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5話 馬小屋暮らし

 『魔狩り』とは人類に敵対する魔物の駆除を生業とする者たちのこと。

 魔物を狩り殺すことで人々からの信頼を得ており、グアズ王国でも人気の高い職業である。ただし死亡率は桁違いに高く、運が悪いと研修の時点で命を落とす。

 武術や魔術などの鍛錬を怠ることは『魔狩り』としてあってはならないことであるとされる。人類の敵を殲滅するのが最終目的であるため、日々の努力をサボるような人間は軽く扱われる。

 金銭目的で始める者も多い。

 新人研修ということで、僕のペアとなったダーリア・モンドさん。ランクは『4』。『9』から『1』まである中での『4』かなりの強者という事だ。

 長い赤髪が印象的で、すっごく美人。スレンダーな身体で背丈は僕よりちょっと上くらい。瞳がきりっとしているから、年齢のわりに大人びた雰囲気を醸し出してる。

 僕、リムフィと同い年らしい。年齢を聴かされて驚いてしまった。年上だと思ってた。

 そのくらい大人な女性っていう立ち振る舞いというか、魅せてくるのだ。


「じゃあ明日からさっそく『魔狩り』でもやってみようか。都合は大丈夫?」


 さっそくか。

 この異世界に来てもう17年目に突入しているが、まともに外を歩いたのはここ最近。まったくリハビリが足りてない。

 しかしそんなことを言えば何事かと怪しまれそうだから、首を縦に振っておいた。


 現在は『魔狩り連盟本部』の酒場スペースにいる。大きなテーブルを二人で貸し切り状態にして話している。


「とりあえず適当に、私が新人向けのやつを見繕っておくよ。さほど強くなく、だからといって超弱いとまでいかないような絶妙な難易度の依頼、探しとくから」


「えっ……なんか申し訳ないです、やってもらってばっかりじゃないですか」


「うん? 何かやってみたい依頼でもあった? それでもいいよ?」


「いえ……特には。じゃあ、お任せします」


「うん、任せて。えっと……リムフィくん、でいいかな? 呼び名」


「あー……別に何でも構いませんよ。ダーリアさんにお任せします」


「じゃあリムフィくんで。私のことはダーリアって呼び捨てでいいよ」


「さすがに……恐れ多いですよ」


「ふふっ、遠慮がちだね。リムフィくんはもう今夜は休んで。明日から一緒に頑張ろう」


「……わかりました。すいません、お先に失礼します」


「なんか堅苦しいね。まぁいいや、また明日、朝にここで待ってるから。おやすみ」


 ダーリアさんの声を聞いて、すぐに『魔狩り連盟本部』から退散する。


 ……人と関わるのってこんなに疲れることだったっけ? 12年のブランクはやっぱり長いな。人との関わりが大事だって言われたし、そういうところもちゃんとしていかなくては。コミュ症では世渡り上手にはなれない。


「あっ……寝床」


 しまった。面接とかあったからすっかり頭から抜けていた。レーアさんに危機に行かなくては。たしか部屋の貸し出しをやってるみたいだった。

 金は『魔狩り』の給料が入り次第と交渉するしかない。金が手持ちにないから後払いにさせてもらわねば、野宿確定だ。


 僕はまた『連盟本部』の玄関から中へと入り、受付カウンターでレーアさんと対面する。

 受付に行くまでにダーリアさんが微笑みながらこっちを見てきた。ついさっきおやすみの挨拶までして、また会うのはちょいと恥ずかしい。


「あら、どうされましたか?」


 不思議そうにレーアさんが僕に尋ねてくる。そしてすぐに「ああ、そういえば」と続けた。思い出したらしい。


「すいません、宿のことですよね? 今すぐ手配させていただきます。料金は……」


 この世界、というかこの国の通貨はほとんど持ち合わせていない。服を貰ったついでに財布ごと金を貰ってはいるが、財布の中には2000レクしかない。日本円で言うなら2000円。日本と同じ感覚で考えられる。


 2000レク。これで宿泊はほぼ不可能じゃないか? 日本だったら1万円は欲しいところだが……」


「格安なら1000レク。最高で10万レクですね」


「格安でお願いします」


 常識が違うからこそ、助かった。1000円くらいの出費で泊まれる場所があるとは。


「では……この用紙をお持ちになって、牧場の方までお願いします。管理人の方に用紙と先ほどお渡ししたカードを見せていただければ大丈夫ですので」


 牧場……? 近くとかそういう発言がなかったのは言い忘れかな?


