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♰NICOLAS-DAGRAVIUS♰  作者: ❁花咲 雨❁
◆第08話◆
46/73

星騎士と霊星術師 ②

 大聖堂での『神降し』を無事に終えた16名は、1人の犠牲者を出す事もなく全員がその身に星霊(アニマ)を宿した。その異例な結果にジェリスも驚きを隠せず、立ち尽くしていると、背後から歩み寄る1人の気配に驚く。貴族だと言わんばかりの高価な洋服に身を包み、気品溢れるその姿は正に──天女。


 純白の長い髪を靡かせて、青眼が16人の新米星騎士達を見据えて微笑む。


「おや? ジェリス……今期は犠牲者がなしかい?」


 妖艶にほほ笑む彼女はジェリスの肩に肘を置き、全員を見下す様にそれぞれの表情をじっくりと伺っていた。


 彼女は4つ星のジェリスが、補佐を務めている直属の上官で、その名をカロン=ヴァディアンという。


「カロン大隊長! 今期は特に優秀な人材が多いらしく……」


 カロンの胸には5つ星の勲章が輝き、その迫力は四大天や熾天師(セラフ)の二本劔とも劣らない。そこに居るだけで尋常じゃない程の威圧を感じさせつつも、その表情は実に飄々としたものであった。


「ジェリス、ここからは私に任せろ。久々に新米と戯れたい気分なのだ」

「カロン大隊長……もしや、酔っ払っていますか!?」


 顔色は変わらないものの、普段からカロンの身の回りの世話までしているジェリスには、彼女が酔っ払っていると判断に至る根拠があった。根本的に弱い奴と男を嫌う性格のカロンが、自らそれらに絡みに行く場合は大概、酒を飲んでいる時であるという事。


 そして、酒に酔っているカロンは、ジェリスの手に余る程の酒乱であるという事実。


 その大雑把な性格と酒癖の悪さからついた異名が──酒盛隊長『酒乱のカロン』


「おい! 貴様ら、霊星術(れいせいじゅつ)の何たるかをこの私、自ら教えてやろう!」

「カロン大隊長、今日は非番じゃないんですか?」


 咄嗟にカロンの視界を遮るようにして話しかけるも、カロンはジェリスに抱きついて無駄絡みを始めた。それを見せられているレジナルド達も唖然としたまま、その光景を眺めるしか成す術がない。


「非番だとも……ジェリスがいないからこうして態々、私の方から出向いてやったのだろう!」


(この人……酒臭っ! 非番だからって、大隊長に飲ませ過ぎなのよ!)


 ジェリスの肩を肘掛け替わりにもたれ掛かるカロンは、ジェリスの整った黒髪ショートを掻き乱し、徐にレジナルドを指さした。


「貴様! 性質変換をやってみろ! この私が見てやる」

「性質変換ですか?」


 レジナルドは唐突に指名されながらも、瞬時に霊素(アストラ)を雷に変換させて見せた。


 右腕の周りを電気がバチバチと走り、したり顔をするレジナルドにカロンは鼻で笑う。


「ふん……まだまだだな。貴様のそれは先天的性質であって、性質変換を見せろと言われたら、後天的性質を見せるのが常識だ。貴様、貴族じゃないだろ? 先天的性質変換など、この世に生まれた時点で誰もが与えられている加護に過ぎないのに、それを自慢げに……そもそも、私は雷の性質の奴が嫌いなんだよ! 尊敬や賞賛が欲しいといった自己欲求が強く、他人に煽てられると直ぐに調子に乗るバカで、プライドだけが非常に高い。自分の理想を追い求める努力家気取りで、私とは相性最悪なんだ」

「そういうのは信じないタチじゃないんですか? 酒を飲むとすぐそうやって占いに逃げるんだから、この人は……はぁ」


 呆れ顔のジェリスはカロンを連れ出そうとするも、ピクリともしないカロンにため息をつく。


 そして、語り癖のあるカロンは場違いな状況にも関わらず、上機嫌に話を続けていた。


「そもそも、先天的性質なんてのはなっ! 生まれた日で決まった星霊(アニマ)の加護に過ぎないんだよ! 十二の偉大なる星霊(アニマ)によって与えられた性質は獅子座の貴様が雷であるように……。


 ・白羊宮『光』♈️

  牡羊座:星霊(アニマ)アリエス


 ・金牛宮『鋼』♉️

  牡牛座:星霊(アニマ)タウルス


 ・双児宮『無』♊️

  双子座:星霊(アニマ)ジェミニ


 ・巨蟹宮『氷』♋️

  蟹座:星霊(アニマ)カンケル


 ・獅子宮『雷』♌️

  獅子座:星霊(アニマ)レオ


 ・処女宮『木』♍️

  乙女座:星霊(アニマ)ヴィルゴ


 ・天秤宮『星』♎️

  天秤座:星霊(アニマ)リブラ


 ・天蝎宮『闇』♏️

  蠍座:星霊(アニマ)スコルピウス


 ・人馬宮『炎』♐️

  射手座:星霊(アニマ)サギタリウス


 ・磨羯宮『土』♑️

  山羊座:星霊(アニマ)カプリコルヌス


 ・宝瓶宮『風』♒️

  水瓶座:星霊(アニマ)アクアリウス


 ・双魚宮『水』♓️

  魚座:星霊(アニマ)ピスケス


 ──と、この世の理として定められているんだ! そこから後天的に性質を極めて、やっと一人前と言える。貴様が見せた性質変換はただの授かり物に過ぎないんだよ!」

「それくらい、知っていますよ」


 反発するようにレジナルドが言い返すと、カロンは見下したようにゲス顔をする。


「ほう……だったら霊星術(れいせいじゅつ)の基本原則を言ってみろ!」

「──基本原則は主に“性質変換”“特異術式”“固有能力”の3つに分類されており、性質変換は先程の貴女が仰っていた通り、先天的性質と後天的性質に分類されています」


「それだけか?」

「特異術式は霊素(アストラ)に何らかの効力を付与する事で自在に形状・威力・効果を齎す力。主に修練でのみ会得する事が出来ますが、細かな霊素(アストラ)操作と才能に寄るところが大きい術です。剣を霊素(アストラ)で覆うなどの強化術も、この特異術式による基礎技能であり、各国によって独自の発展と多種多様な術式が生まれているのも特徴です。

