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8話 魔術

 肉体労働なら男である僕の出番! 

 ……と言いたいところだが、魔物猫の体はやけに重たいために、ダーリアさんと一緒に運んだ。猫の首も大きいからか、レンガブロックのように重かった。


「よしこれでいいね。じゃあ始めるね」


 ダーリアさんは両手で空に円を描く。普通ならただ腕を動かしただけとなるはずだけど、これは魔術だ。普通なわけない。


 赤色のバチバチとした電流のようなものが発生し、歪な輪を形成する。そして円の中には黒々とした奇妙な空間となっていた。まるで窓ガラスから地獄が見えるよう。


「『扉を(ドヴェリ) 解放する(アスヴァジェニエ) だから帰れ(ヴァズヴラチーツァ)

  悪意よ(ズロー) 』」


 よくわからない言葉をダーリアさんは発して、ビリビリしている輪に手をかざしていた。

 

 よくわからない言葉は恐らく呪文とかの詠唱なんだろうなと勝手に解釈しようとした瞬間に、魔物猫の死骸から黒い霧のようなモヤモヤが発生しだす。

 そしてその黒いモヤモヤがダーリアさんの作ったバチバチする輪をくぐっていく。

 

 ――くぐっていったら消えた。ダーリアさんの元までモヤモヤは来ない。ビリビリの円をくぐって黒いモヤモヤは消えていく。

 ビリビリの中にある空間に吸い込まれているようにみえた。まるで掃除機のよう。


 そんな現象、僕はまだ見たことがなかった。研究室でも魔導士のジジイはこんなことはやらなかったからだ。やる必要がなかったからだろう。

 おかげで基本的なことであろう事も今更初体験だ。


 すべての黒いモヤモヤを劣化した掃除機のようにゆっくりと吸い込んで、周囲に立ち込めていた不気味なモヤモヤを排除した。


「せーっの!」


 ダーリアさんの作った赤くバチバチする輪は、ダーリアさんが放り投げるようにしたら消えてなくなった。手元を離れると消えるらしい。


「これで魔物の魔力も消えたことだし、『魔狩り』は完了。依頼人への証拠として、わかりやすいのを持って行こうね」


 ということで、僕たち二人が選んだのは魔物猫の牙と耳。もちろん1匹づつもらっていくことに。狩ったのは黒とブチ模様だということをわかってもらえるはず。


「じゃ、帰ろうね」


 そういうことで、僕の初『魔狩り』はダーリアさんのおかげでつつがなく終了しましたとさ。僕、何も役に立ってないね。そうだね。


 その後の、ちょっとしたお話。依頼人さんとのことだから得に覚えていたいこともなかった。僕は一言も話さなかったし。ダーリアさんに丸投げした。お世話になります。


 依頼人のおじいさんに戦利品かつ証拠品を見せびらかしてやった。依頼人さんも満足したようで報酬金の入った袋を僕たちにくれた。


 さらに食事まで振舞ってくれた。野菜たっぷりのスープとパンを美味しくいただきました。

 僕は餓死しない。昨日から何も食べずに『魔狩り』の仕事に来たけど、腹が減っていることを自覚していなかった。

 こんなに食事を美味しいと思ったことはなかった。仕事終わりの飯だからかな。 


 帰りは『連盟』の手配してくれた馬車に乗っていく。行くときに乗って来た馬車がまだいてくれたのだ。


 一日で依頼を完了させられることは珍しいことらしい。運がいいということだ。


「とりあえず報酬は山分けね。馬車に乗って今更だけど、お疲れ様」


「あ、お疲れ様です……ていうか、山分けでいいんですか? 僕、何もしてないのに」


「いいのいいの。本当は教育期間は教育者が報酬の7割、新人の報酬は3割くらいになっちゃうんだけど、私はそんなケチなことしないんだ~。リムフィ君も頑張ったのに、報酬が減っちゃうのは嫌でしょ?」


「……でも」


「いいからいいから。受け取っていいよ。初の仕事なんだし、お祝いのプレゼントだと思ってさ」


「……わかりました。ありがとうございます」


 だいぶ遠慮した態度をとったけど、もちろん建前。実際はもらえるのラッキーとか思ってた。貰えるものは病気以外なら何でも貰っちゃう主義。


 街に到着したのは、夕方。


 行きの時には気が付かなかった看板で、ここがグアズ王国のグアズ・シティという場所だと知った。今更知った。


 まあそれは置いといて、僕とダーリアさんは『連盟本部』に依頼達成の書類を提出した。依頼完了を認めるという欄に、依頼主からサインを貰っている。貰っておかないとまた戻るハメになる。


 これで『魔狩り』の一連の行動は終わり。帰るまでが遠足のように、帰って報告するまでが『魔狩り』なのだ。


「じゃあ、報告も終わったことだし。今日は疲れてるだろうから、もう寝たほうがいいね。私は明日もここにいるから、教育期間中はいつでも来てくれていいよ」


「……ありがとうございます」


 寝る場所は同じ、馬小屋。寝る事は幸せなはずなのに、何故こんなにブルーになっているのか、原因はわかっている。


「……じゃあおやすみ。リムフィ君」


「あぁ、おやすみなさい。ダーリアさん」


 ダーリアさんも今日はもう活動終了らしく、僕に手を振って外へと出て行ってしまう。


 はぁ、馬小屋か。野宿するより安全であるのは良いのだろうが、どうにも抵抗感がぬぐえない。臭いには慣れるのだろうか?


 ……ダーリアさんって、どんなところで寝泊りしてんだろう?


 気になってしまったら僕は止まらない。ダーリアさんに聞いてみよう。もう外に行ったけど、追いかけてやろう。馬小屋ではない、他にいい寝場所があるなら教えてもらおう。


 寝場所の相談。

 たったそれだけのために、とてもくだらないことを聞きに、僕はダーリアさんを夜中の街中で探すことにした。



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