パリパリ号出動!
こんちワン! おらパリパリ。
今、まだ陽は落ちてないけど、もうすぐ夕方になるくらいの時間かな。
丈咲のアパートの部屋にいる。相変わらず狭くて汚くて、フィギュアだとかヒーローグッズだらけ。
ここはアパートだけど、大家さんや同じアパートの住民の理解を得て、おらが住んでも大丈夫なんだ。
おら自身、人に迷惑かけるようなことはしないし。
ちなみにさっきの看板はやっぱり部屋入らなくて、アパートの建物に立て掛ける形で外に置いてある。
丈咲はこれから夜勤に出かける所なんだ。
丈咲が大量にドッグフード用意してくれた。
よーしっ、食お。
がつがつ食うぜ! 元々食う方なんだけど、普段の活動は体力も消耗するし、しっかりエネルギー蓄えないと!
「美味いか? パリパリ」
丈咲が笑顔で聞いてくるが、おらは食事に夢中だ。
ガツガツ。
ん? 何か微かに人間の不安な感情感じる・・・。
何か子ども4人の不安だ。子ども4人と言えば、今朝4人の子どもに会ったけど。
方向は・・・丈咲の部屋は2階だから、ある程度遠くまでは見えるけど。
ん? あの山は・・・
まさかあの子たちが今朝会話してた山!
心配だ。あの山行って来る。
「ワンワン!ワンワン!」
「パリパリ、何かあったか?」
あの山だ! あの山!
「ワンワン!」
あの山に向かって吠えてるけど、わかるかな?
「ん? あの山・・・あいつらが行くって言ってた山か?」
「ワンワン!」
「実はこれはおおっぴらには言えないんだけどよ、今日の夜勤はワンオペなんだ。今問題になってる」
ハハッって苦笑してるけど笑い事じゃないな。
「台風のせいでもう一人出勤予定だった人が風邪引いちまって・・・ご利用者さんの安全ももちろん大事だ」
分かってるって。
「ワンワン!」
「でももうすぐ陽が暮れるし、子どもたちも心配だ」
おらが行くから大丈夫だって。
「ワンワン!」
「お前行って様子見てきてくれ」
がってんだ!
「ワンワン!」
「俺は出勤するけど、逐一報告入れてくれ」
「ワンワン!」
パリパリ号出動!
「ワンワン!」
ダッシュで出掛けるぜ!
「パリパリ! おら」
丈咲がひょいっと何か投げる。
おらはパクッと口に加えた。
外階段颯爽と駆けおりて、目指すはあの山!
あの山はせいぜい標高300メートルくらいの山だけど、150メートルくらいまでは山道整備されてる。
でもそこから上は山城をなるべくそのまま残そうとして道は整備されてない。しかも樹木がたくさんあって、道に迷いやすい。
あの子たちがそこから上行ってたら心配だ。
最悪遭難だけど、あの子たちの不安な気持ち感じ取れるから、必ず見つけ出せる!
だけど一番確実なのは、やっぱり臭いなんだ。人間の想い感じ取るのはやっぱりエネルギーもいるし、臭いに比べると確実性は低くなる。
そこで・・・おらが口に加えてる、ブルーレンジャーの消しゴム。
信二がこれ触ってた時間はわずかだけど問題ない。
これさえあれば信二見つけられる。これが生命線だ。
問題はもう夜になるから、無理せずビバーク(緊急時の夜営)することになると思うけど、もう秋で、昼間暖かったと言っても夜は寒い。それに標高差もあってさらに寒さ感じるだろう。
子どもたちが一晩寒さに耐えきれるかどうか。
急ごう! 光の速さも越えるダッシュだ! パリパリ号!
「ワンワン!」