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20話 襲来

 名目はゴブリン狩り、実態は幽霊が襲ってきたからそれの撃退。

 功績と名誉は幽霊にはひとつもあげることはなく、僕とダーリアで報酬を受け取ることになった。報酬は山分け。さすがに全部僕というのは気が引けた。


 後日の依頼主同伴調査もスムーズに終わり、僕たちはネイスの街からグアズ・シティへと戻った。

 グアズ・シティに戻ってすぐに、ダーリアが野暮用があるということで一日休ませろという要望があった。まぁ連戦だったし、幽霊との出会うという予定外なこともあったから疲れているのだろう。僕も疲れている。死なないとはいえ、普通に疲れはある。


「好きに休むといい。また明後日から一緒に『魔狩り』に行こう。僕の研修期間っていつまで?」


「私と一緒に3つくらい仕事をこなして、私が大丈夫だと判断したら研修終了の届を出して認められたら、研修期間は終わり。そしたらランクも『9』から『8』になるよ」


「じゃあ次で研修終わりかぁ……速いものだ」


「こんな連続ぶっ続けで仕事するヤツは死にたがりだよ。君はそうじゃないだろうけど、普通を心がけるなら、仕事量を考えよう」


 魔物猫退治からゴブリン狩りまで流れるように仕事をしてきた。命を張るような仕事を連続でやる人間は少ない。休みは適度にいれるのが、できる社会人というものだろう。

 ……今後、気を付けます。金が欲しかったんです。


「……じゃあまた明後日に、朝に『連盟本部』に集合でいいよね?」

「異議ナーシ」


 そんな会話があった次の日。完全無欠の休日。

 僕はやることがなかった。


 寝泊りした馬小屋から離れて、街中にいるけど何もすることがない。とりあえず『魔狩り連盟本部』に行って暇つぶしをしようと思ったけど、案外暇つぶしができない。行きもしない依頼を見ていたってどうなるものでもない。


 本当に暇。

 だから受付カウンターにいたレーアさんに、おススメの宿を聞いてみた。


「でしたら『ビアッジの宿』がおススメですよ、ミスター・ナチアルス」


 ということでレーアさんが教えてくれた『ビアッジの宿』に到着。何でもレーアさんの知り合いが経営している宿だそうで。料金も高くない、コストパフォーマンスのいい宿らしい。


「いらっしゃい、『ビアッジの宿』へようこそ」


 宿の扉を開けてすぐに、筋骨隆々の不愛想なおじさまが対応してくれた。その後ろで若い女性がテーブルを拭いていた。女の人に応対してもらいたい、扉を開けたらすぐ巨漢は心臓に良くない。


