機銃掃射vsキック
おはよワン! おらパリパリ。
あー気持ちいい朝!
といっても、今は昼ちょっと前くらいかな。
「ワンワン!」
思わず吠えちまった。
今、おらのご主人さま、丈咲と散歩してんだ。
昨日、けっこうデカい台風あって、今朝くらいにどうやら過ぎ去って、ようやく外出れたんだ。んで南の暖かい空気でも運んできたのか、けっこう暖かいぜ。
しかも今日は秋の連休の初日だ。
まぁ犬のおらには関係ないけど、やっぱ人間のワクワク感ってものが、犬であるおらにも伝わってくんだ。
こんな時、人間たちはどっか出掛けたい気分になるんだろうな。でも丈咲は今夜は夜勤だから、おらの散歩終わったら、ぐーすか寝るんだけど。
こんな大変な仕事して、なおかつスーパーボランティアやってんだから凄いと思うよ。
本当尊敬してるし、丈咲のためなら何だってするね、おらは。
あくまでも犬としてだよ、犬として!
別にあぶねー関係じゃないから。
「ワンワン!」
「何だパリパリ。行くぞ!」
「ワンワン!」
しょうがねぇ。おらも走るか!
タッタッ〜って、あっという間に追い抜いちまったぜ。
商店街だ!
ん? 何か嫌〜な感じ・・・。
上の方・・・。
あれ? 丈咲行き付けの店、オモチャ屋だけど、その看板?
人気ロボットアニメ、カンタムが描かれてるけど、そこから何か・・・。
あ、外にあるガチャガチャに何人か子どもが群がってる。
あの子どもたち4人は知ってる。男の子二人は、小5の信二、小3の岳士、女の子二人は小4の泉、小2の明季だ。
この4人は丈咲のアパートの近所住んでて、だいたいいつもこの4人で遊んでんだ。
やしかし、ずっーとさっきからこの看板のカンタムから禍々しいオーラ感じるけど、キャラ変えた?
いや、待て。
オイ! 丈咲!
「ワンワン! ワンワン!」
やいカンタム、貴様何しようとしてんだ!
声の限り吠えてやるぜ!
「ワンワン! ワンワン!」
「どうした? パリパリ」
「ワンワン! ワンワン!」
「ん? あのカンタム?」
あれ、よく見るとあの看板外れかかってる!
台風のせいか?
「ワンワン! ワンワン!」
やべっ! とうとう看板落ちてきた!
丈咲!
子どもたちにぶつかる!
かなりデカい看板だから、子どもたちにぶつかったら、全員下敷き!
カンタムのヤツ、機銃掃射するつもりか!
「ライダーキィック!!」
おっ、丈咲すっげージャンプ力。
あ、座ってガチャガチャしてた信二が急に立ち上がる!
危ない!ぶつかる!
丈咲はバコーンと、見事に落ちて来る看板にキック当てやがったけど。
ガチャーンと看板は何もない所に落っこちた。
信二にぶつかりそうだったけど、間一髪セーフ。
ライダーキックが機銃掃射に勝った。ハハハ。
子どもたちは看板落ちた凄い音にビクッてしてたけど、気付いてなかったか?
丈咲、上手く着地した。
「おめぇら大丈夫か?」
「え? 今何あったんだ?」
ふーっ。岳士は気付いてなかったみたいだ。他の子どもたちも何があったかも分かってない様子だ。
いや、信二は気付いてたか?
「あれ、丈咲てめえ! 俺にその看板当てようとしなかったか?」
ちょ、何でそうなる?
信二は小5で、この子どもたちの間ではリーダー的な存在だ。
「ばれたか。ワッハッハッ!」
って、丈咲も何乗ってんだよ。
ま、自分の手柄を全く誇ろうとしないって所も、アイツの良い所だな。
信二、真に受けてそう。
「ざけんな丈咲!当たったらケガするだろっ」
いやだから当たりそうになった所を助けたんだよ。
あの場合、ライダーキックでふっ飛ばしたのは正解だった気はする。
子どもたちをどかすにしても、あの瞬間に4人いっぺんにどかすのは不可能。
丈咲自身がバリアーになって子どもたちを覆うというのも選択肢の一つかも知れないけど、覆いきれないし、それだと間に合わなかったかも知れない。それに丈咲自身ケガをする。
とっさに瞬間的に判断して、看板を吹っ飛ばしたんだろう。
「お〜い! おっさん!」
ん? 信二、何で中のおっさんを呼ぶ?
おっさん相変わらずムスッとしてるな。
「おっさん。見てよ、あの看板。丈咲がライダーキックで落っことしちゃったんだよ」
ガクッ。何でそうなるんだ。
「いや〜、すんません」
後頭部に手当てて頭下げちゃってるよ、丈咲。
ああ、たたでさえムスッとしてるおっさんが・・・。
「コラ! 丈咲!本当にお前は、いい加減大人になれ!」
「いや〜 面目ねぇ」
ん? 丈咲、看板をどうするつもりだ?
「おっさん、もうこの看板、古いだろ? 俺が処分しといてやるよ」
は? 何言ってんだ。
「あ〜、確かにその看板、随分前からあるからなぁ。まぁいいや、新しい看板にするか。いいよ。くれてやるよ」
「やったぜ!」
丈咲ガッツポーズしてるけど、そんなんお前のボロアパートに置く所ないだろ?
「本当にあいつは何考えてるのかわからんよ」
ああ、たたでさえ呆れられてるのに、ますますおっさんに呆れられてる。
子どもたちからも軽蔑の眼差し・・・
だな、多分あれは。ハハハ。