ギャルゲ世界に転生したけど、えらい事になってきた
前略
転生しました。
何を言っているのか分からない人はゴメンナサイ。でも、俺も何があったのか分からない。
気が付いたら、ファンタジーな世界に転生してた。
まぁね。
気が付いた当時は内政チートとか発明チートとか期待したよ。
でも……
この世界、剣と魔法の世界のくせに普通に自動車が走ってたり、テレビがあったり、コンビニがあったりするんだよ。
ぶっちゃけ、動力源が電気から魔力に代わっただけ! いや、むしろ魔法がある分こちらの世界の方が進んでいるくらいだ。
特に自動車! ガソリン不要で運転手と大気中の魔力を動力源にしてるんだぜ? しかも、魔力で運転者を認識するから、無免許運転とか酒気帯び運転とかは不可能。
おまけに、空間魔法で見た目以上に内部が広かったりする。
なので、内政系チートは早々にあきらめた。
まぁ、これは大した問題ではない。便利な方が良いし。
ならば、料理。日本食UMEEEE! をやろうとしたが、普通に米も味噌も醤油もあった。むしろ料理に魔法が使える分(以下略)
いや、原型分からなくなるまで腐らせた肉に「消毒」の魔法かけると超美味いんだよ。手間かかるから滅多に食えないけど、好物だ。
では武力的なチートはというと、貴族で幻惑系魔法の名門に産まれたのでそれなりの魔力はあるけど、あくまで常識の範囲内。
結局、ごく幼い時分は神童ともてはやされはしたものの、15になった今では少し頭の良い子。という、転生者としてはかなり微妙な評価に収まっているのが現状。
たぶん、「二十歳過ぎればただの人」だ。
先ほども言ったように一応は貴族なので、それなりに裕福な暮らしができるのがチートといえばチートだろうか?
……まぁ、一番裕福なのは商人だけどね。
士農工商といいつつ、商人から借金しないといけない支配層がいるのはこの世界も同じ。
あ、ウチは父親がやり手で領地経営ちゃんとしてるので無借金。大きな事業は商業ギルドにやらせているので、領としての借金も無し。
転生者の俺より父親の方が優秀な件……
そんな環境でのほほんと暮らしている俺には婚約者がいる。
色々発展しているこの世界でも、貴族ともなれば政略結婚が普通。
転生前は政略結婚なんて……と思っていたけど、俺の両親や友人の両親も政略結婚。
でも仲は良い。恋愛は結婚してからするものだそうだ。
まぁ、そんな環境で育ったので、今生の俺としても政略結婚に嫌悪感とかはない。
むしろ楽しみにしていたくらいだ。
そんな俺の婚約者は、猫人の豪商、三毛屋の次女だ。商業ギルドとのパイプを太くする為の婚姻だな。
……言い忘れたが、この世界は普通に獣人が暮らしている。
というか前世の「人間」はこの世界では「猿人」と呼ばれている。
俺はその猿人だ。
……竜人とかの方が格好いいのだが、こればっかりは遺伝なのでしょうがない。
ちなみに、子供は両親のどちらかの種族になる。
ここまで言えば、ちょっとヲタクを嗜んだ人ならピンと来るだろう。
そう、ここはギャルゲ―の世界。「12の乙女」の世界なのだ。
そして、俺の名前は 猿渡 ヒカル。
あのメインヒロインの名前と同じだ。
ゲームの「ヒカル」も貴族令嬢だったので一瞬、TS転生!?
と焦ったモノだ。
安心してください。 ついてますよ!
まぁ、親戚か何かなんだろう。
そもそも、ゲームの時間軸と同じかどうかも不明だって?
俺もそう思ってた。街の雰囲気とか見ると、そんなに大きく外れた時代じゃないとは思ってたけど。
けど、婚約者のおかげでゲームのヒロイン達と同じ年代だと確信できた。
そう!
「猫人の豪商、三毛屋の次女」は、あの三毛屋 美衣子だったのだ!
おっと、ゲームを知らない人の為に説明しよう。
三毛屋 美衣子とは、メインヒロインの猿渡 ヒカルの親友としてゲームに登場するキャラだ。
そして、このゲームでも1、2を争う人気キャラだ。
彼女の弱点はただ一つ。
攻 略 で き な い
そう。攻略対象ではないのだ。
ファンディスクや次回作で攻略可能になるのか?
というユーザーの期待も虚しく、三毛屋 美衣子がヒロインになることはなかった。
だが、その理由がやっと解った!
婚約者(俺)が居たら、そりゃぁ攻略できないよね!
実に合理的な理由だ。
「ミーコちゃんが攻略できないバグを修正させるスレ」のみんな!
すまん! 俺のせいだったwwwwwwwww
まぁ、ココで調子にのって、ゲーム通り誰にも攻略されない。
とか思うような愚か者には俺はならない。
ちゃんと、この世界は現実だと理解している。
ゲームと同じ世界とはいえ、住民はちゃんと自分で考えて生きているのだ。
しかも、俺自身は主人公でもなんでもない。ヒロインの親戚かもしれないが、ゲーム中では全く出てこないキャラなのだ。
シナリオ補正があるはずもない。
だから、全力で大事にした。
結果、かなり仲良くなった。
婚約時点では「ちょっと仲の良い異性の友達」という感じになるのが普通なのだが、俺たちはもう完全に恋人同士だ。
この世界の、少なくとも貴族の感覚だと「完全に夫婦」というくらいにベタベタしている。
いや、もう、ね。
ゲームでも可愛かったけど、現実のミーコちゃんマジ天使。
ついでに頭も良い。学校の定期テストの順位は常に5位以内!
魔力は俺より少ないけど、精密操作は学校の先生以上!
家事もウチのメイド長のお墨付き。
……いや、貴族に嫁ぐのに家事スキルなんて不要だよね?
ウチのメイドって、かなりレベル高いよ?
何で普通に混じって仕事こなせるの?
婚約者もたいがいチートな件……
そんなチートなミーコちゃんに負けないように俺も頑張った。
超頑張った。
学校の成績はトップ維持!
魔法も鍛えた!
そんな努力の毎日を続けるうちに、ついにゲームの舞台となる「十桜学園」へと入学する時になった。
この学園、全寮制のエリート校で、平民がこの学園に入れさえすれば、例え退学になったとしても一生食うに困らないくらいの「格」を得ることができるらしい。
そんな学園に俺とミーコは入学した。
で、今日は入学式3日前。
俺とミーコの入寮の日だ。
実家から必要な荷物を二人分、運び込んでいる。
もう一度言う。
二人分だ。
寮は2人部屋だ。
そこまでは良い。
俺とミーコは婚約者だ。
問題はあるかも知れないが、まぁ許容範囲だろう。
実際、婚約者と一緒に入寮するケースも毎年あるらしい。
問題は……
ココが女子寮だという事だ。
そういう寮はちゃんと別にあるのに、だ。
どういう事かと父親に聞くと……
貴族なので一応誘拐や暗殺の危険は常にある。
護衛は付けるが、寮暮らしでは限界がある。
幸い、ウチは幻惑系魔法の名門。
修行と身の安全を守るため、学園に通う間、女の子として過ごせ。
と言う……
ふと、部屋に置いた姿見が目に入る。
そこには、メインヒロインの「猿渡 ヒカル」が困った顔で写っていた。