50話 開戦
魔物との戦争を控えたグアズ・シティ。いつも通りの1週間はありえるはずもなく、誰もが忙しなく動いていた。そこらへんの一般人から憲兵の方々まで、皆が一丸となって街を守ろうとしていた。
グアズ王国からそういう命令がでたせいでもあるだろう。
人が恐怖だけで団結できるはずがない。
「もう1週間かぁ、早いもんだ」
「他の人の手伝いに駆り出されまくってると、時間の進みも違うようだね。労働の楽しさをしってもらういい機会だったよ」
「うるさいなぁ、労働に楽しさなんてあるもんか」
楽しさがあるなら、生まれ変わる前に戻りたいものだ。たぶんダーリアよりも過酷さを知ってるぞ、ベクトルは別だけど。
僕たちはグアズ・シティ防衛のために建造された砦にいた。簡素な外観だが壁としての用途は果たしれくれるだけの大きさはあった。
内部構造もシンプルで、1階は武器庫。2階は弓兵のための射撃スペースになっていた。
とにかく襲ってくる魔物を迎え撃つ。それだけを確実に行うために急遽造られたのだ。
「ここが防衛地点だとしたら、第1防衛線なの?」
「そんなわけないよ、ここが最終防衛線。戦争の始まりはもっと向こうだよ」
魔物の大群を一気に倒すのは不可能だということ。ここで戦う前に数を減らすのだ。
グアズ王国、否人類が生き残るための戦争なのだから、安定して堅実な策を取る。
「……ねぇ、鳥がみえたんだけど」
「あれは最前線からの伝令だよ、ほら仕事仕事」
僕らは見張り番として、弓兵のためのスペースでくつろいでいた。国がどうなろうと知ったことではない僕らに、こういう大事な仕事は任せない方がいい。
魔物か鳥が来たら仕事開始とされていたから、僕はしぶしぶ立ち上がる。ダーリアは伝令の書物を持って来た鳥を口笛で呼び寄せて、鳥の足から紙を取った。
「あと2時間くらいでここに魔物の軍勢が来るそうだよ。数は500……事前情報と一緒だ、よかった」
「何もよくないじゃん」
2時間後に国家の存亡をかけた大戦が始まるってことなんでしょう?
嫌なんだけど。とっても。
「どうせ逃げる準備はしてあるんでしょ?」
「できてないですけど」
残念なことに。誠に、最悪なことに。
『パラーチ』の2名を見つけたという報告をミミカからまだ受けていない。この1週間、ミミカの姿すら見ていない。どこにいったのかもわからない。
「ダーリア、ミミカの位置はわかってない?」
「そっちが知らないなら、私が知るわけないよ。なんにせよ、もう諦めて線かに巻き込まれてしまえ」
この計画について。ダーリアには期待していない。そもそも、ほんのちょっぴりのことしか関与させていない。結果が揺らぐほどの責任を負わせない。そこまで信頼していないからだ。
そんなことを言い出したら、ミミカのことはどうなんだと問われるかもしれない。ミミカに頼んだことは、この計画の成功がかかっているような大事な用件なのだ。
『パラーチ』の捜索を僕自身がする暇はなかった。もちろんダーリアも。
1週間ほどは『連盟』に時間を持っていかれたからだ。
『パラーチ』について他言するのも危険だと思ったから、ミミカ以外に頼めるヤツがいなかっただけ。存在を隠しているミミカにしかできなかったから、本当に仕方がなく。
「さて、頼まれたことくらいはやってあげるとするよ。リムフィ君、このことを伝えにいこう」
「時間稼ぎはできませんかね?」
「魔物は待ってくれないよ。この報告を遅らせたとか疑われたら、戦犯扱いされるよ」
戦犯扱いはよくない。僕は生き延びることが確定しているため、そういう烙印を押された場合、しばらく生活が不自由になるだろう。
この報告の仕事はやるしかない。
僕たちは一階に駆け降りて、そこらで指示を飛ばしている偉そうな男(たぶん『魔狩り』だろう)に情報を嘘偽りなく伝えた。虚偽報告がバレるリスクは背負いたくない。
この報告により、グアズ・シティの生存か滅亡かのカウントダウンが早まった。僕の運命もあとわずか。あの幽霊が吉報を持って帰ってこない限りは血みどろ確定。
マジ最低。僕はただ平穏に暮らしたいだけなのに。こんなイベントに遭遇するなんてあっちゃいけないことだ。
ありのままの真実を報告した後、僕とダーリア以外の人達の緊張感がマックスまで跳ねあがった。僕は別の事で気をもんでいる。皆が何に緊張しているのかわからなかった。
約1時間後。僕たち人間軍団は砦から離れた高原で戦列を組んでいた。
「できるだけ離れた場所にいけないものかな?」
暇だから、隣で欠伸をしているダーリアに話しかける。
僕の担当というか、配属された場所は最前列付近。付近とはいえ前列。魔物からの攻撃が来た場合、一番最初に受けるようなところだ。
何故僕がそんなところに配属になったか。運が悪かったからとしか。誰も前列なんか行きたくない、後方でチビチビ安全に貢献したかったのだ。だから前衛はくじ引きで決定した。酷い話だ。
「そんなことをしたら敵前逃亡になるよ。
「けっ……やりたがらない奴が多いんだから逃げたって文句は言えないでしょ。逃げられるんが嫌なら自分で戦えばいいのにさ」
「言ったって、もう遅いよ。諦めなよ」
ダーリアも僕と同じ前衛。ダーリアはくじ引きではなく推薦によってここに配属された。
魔術による援護よりも近接戦闘能力の高さに期待されているらしい。
剣の達人として名が知られているダーリアが前衛にいれば、同じ前衛軍の士気も上がるからと、ジェス・ヨーガさんに頼み込まれたそうだ。
断ることを極力しないダーリアはここでも自己評価をあげる努力をした。その結果、死が間近にあるこの前列に配備されることになった。
一言だけ思う。馬鹿めって。
僕だったら絶対断っちゃうもん。人殺しでなかったら、ダーリアも断っていただろうな。こんな面倒かつ死ぬような仕事は。
そんなことを思いながら、僕はぼんやりと空を見上げた。今からでも遅くはない、ミミカよ吉報を持って現れてくれ。
「魔物が来たぞォォォ!」
「戦闘準備! 構えろッ!」
そんな怒声が聞こえてきた。
聞こえてきたと同時に、周囲にいる『魔狩り』の人達は得物を構える。緊張が最高潮に達した。
そして数秒後、予定より早めに襲来してきた数多くの魔物どもとの戦争が始まった。




