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♰NICOLAS-DAGRAVIUS♰  作者: ❁花咲 雨❁
◆第08話◆
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星騎士と霊星術師 ⑤

 数分前──レイスとチェスターが寝室で、会話をしている最中の事である。


「ほら、チビ助……終わったか?」

「まだだよ」


 夜中にトイレをせがまれたアレクはパトリシアを連れて、廊下の暗がりに1人しゃがみ込んでいた。


 そこへ丁度、ランドールとサジがやって来るとアレクに驚きもせず、その状況を察する。


「アレクじゃないか、またパティの付き添いか?」

「あぁ……何でこのチビ助は、レイスと同じ部屋じゃないんだろうな? 毎度毎度、ホント勘弁して欲しいよ」

「アレクさんはパティちゃんに気に入られているんじゃないのかな?」


 笑顔で答えるサジはアレクの優しさに気が付いていた。文句を垂れながらも、こうしてパトリシアに付き添っている事実に穏やかな優しい気持ちを抱く。レイスとは似て非なる優しさの形にサジは、敢えてアレクとパトリシアを同じ部屋にしていたのかも知れない。


「サジ、お願いだから、部屋を変えてくれよ」

「ふふっ、私の両親も言っていましたよ。アレクさんは意外と面倒みがいいって」


 そんな他愛のない雑談を交わし、2人はそのまま技術室へと向かった。


 ここ数日、リハビリの合間にランドールの事まで面倒を見てくれているサジは、実に研究熱心な技術者であると感心を抱かざるを得ない。


 蛙であるランドールの事を知り、逆に興味を示すサジは腕輪以外にも色々と取り組んでくれていたのだった。


 こんな遅くにまで2人は試行錯誤を繰り返し、これからの事も踏まえて技術的サポートを申し出ていたサジは、本当にいい人であるとアレクは思う。あの優しい両親に育てられ、何不自由なく育ってきたのだろう。


 そんな、温室育ちな印象が彼女にはあった。


「おい、まだかぁ〜?」

「…………」


 少ししてなかなか出てこないパトリシアに声を掛けてみると、返事のない状況にため息を大きく吐き、徐に立ち上がったアレクはトイレの扉を軽く叩く。


「お〜い、早くしろよぉ……お〜い!?」


 すると、そっと扉を開けたパトリシアが悲愴な表情を浮かべてアレクを見つめると、徐に肌を黒紫色へと変異させて感覚を研ぎ澄まして言う。


「──人が……たくさんいるよ……」


 その言葉に慌てたアレクが急いで走り出すと、途中で物陰に隠れているランドールと出会した。それも、パトリシアと同様に不穏な表情を浮かべて……息を殺しながら玄関を見つめている。


「あっ、アレク……丁度良い所に! どうやら、教団の人間がレイス達の事を探しているみたいだぞ……一応、サジには大まかに事情を話したけれど、両親は俺達が教団に追われている事実を知らない」

「今は捕まる訳にはいかねぇ……どうにかして逃げないと、パティが外の様子を確認しに行ったが、どうやら既に囲まれているかも知れない。ランドール、今すぐレイスを起こそう!」


 焦りを見せるアレクを見てランドールは意を決し、玄関へと向かう。


「こんな夜更けにどうしたんですか?」

「あぁ……君か、星騎士様が人を探しているみたいなんだが……」

「物騒よね。バケモノなんて……小さなバケモノと少年を見てないかって」

「ランドール……どうしたの!?」


 事情を聞かされていたサジが驚いた様にランドールを見つめると、1人の星騎士がフードをとり、ランドールの瞳を見つめた。


「ランドール……君は確か……」


 フードをあげたその容姿は以前にも見た事のある白髪で、気品溢れる天女の姿であった。ランドールが教団に保護されていた時に身元調査に現れた大隊長カロン=ヴァディアンその人である。


「カロン大隊長、この者をご存じなんですか?」


 すると、隣の女性もフードをあげ、整った黒髪ショートに鋭い眼光を見せた。


 その瞬間、そのやり取りを遠目で伺っていたアレクが目を見開く。入団試験の試験官を務めていたジェリス=ヴェチェットが、追手である事に驚愕すると同時に、そこへパトリシアが戻ってくる。