「……えっと『魔狩り連盟』のレーアさんに紹介されてきたんですけど……」


「あぁ、『魔狩り』の御方ですか、歓迎いたします。こちらがお部屋の鍵となります。お部屋は二階の突き当りとなっておりますので、おくつろぎください」


 歓迎されている感じはゼロ。義務的に対応された。テーブル拭いてる女性も、こちらをちらりとも見ない。

 僕に鍵を渡して、おじさまは別の仕事を始めてしまった。酒を飲むためのカウンター席の掃除を再開したようだ。


 まだ馬小屋の管理人さんのほうが感じよかったぞ、本職だろうに。


 僕は言われた通りに二階の突き当りの部屋へと赴く。

 さすがに馬小屋よりもずっといい。人間の生活空間だ。風呂はないが、そこは我慢。少し硬いがベッドがあるだけで凄く有り難い。藁のベッドはもう堪能しつくした。


 久方ぶりのベッドなので、昼間からゴロゴロしてやろう。

 そう思ってベッドに寝転がった。天井を見ながらぼんやりするのは最高だ。


「見つけたの……ばっちり」


 ぼんやり天井を見てるのは最高だと思ったが、これっきりだな。


 白い靄が天井をすり抜けてきて、知っている形へと姿を変えていく。

 ――ミミカ・ヘルバイヤーだ。


「アンタくたばってなかったのか畜生! 潔く成仏しとけよ悪霊が!」


 あの時、ダーリアに斬られて消えたはずだ。

 その事実をこの眼で見たから、ミミカの姿をみて怒鳴ってしまった。


「さすがにアレは痛かった、おかげで身体の再構築に時間をかけられた。あのクソドブ女、絶対許さないの」


 ミミカは苦虫をかみつぶしたような顔をして、僕を睨み付ける。逃げようと考えているのに見られていては、策を練っても実行に移せない。


「逃げるんじゃないの……『扉を(ドヴェリ) 解放する(アスヴァジェニエ) 奴隷とすべく(ラブ) 鎖で縛れ(ツェービ)』」


 ミミカの手の先、つまり僕の目の前で魔法陣出現。そこから紫に光る鎖が飛び出し、鎖そのものに意思があるかのように僕を拘束した。


「見つけるのは余裕だった……ユーの発してる気配は吸血鬼とかスライムとかグチャグチャだから……ここに来るまでで疲れたんだから、大人しく捕まっててなの」


「ふざけんな! 離せボケ!」


「魔術を使えばすぐに解けるような拘束なの。さっさと抜けてみて、これも実験の一環」


「この馬鹿野郎ッ!」


「喚いてるだけってことは魔術は使えないのね、予想通り。やっぱり改造の際に体内の魔力がまるっきり変質してるってことか……」


「勝手に納得してんじゃないッ!」


 ちなみに、魔術が使えない理由は大正解。


 普通の人間が扱う魔術。

 体内の魔力と呪文を用いて、魔界への扉を開く。そしてその扉から超常の力を現世に呼び出している……とかなんとか。


 使わない学問の勉強なんてしてない。そもそもこの世界の学問自体、よく知らない。僕にできる説明なんてこんなものです。


 ジジイ曰く、僕は改造のおかげで体内の魔力が混沌としているらしく、魔術を使うための精密な魔力制御が不可能となっている……そうだ。


「こりゃ……グラミルムも失敗作と断ずるわけだ。魔術を使えない不死身の兵士なんて、木偶の棒も同じだもの」


「誰が木偶の棒だッ……否定しにくいこと言うんじゃあない!」


 ていうか、不死身の兵士って……ジジイはそんな大層な計画を立てていたのですか。

 実験台の僕、初耳ですけど。


「まぁ冗談はこれくらいにして……今日はお話をしにきたの。だからそんな激怒せず、どうどう」


「じゃあ、馬乗りやめろ。聴いてはやるから」


 見た目がかなりイイ、黒髪ショートのナイスバディな幽霊少女(性格は考えない)が僕の腹の上に乗っかっている状況。ミミカじゃなければよかったのに。


「あぁ、ごめん。でも拘束はそのままにさせてもらうの。方法はないだろうけど、仲間を呼ばれたりしたら嫌だからね」


 僕は怪しげな鎖で拘束されたまま、床で正座。ミミカは余裕そうにベッドに腰掛ける。

 なんの変態プレイかと勘違いされそう。『ビアッジの宿』のあの従業員さん達には絶対に見られたくない。


「確認しておくけど……今はミミカが上。ユーが下の立場なの、理解オーケー?」


「……死ねクソビッチ」


「女性に向かって最大限失礼なことを言うの、やめたほうがいいの。それにミミカはそう簡単には死ねないの」


「それでもくたばれ、朽ち果てろ」


「身体が魔力そのものになってるから、魔力が満ちてる現世ならミミカはいくらでも復活できるの……。ミミカという意識は魔力の中に溶けているから。意識が生きたいと願う限り、現世に満ちる魔力がミミカという存在を造り上げるの」


 ……言ってる意味がまるで理解できない。


「魔力に関する実験の最中で事故を起こしちゃって、ミミカは魔力そのものになったの。どうにか自力で肉体を再構成できたってわけなの。意識だけははっきりしてたから最初は焦ったの」


「アレか。某フリチン青色発光ヒーローに近い感じですか?」


「誰だそんなヒーロー」


「アンタとは対極的なヒーローがいるんだよ。ていうか俺の知り合い、ヒーローの対極しかいないな」 


 とりあえず、前の世界で映画だけはチラチラ見てたから、こういう理解はちょっとだけ速いぞ。我ながらこの世界に順応しやすいような趣味してて助かった。


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