 そしてレーアさんに言われた通りに牧場までやってきた。看板があったのですぐにわかった。

 牧場の入り口近くにあった小屋に入って、そこにいたオジサンに聞いてみた。

 そしてカードと用紙を見せたら、馬小屋に案内された。どうやらオジサンは管理人らしかった。


「1000レクだとここが精一杯だからな。稼げるようになれよ『魔狩り』の小僧」


 そう言って管理人さんは僕を置いて馬小屋を出ていく。

 馬はいない。藁ばかりの小屋。とりあえず雨風はしのげるし、最低限のプライバシーだって守れるかもしれない。

 でも、できることなら泊まりたくはない。臭いがキツイ。独特の獣臭さが小屋に充満している。そしてもちろん布団とかベッドの類はなく、藁のみ。


 僕は大量に積まれた藁の上に寝転がって、近くにたたんであった布を毛布代わりに身体にかける。

 そしてそのまま、僕はゆっくりと眠りに落ちた。


 そんで翌朝。眠りに落ちはしたが熟睡はできなかった。まだ眠たい。瞼が勝手に落ちてきそうだ。でもまたここで二度寝は嫌だ。


 とりあえず起きて、身体にくっついた藁を払う。髪にもくっついていて鬱陶しい。

 ……もしかしてあの布って下に敷くヤツだったのか?

 僕は布をたたみながらそんなことを考える。ずいぶんマヌケなことをしたな。


 昨日のダーリアさんとの別れ際の言葉を布をたたみながら思い出した。そういえば朝にここで集合とか言っていた。急いで向かうとしよう。


 僕は布を元の場所に戻して、馬小屋を出る。そしてすぐ小屋に行き、管理人に代金を支払っておく。財布の中身が頼りない。

 だが今日から稼げる。


 少しはそれっぽくなってきた気がする。何がとは言わないけど。


 急いで走り『魔狩り連盟本部』に到着。すぐに扉を開ける。

 扉を開けてすぐに、ダーリアさんを発見した。テーブルに頬杖をついて上の空でいる。


「おはようございます。すいませんダーリアさん、遅れてしまって……」


「……あぁおはよう。いいよいいよ。そんなに遅れてないから」


 ふぁ……と口を開けて欠伸をするダーリアさん。寝不足なのだろうか?

 ダーリアさんは首を少し回して、じゃあさっそくといった感じで掲示板へと向かっていった。僕もそれについていく。


「新人向けなのはこれかな。森に出現した魔物退治。標的(ターゲット)は魔物化しかけの猫、4匹。まだ魔力に完全に毒されたわけじゃないけど、駆除しておくことにしたみたいね」


 魔物。それが『魔狩り』の標的(ターゲット)だ。魔物を狩ることに長けるから『魔狩り』を名乗ることが許されている。


 魔物とは魔力を身体に宿した生命体で、魔術を扱うモノもいる。大体の魔物は好戦的で、どの生物に対しても敵対する。例外はあるにしろ、自己種族以外は敵視している生物だ。


 そして魔物が死ぬと、その魔物の魔力が拡散して他の生物が新たな魔物となる。だから死骸はきっちりと後処理をせねば、魔物は増え続ける。


 今回の魔物化しかけの猫も、どっかの何かで死んだ魔物の魔力を浴びたのだろう。


「じゃ、リムフィ君が何か他に行きたいのがないなら、これに行こうか。魔物のなりそこない、2匹で3万レクだ。この手に報酬にしては良い額だよ」


 命を張るような仕事なのだから、正直そのくらいは当たり前に欲しい。そう思ったけど口には出さない。強欲なヤツとみられるのは嫌だから。


「わかりました、それにしましょう」


「じゃあ決まり」


 ダーリアさんは掲示板に貼ってあった依頼書をとって、受付カウンターへと行く。依頼書の内容の確認などをしてもらっているようだ。

 そしてすぐにダーリアさんは、二枚の紙を持ってきた。そのうち一枚を僕に渡した。


「その紙は忘れないでね。依頼主に会う時には必須だから」


「あぁ、依頼主さんの」


 契約書と記されていたから、そうなのだろうなとは思っていた。


「じゃあ、馬車乗り場に行こっか。依頼主に面会といこう」


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