「アレク、完全に包囲されてる! 家の周りに少なくとも20人以上は星騎士が待機しているよ!」

「やられた! 既に身元がバレている! このままやり過ごそうなんて甘っちょろい考えが馬鹿だったか! 逃げるぞパティ! 今捕まったら確実に殺される!」


 そしてアレクは咄嗟にパトリシアを抱き、ランドールに目を向けるとまさにカロンが腰の剣を抜こうとしていた。


「ランドール!」


 既に斬りかかろうとしていたカロンの斬撃をアレクの一声で気がつき、ギリギリの所で避けると有無も言わさず走り出した。その一連の動きにジェリスが両親の首を刎ねた。アレクとパトリシアの姿をその目に捉え、情報の確信を抱くと同時に匿っていたサジの両親を殺す。


「えっ……」

「あっ……」


 目の前で落ちた2つの頭部に走り去ってゆくランドールとその後を追う星騎士カロン。その光景に呆気に取られたまま、サジの顔には両親の血飛沫がかかり、世界を残酷に染め上げた。


「ぱ、パパ……マ……えッ……あ、あああああああああああああ! パパ! ママ!」


「カロン大隊長! そのまま追って下さい! 私は外から固めます!」


 ジェリスはただ単純に冷酷な判断を下すのみ。斬り捨てた次の瞬間にはレイス達の逃亡を阻止する為に待機している部隊と合流し、すぐさま指揮を執るのだった。カロンは逃げ出したランドールを追いかけて、そしてレイスの元へと辿り着く。


「ここまでだ貴様ら! 揃いもそろって、逃げ出すとは臆病者だな……貴様らのせいであの家族は殺されたってのに、悪びれる事もなしかい? ジェリスも娘だけは斬らなかったみたいだけども、本当に優秀な奴だよ。あの一瞬で……」

「今、殺したって言ったか……?」


 不気味にレイスが質問をする。


「やめとけ! 相手は大隊長だぞ……俺達の敵う相手じゃねぇ! サジには悪いがここは逃げるぞ!」

「逃げ場はないぞ。外には私の部隊が既に取り囲んでいる。大人しく捕まりさえすれば、そこのバケモノの命だけで勘弁してやらんでもない。いい話だろう? 貴様らの命は保証して……」

「だから……今、殺したって言ったのかって聞いてんだよ!」


 殺意を露にするレイスは全身から膨大な霊素(アストラ)を解き放つ。


 空気が圧迫される程に威圧的な敵意。憎悪に呑み込まれてゆくレイスの感情は次第にメファリスと共鳴しだしていた。そして、その場に居合わせた全員が、レイスの背後に1人の少女を見る。綺麗な黒髪を靡かせて、不敵にほほ笑む少女はレイスの背後からその腕を回し、抱きしめるようにしてカロンを紅蓮の瞳がギョロりと見つめていた。


「め、メファリス……」


 アレクだけがその光景に違う感情を抱いていた。他の者が恐怖や不気味さを抱く中でアレクだけが、そっと涙を零して笑みを浮かべている。それがメファリスに対しての感情なのか、はたまたレイスに対する感情なのかは分からないけれど、それでもどこか嬉しそうに笑っていた。


 そして、次の瞬間に堕天(シンラ)化したパトリシアと激高するレイスが同時に、両サイドからカロンに飛び掛かる。一瞬のその速さにカロンも遅れて反応を示すが、振り払おうとした剣をアレクが咄嗟に右手の義手で受け止めると、カロンは渋い顔をしてアレクを睨みつけた。


「甘ぇよ……」

「くっ、くそガキどもがぁ!」


 剣を阻止されたカロンはそのままパトリシアの爪に切り裂かれ、左肩を負傷する。そして、黄昏からトンファーを取り出したレイスが勢いをそのままに渾身の一撃を打ち放った。


 カロンは壁をぶち破り、外へと殴り飛ばされてゆく。


 不意打ちとは言え、大隊長相手に攻撃を入れた事実にランドールも、チェスターも驚いていると、アレクが間髪入れずに声をあげた。


「今が絶好の好機! 逃げるぞぉ!」


 その声にパトリシアも、レイスも、ランドールでさえも、なりふり構わず外へと飛び出した。20人以上の星騎士達が待ち構えているにも関わらず、レイス達は月光の下の降り立つ。

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