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2話 スタートライン

 頭は少しぼんやりするが、立つことに支障はない。

 僕はまた、男たちと相対する。

 立ち上がったことに男たちは少し驚いたようだが、結局また拳を振りかぶる。典型的なテレフォンパンチをもう一度。


 まったく同じと言っても過言ではない、二度目のパンチ。

 頭蓋骨が割れたのではと思うほどに強烈な痛みが、僕を襲う。超痛い。


 痛い。けど我慢してればすぐに痛みは飛んでいく。マジに頭蓋骨が割れていようと、僕の身体はすぐに元通りになってくれる。

 

 人間を辞めさせられて得たチカラ。異常な回復能力と不死性を今こそ試すとき!



 凄まじい治癒能力のおかげで、怪我はすぐに治る。痛みとかもすぐに治まる。

 殴っても殴っても、ゾンビのように立ち上がって仁王立ちしてみせる僕に、チンピラさん達は怯え始めているようだった。


 殴り始めてから数分経過。チンピラ二人はとうとう殴るのをやめてしまった。最初のうちは僕の顔を楽しそうに殴り続けていたのに、何故かやめてしまった。


「はぁ……はぁ……なんだテメェは!」

「なんで立ち上がれんだ……? この野郎」


 不気味そうに僕をみる。先ほどの人々の視線と、このチンピラさんのは明らかに違う種類の視線だ。恐怖のような感情も混じっている。


「クソッ、もう面倒だ」

「あぁ、相棒。まったくその通り。こんな殴られるの大好きな変態小僧に付き合ってられねぇよ」


 そう言って、二人は懐からナイフを取り出す。小さな果物ナイフみたいな取り回しやすい手頃なサイズの凶器。


「ここで僕を殺すんですか? 大事になりますよ?」


「安心しろ。死体はバラバラにしてに売るから。そういう人体パーツの収集家がいるらしいんでな」


 悪趣味なヤツはいつの時代でも……どんな世界でもいるらしい。人体収集家が実在するような街にはあまり長居したくないな。


 この状況で、僕だけがノーダメージでこの場を去れるだろう。ナイフを見て確信した。

 チンピラの一人が僕の脇腹にナイフを突き立てる。もう避けることはしない。できないことを頑張るつもりはない。


 僕は脇腹の痛みに悶えつつも、何とか立位を保つ。


 僕の脇腹から、赤いドロドロが流れ出てくる。ナイフが血の栓になっているようで、たぶんナイフが抜かれたら血は溢れるだろう。


「おい、売るんなら傷はあまりつけるなよ」

「わかってるよ。内臓はできるだけ残しとくんだよな」


 チンピラの片割れが僕に刺さっているナイフを抜こうとする。

 その手を僕は力強く掴んで見せて、抵抗する。


「なんだクソッ……離せ!」

「このナイフは僕にください。あると便利かもしれない」


 ナイフはサバイバルでは必需品と呼ばれている。サバイバルするつもりは毛頭ないが、ナイフの有無でこれからの生活の難易度は変わってくるだろう。

 異世界という未知の世界。ちょっとした武器だって欲しい。


「この野郎ッ」


 力及ばず、ナイフは僕の脇腹から離れていってしまった。予想通り、血が溢れてくる。ドバドバと流れる血をみて、チンピラは少し顔をしかめた。


「お前よぉ、どこ刺した?」

「あーすまん。間違ったかもしんねぇ」


 チンピラがそんな会話をしている隙に、僕の怪我はすでに治った。傷口も痕もなく、全て消えてなくなっている。元通り。


 しかし苦しんでいるフリをしよう。


 よたよたふらふら歩いて、ゆっくりとチンピラ二人に近寄る。まだ諦めてないぞ的な雰囲気が出ていることを祈りながら。


「コイツ、まだ歩けんのかよ。死にかけってのは気色悪いな。意識あんのか?」

「もう後には引けねぇし。首でも切って、やっちまうか」


 僕の首元にナイフが添えられる。このまま引けば僕の首に通っている頸動脈だかはちょん切れるだろう。


「じゃあな。金になって俺らを潤してくれよ」

「いいや。僕が君たちから恵みをもらう」


