37話 不死身なりのやり方
商店街。
服が血で汚れているというのは、やはり目立つ。道行く人々にチラチラとみられる。
刺された時の傷は治っても、服までは直すことはできない。
背中が血で汚れている。それがヤツにとっても目印になってしまうかもしれない。
その他にも目印になりそうなのは腰にぶら下げてる短剣。この国にはそんなにいないらしい金髪。
目立つ要素は潰しきれない。目立つ要素を消して逃げることは、まったくの別人になる覚悟が必要になってくるレベルだ。
逃げ場としては、『魔狩り連盟本部』。駆けこめばとりあえず安心できるはずだ。
中には屈強な集団がいる。そいつらに僕を追ってくる爪ナイフ男をボコボコにしてもらえばいいだけだ。
今なら、憲兵に頼みに行くというのもありな選択肢。爪ナイフ男に殺されようと、逃げる時間稼ぎにはなる。
決まりだ。まずは憲兵に協力を扇ぐ。僕についてくる危険人物を引き受けてもらうのだ。
「逃げるなよわかってんだよ! 俺と同じが! 気持ち悪いヤツ!」
人が往来する道でもお構いなしに、ヤツはその爪を僕に刺してくる。また背後から不意に、いきなり刺してくる。強襲を喰らいまくりだ。
人が大勢いるなかで大声を出すのは少し恥ずかしかったが、僕が刺されたことで僕の大声は人々の記憶から飛んだようだ。
そそくさと逃げていく人もいれば、野次馬になっている人もいる。
「おい誰かッ! 憲兵を呼べ!」
野次馬というのはろくでもない者ばかりだと思ってたけど、そうではないらしい。
正義感の強い人が、僕の望んでいた状況を作りだそうと叫んでくれている。素晴らしい。あとで飴を表彰してあげよう。
「誰か憲兵ッ……!?」
一人の少年を助けようとしていた、名も知らぬ男の人。彼なりに、状況を良くしようと思って動いていたに違いない。
「端っこでうるせぇんだよ! 俺は俺は! 俺はうるさいのが嫌いだ!」
地面を蹴って素早く移動、僕から離れてくれた。
そして、呆然とする男の目の前に立ち、彼は異形の爪を見せつける。
ここからでは見えないけどきっと、怒った顔をしているんだろうと、予想は容易い。
ヤツは何か喚き散らしながら、男の喉を爪ナイフで瞬く間に、ズタズタのボロボロにした。新聞紙を破る子供のように、無価値に、ただ発散するためだけにやっているように。
喉なんて、その爪が触れただけで切れる。か弱い部位だ。そのか弱い部位に、人間の急所がある。その急所を、ナイフで引き裂いたのだ。
「俺がこのお前と殺すんだ殺し殺されしあうんだ! 他人が割り込んでいいと思うならまた殺しをするしかない!」
何を喋っているのかはよくわからないけど、とにかく殺意剥き出しなのはわかる。意思疎通は不可能ではないと証明された、喜ぶべき? 殺意しかぶつけてこないから迎え撃つのも意思疎通ってことにしよう。
さすがに野次馬の人たちも、我先にと逃げていく。もう誰も、僕を助けようだなんて思わない。自分の命を犠牲にしてまで助けようと思うのは、ぶっちゃけアホだ。僕はそう思う。自分の命を賭ける価値あるものなんて、この世にはない。
「あぁ……クソ、みんなさぁ……」
わが身可愛さで逃げるのは非常に共感できるけど、命狙われてる僕からしたら絶望の光景だ。助けてくれる人はいないことを見せつけられている。野次馬どもが背を向けて逃げてる。皆の関心は全て、自分の命に向いている。
「人ごみ、人ごみ! まさにゴミ! 俺は俺は偉大なる生命を手に入れた超越的存在であり! お前もそうなはずなんだが、どうにも俺すぎるのがとんでもなく気に入らねぇし気に食わねぇし殺してぇんだよ!」
「しばらく一人で逃げるしか……」
頼れる殺人鬼と悪霊娘はいない。僕を信頼して魔物探しに行ってしまった。どこに行くのかも伝えられないまま。
グアズ・シティは広い街だ。合図もなしに合流するのは難しい。彼女らが僕らを見つけてくれるという幸運を願うほかない。
