二つの傷
僕が車の免許をとったばかりのころの話です。
僕のアルバイト先の塾は県内各地に支店があり、
免許持ちのアルバイトは長期休暇になるとよく車で数時間かかる場所にも送り込まれたものです。
僕もそんな講師の一人でした。
ある夜のこと、僕が仕事の帰りに夜道を車で走っていると、
突然、後ろのほうから「ガタン」という音がして、車体が大きく揺れました。
何だろうと思って左右のサイドミラーを見てみても、暗闇が映るばかりで何もわかりません。
不安に思いましたが、そのまま家に帰りました。
翌朝、車を調べてみると、車体の後ろのほうに大きな傷があるのを見つけました。
誰かがツメで引っ掻いたような傷でした。
奇妙なことに左側の同じ位置にも傷がありました。
どちらも、車を発進させる前にはなかったものです。
きっと、走っている最中についたものでしょう。
しかし、あの時僕は道の真ん中を走っていたし、近くにも車はいませんでした。
怖がりな僕は、幽霊か何か、不気味なものが僕の車を後ろから追いかけて、左右から引っ掻いたのではないかと思い、震えました。
でも、本当に血が凍るような恐怖を感じたのは、擦り傷を直してから数日して思いついた、もう一つの可能性でした。
あのとき、車は一度だけガタンと揺れました。傷が二つあるのに、衝撃は一度だけ。
あの左右にある傷は、二回に分けて付けられたのではなく、左右から同時に、付けられたのものではないでしょうか。
巨大な何かが、夜の闇に紛れて、僕の車の後部を、両手で挟みこんだのでは?
そして、もしかすると、知らないうちに、そいつを自分の家までひきずってきてしまったのではないでしょうか。
某バーチャルYouTuberの百物語企画に投稿しようと思っていた怪談です。
日付間違えました(血涙)