 首に添えられたナイフを掴み、奪い取る。男は油断していたようだ。フラフラだから死にぞこないだと決めつけていたようだ。演技は成功したみたい。


 ナイフを掴む。掴んだのは刃の部分、構わず握りしめた。血が滴る、慣れっこだが痛い。


 形勢逆転……ではないらしい。もう一人もナイフを携えていた。すでにこちらに刃を向けている。


「おいソレ返しな。ガキが持つもんじゃないだろ」

「クソガキめ、もうただじゃおかねぇ。この世の最悪ってのをみせてやる」

「……お断りします。間に合ってますから」


 僕は過去を振り返り、この世の最悪を頭で検索をかける。

 ……充分味わった、もういらない。


「じゃあ、ありがとうございます」


 一応の礼。人から物を奪い取るのだから、礼節はきちんとしておかないとまずいよな、とか思ったから一言おいた。


 ――ザプッ……


「……は?」


 普通に突進しても避けられてカウンター喰らうと判断した僕は、ナイフを投げてみた。

 運よく、男の腹に刺さってくれた。ナイフ投げなどやったことがなかったから、運が良かったのだろう。


「ばッ痛ってェェェェェェ!?」

「おい、なにやってんだ馬鹿野郎!」


 ナイフを奪われた挙句に投げ返される。予想外の事が続いたのだろうが、もう少し適切な行動がとれたはずだろうと、僕は心の中で思った。


「このクソ! よくもやってくれたな! もうただじゃおかねぇ!」


 激昂したもう一人が、ナイフを突き刺そうと突進してくる。おそらく心臓を一突きにするつもりなのだろう。

 僕はそれを受け入れるだけ。とんでもなく痛いけど、それくらいで済む。


 ドズッ……と僕の胸部の肉を裂き、心臓にナイフの刃が届く。


「げっ……げほッ……やっぱり痛すぎるなぁ。痛覚って本当にあったほうがいいのかな?」


「ばッ化け物かよ!?」


 男は驚愕の出来事に、ナイフの柄から手を離してしまう。

 心臓には刃がぶつかっているはずなのに、感触もあった。それなのに即死しない。


 おっしゃる通り。化け物であります。

 心臓を傷つけられても血をゲホゲホと吐いちゃうだけです。すぐ治ります。


「あ……君の服は彼のみたいに血みどろにしたくないからさ」


 心臓に刺さったナイフを僕はすぽっと簡単に引き抜く。ナイフの刃は血まみれでグロテスクだった。ぽたぽたと血が垂れる。


「死にたくなければ服を脱いで、僕にください」


 その一言で、男はすごすごと服の全てを脱ぎ出した。どちらが優位なのか察したらしい。

 脅迫と捉えたのだろうか? 男は怯えている。頼んだつもりだったのに。しかし怯えながら服を脱ぐいい歳した男というのは、滑稽にも程がある。


 男は無言で、服を差し出してきた。

 僕はそれを受け取って、ナイフを持ったまま着替えてみる。ナイフを持ったままだと着替えにくいが、なんとか着替えることに成功。

 男と僕では体格差があって、少しサイズが大きかったが、それくらいは許容範囲。

 元々着ていた拘束具風の白服はポイ捨てした。


「じゃあ、服ありがとう。本当に助かったよ。じゃあね」


 ナイフの刃を、服を差し出して裸の男の額に刺し込んだ。


「そうだ、君に謝らなくちゃ」


 僕は腹部にナイフが刺さっている方の男に近寄る。すっかり忘れていた。苦しんでいるのに申し訳ない。


「ナイフをお腹に刺しちゃって悪いね。痛いよね。早めに医者に行ったほうがいい」


 後頭部を蹴り飛ばし、男は抵抗することなく地面に顔面を叩きつけた。


「医者に行けば助かるかも。この世界の医療技術がどれくらいか知らないけど、助かるよきっと」


 うなじ。首の骨。狙い定めて。踏み砕く。

 

 少し足に力を込めたら折れた音がした。案外心地のいい音で驚いた。


 さて、『何か事件のような異常な臭いがする少年から、『みすぼらしい少年』までランクアップ完了。これで街を歩いても視線が集まることはないだろう。

 

 ようやく異世界のスタートラインに立った気がする。


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