 主な基礎技能は──3つ。


『強化術式』

霊素(アストラ)を纏い、念じる事で武器や肉体を強化する術。威力増幅や耐久性能、身体能力向上など……質量と密度に起因する性質を持つ。


『詠唱術式』

※言霊により、霊素(アストラ)そのモノの形状を変化させて、様々な効力を付与する術。主に治療術や結界術など……術の効力と詠唱を理解し、口に出して適切な霊素(アストラ)量と繊細な操作技術を必要とする。


『刻印術式』

※予め効力を書き記した媒体に霊素(アストラ)を干渉させて発動する術。予め決められた術式を法則に従い用意するなど……準備が必要ではあるものの、その効果と性能は極めて幅広い。


 そして、最後に固有能力は一定の条件下でのみ発現する星霊(アニマ)の力と謂われています。一説によれば願い事の対価を支払う事で発現するとも言われており、その能力は個々に異なります。性質に起因してそれぞれの願いを叶えてくれると言われてはいるものの、必ずしも望みのままに願いが実現するとは限りません。又、願いや対価の大きさによってもその全てではない。誓約は一度っきりの重要なモノであり、そもそも星騎士にならない限り、星霊(アニマ)との誓約は──極稀な事例であるという事」


 捲し立てる様にレジナルドはカロンを圧倒する。


 いくら相手が酔っ払いであったとしても、新米が5つ星の大隊長相手にここまでハッキリと、言い放った事実に副官のジェリスですら驚愕する。


 カロンも少し不機嫌な表情を浮かべ、ジェリスの肩を叩くと徐に壁際へ行き、不貞腐れたようにしゃがみ込んだ。


「……おろろろろぅぉ!」


((吐いたぁー!))


 ジェリスを含め、その場の全員が驚いている最中、一報が届く。鷹が筒を落として飛び去ってゆくと、ジェリスは中の報告書を広げて、キュッと気を引き締めた。


「諸君らの隊が決まったぞ……それではこれより成績上位4名を隊長に任命し、それぞれに隊を振り分ける! それぞれが責任を持ち、仲間の命を預かる事をしっかりと認識しておけ! これからは共に任務をこなし、同じ釜の飯を食うチームなのだからな! それでは、呼ばれた者から前へ!


 総成績第4位──シグロ・ラウフェン・ド=ロズウェルを第四番隊、隊長に任命する。

 第四番隊には、ユファ・アージェス

        ユア・ディール=ジェンセン

        ワイル・クォン・レーベンの以下3名を配属とする。


 総成績第3位──レジナルド・スコット=ジョーンズを第三番隊、隊長に任命する。

 第三番隊には、セラ・ベック=コーフィンデル

        オルギス・モンド=ワイズ

        リズベット・モルドの以下3名を配属とする。


 総成績第2位──クロウ・クゥレイバス・フォン=メドラスを第二番隊、隊長に任命する。

 第二番隊には、シェルディ=バーロック・ボールトン

        アイラ=ロッツ・ポルド

        ドドル・ダンギスの以下3名を配属とする。


総成績第1位──コーデリヴァス・ジグザール・L=ヴァルバティスを第一番隊、隊長に任命する。

 第一番隊には、ハンナ・ダイア

        リファネス・ヴェンゲル

        フリッツ・ファルナスの以下3名を配属とする。


 以上、各隊は隊員の顔と名前を覚える様に! 今、同じ隊にいる者同士がこれから先、諸君らが共に任務を行い背中を預ける仲間達だ! 霊星術(れいせいじゅつ)の未熟な諸君らは、特に現場では真っ先に命を落としやすい。そうならぬ様、互いにコミュニケーションを図り、チームワークを大切にしなさい。星の導きに準ずる者達よ! 諸君らに星の加護があらん事を……」


 ジェリスが祈りを捧げると、徐にカロンが立ち上がった。


「そうそう、ジェリス……任務の事は聞いたか?」

「はい、だから急いで入団準備を済ませているんですけれど!? 邪魔しているのは貴女ですよ、カロン大隊長!」


「そ、そうか……それはすまなかった。今回、新米の初任務をウチで与る事となったから、ジェリスにちゃんと伝わっているのか心配で、あの例のジョゼフ・キールの一件もうちに振られたんだよ。きっと、上の嫌がらせだな……」

「カロン大隊長……指令書の受け渡しも、任務の振り分けも全て、私が管理しているので、私が知らないという事はあり得ませんが! 第一にそもそも、大隊長の仕事を放棄していつも飲み歩いている貴女に、ツベコベ言われる筋合いはありません!」


 キツく言い放ったジェリスは呆れ顔を引き締めて、目の前にいる16名を見つめた。


 これから始まる初任務の重責を胸にジェリスは、彼らに期待を寄せる。


「──それでは、これより貴様らに初任務を言い渡す! 第一番隊はジョゼフ・キールを北方の研究施設へと護送してもらう事となった。途中、北方支部からの使者と合流してもらい、無事に彼を引き渡す事……」

「はっ!」


「そして、その他の隊にはパトリシア=ディンプシーの抹殺及び、反逆者レイス・J・ハーグリーブズの追跡任務を言い渡す! 生死は問わない……」

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