酒に狂った夏の狐
それは、語り継がれる一族の逸話
春夏秋冬の巡る季節のその一つ、夏に訪れる小さな秘密
7月になると、狐がやって来る
コーン、コーンと泣いては家の周りを周回し、戸を叩くのさ
けっして開けてはいけないよ
けっして見てはいけないよ
狐に捕らわれてコックリの國へ連れていかれてしまうからね
だから、一晩じっと耐えたあと
戸の前に残された狐の獣毛を一升の清酒に漬けてやって
それから家に狐がやってきた一族の全員分の髪の毛も一緒に漬けて
夏の終盤まで毎晩その一升瓶を崇めるための祝詞を唱えるんだよ
ちょうどヒグラシの鳴く声の聞こえなくなる頃までね
ちなみに、その一生瓶は必ず玄関の外の戸の前に置くんだよ
狐がひっそりと夜な夜な訪れてはその清酒を頂きにくるのさ
こっそり観察してごらん 夜明けとともに減る清酒の不思議をねぇ
そうしてからに、秋口に差し掛かると鳴き声のする夜はなくなって
じめじめと蒸した夏の終わりに、空っぽになった一升瓶だけがある
そいつが狐が満足して去っていった証しだよ
狐が一族の忌みを与っていってくれたってことなのさ
忌みとは何かって?
それはお前が成人してから知ることだ
酒の飲める歳になってから知るべきことだよ
そうそう、それからねぇ、
残った空の一升瓶は○○神社へ納めるまでが一族のしきたりだからね
けっして忘れてはいけないよ
けっして保持してはいけないよ
狐が飲み残しを求めてまたやって来てしまうからね
わかったかい?
わかったのなら、そのお尻に生えている尻尾のワケも理解出来ただろう
それが一族の理を破った証しだよ
あぁ、忌々しい歴史がまた続いてしまったよ
狐酒は上手かったかい?
コックリの國へ連れて行かれるのは今晩だろうねぇ
お前が次の狐になるんだねぇ
来年の夏はどうか家には来ないでおくれよ
もう、お前の妹だけがこの分家の後継ぎなのだからねぇ
さぁもう日が暮れるよ
もうお前の端正な顔も獣毛だらけで面影がないねぇ
あぁ、忌々しい
あぁ、忌々しい
・・・・・・コーン、、コーン・・・