そう、しばらくは僕一人だけで。
このイカレ野郎の相手をしなければならないのだ。
「俺の爪は爪に戻るしナイフ形状にもなれるスゲーんだ! もしかしてお前も俺と同じなのかそこまでも俺を模倣してるのか!」
「知らないけど」
ヨタヨタと生まれたての小鹿のように、僕は立ち上がった。
そういえば忘れてた不幸中の幸い。持ち合わせてたのは武器だけじゃない。ダーリアから持ち歩いとくと便利って、買ってもらった『魔狩り』という仕事のための道具セット。それを入れたポーチを持っている。
中身をさくっと確認……縄。サバイバルナイフみたいなカッコいいナイフ。白い布に包まれた丸い球。野球ボールくらいのサイズのその球からは、火薬の臭い。短いひも付きだ。まぎれもない爆弾だった。それが一つ。付属するように、安物マッチ数本。
短剣よりもこっちのほうが僕には使えるかもしれない、危険すぎる武器だった。
ポーチを弄るのをやめて、爪ナイフの男に視線を向ける。ヤツは僕に向かってまだ何かぶつくさ言っていた。
「お前お前ふざけるのもいい加減だぞ、俺と同じならそんな玩具を持ち歩くなよお前。俺はもっとボルテージヒートアップだ!」
僕は彼のプライドを傷つけるようなことをしたらしい。ヤツの爪攻撃がまた僕に襲い掛かってくる。
斬撃か、刺突か。両方もありうる。可能性を絞っていくには考えるしかない。わずかな時間で相手の行動を予想しろ。
「消えろ気持ち悪い!」
……無理。戦闘中に思考を巡らせるなんて技術は持ち合わせてないんです。
攻撃は、僕の首を斬り落とすことだった。喉に両手の爪ナイフを刺し込み、そのまま横に手を動かす。人々の使う道路に血がまき散らされる
この切り落とし方だと、少し筋線維が残ってしまう。しかし人の頭部は5キロくらい。残った筋線維なんて落ちる過程で千切れる。
ボドッ……と僕の頭部が地面とキスをした。さてどうしようか。
「気持ち悪いの死んだのか? まさかここまでも俺と同じわけないような? ……こっから生き返ったら俺よりになっちまう! そんなわけねぇから死んどけ!」
不死身ではないことが、彼自身の口から明かされた。
しかし油断はしている。そりゃ首を落とせばどんな超人だろうと死ぬと思い込む。研究所出身だろうと、その認識は変わらないようだ。
それこそが、その意識こそがチャンスだ。
首なしの僕の身体は倒れさせている。そのまま、ヤツに気が付かれないように身体を動かして、マッチと爆弾を用意。
思い知らせてやるよ、不死身の意地と維持の力を。
マッチをこっそりと擦って……火を点け、爆弾の導火線に……ちょいと。
点火成功。
そしてヤツから見えないように隠す。
僕は地面に転がる頭部を溶かして消滅させ、すぐに身体に頭部を復活させた。
「ところがどっこい生きてるもんねー! 馬鹿は君のようだぞバーカ! やーいアホー!」
「なんでだ研究所! 俺、俺よりもお前は治癒能力が強いとかありえたってのか!? ハァふざけんなボケ! あれは死ぬやつだろ! もう一回やってそれでこれならわかってやるよ!」
馬鹿正直に、僕の首を落とそうと迫ってくる。僕は抵抗しない。さっきみたいにカッコつけようとしない。しなくてもいい。
僕の首に、ヤツの爪ナイフが刺し込まれる。
デジャヴみたいな光景。しかし違うのはこれから。
僕は右手をヤツの背中に添える。そして左手に隠し持っていた爆弾を見せつけた。
「あぁ!? ふざけんな!?」
「こんなことしたくないんだけど、僕に因縁なんかつ」
僕がセリフを言いきる瞬間にタイムアップ。導火線もっと粘ってくれたらよかったのに。
二人仲良く、爆発の衝撃を直に受けることになった。
街中での爆発騒ぎ。ダーリアもミミカも無視するかもしれないけど、来てくれる可能性も充分にある。来てくれなかったら寂しいなぁ……。
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