しなくても、大丈夫よ。ザックとナルバも、無事でいるから。あの子達は強いもの……」


 すると、不意に現れた少年がアマンダの背後に立ち、そっと背中に触れた。


「君だろ? ザックとナルバの逃走に手を貸したのは……大人しく此処にいれば、安全だと言ったのに……それにしても、ジュリアを連れ出さなかった事は懸命な判断だったよ。今の不安定な状態で、無策に逃げ出してもいずれ、身体は崩壊し……ジュリアは絶命する。それよりも、俺達に協力して少しでも延命させてやるのが親心ってやつだろう? 母親のプログラムに支配された哀れな機械人形……精々、役に立ってもらうよ……これも全て、ジュリアの為だ。我が名に従え──アマンダ、邪魔者を排除しろ」


「分かったわ……レジナルド……」

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