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因果は巡るということ・上

書いているうちに長くなったので分けます。

 状況が分からない、という顔でラクシャスが周りを見た。

 本当に何が起きているか分からない、って感じだ。自分たちが負けるなんて思いもしなかったんだろう。

 その根拠なき確信がどこから来たのか聞いてみたい。


 でも、現実的には、人形は全て倒れ、人形遣いの魔法使いはアーロンさんの魔法で手首を砕かれて石畳に突っ伏している。

 護衛の従士も死んではいないけど全員戦闘不能だ。


 僕と都笠さん、アーロンさんとリチャードが周りを取り囲む。

 うろたえたような表情で僕等を見た。


「馬鹿な、そんなバカな……この私になぜこんな……」

「そういえば、ユーカはどうした?」


 オロオロしているラクシャスを横目で見ながらアーロンさんが言う。


「魔法で眠らされてるみたいです」

「そうか……レイン!」


「はい、アーロン様」


 レインさんが、壁際で座り込んでユーカを抱くセリエの方に歩み寄っていった。

 セリエが不安げにレインさんを見上げて、レインさんが優しくほほ笑み返す。


「【我が言霊が紡ぐは鋏。呪の軛、断ち切り、汝を解き放たん】」


 レインさんがセリエに抱かれたままのユーカの頬に触れて呪文を唱えた。触れた手がぼんやりと白く光る。


 ちょっとの間があってユーカが身じろぎした。セリエに膝枕されていたけど、ぱっと身を起こす。不思議そうに周りを見回して、僕の顔を見て安心したように笑った。

 横にいる都笠さんが安堵のため息をつく。


「あれ?ここ何処?セリエ?」

「お嬢様……よかった」


 ユーカをセリエがしっかり抱き寄せる。


「セリエ、苦しいよ」

 

 セリエの胸に抱かれたユーカが手足をばたつかせる。とりあえずあっちはこれでいいか。


「さて。門を抜けるのは危険だが。どうしたもんか」

「衛視が出てこないって言っても、いないわけじゃねぇ。とりあえず、早くここを離れたほうがいいぜ」


 リチャードが周りを見回して言う。

 今のところ、広い石畳の道は静まり返っていて誰かが来る気配はないけど。どういう風になっているのか分からないけど、衛視が来ないとは限らない。

 でも、その前に確かめないといけないことが有る


「すみません、その前に」


 ラクシャスに銃剣を突き付ける。

 流石に目の前に切っ先を突きつけられると恐ろしいらしい。青ざめた顔をして一歩下がった。

 

 さすがに、いかにもひ弱な爺さんに武器で脅すのは多少気が引けるような気がしたけど。

 でも、さっきまでの高慢ちきな態度を思い出すと、また腹が立ってきた。やっぱり遠慮はいらないな。


「今から一つ質問と要求をする」

「なんだと、貴様」


「答えようが答えまいが大体答えは分かってるから、答えなければここであんたを撃ち殺して自分で答えを見つけにいく

僕は本気だ、いいな?」

「下賤な者め……口の利き方に……」


 顔色が悪いことを除けば、口調も変わらないし、見下すような視線も変わらない。

 この状況でも態度や口調が変わらないのは感心すべきなのか、それともいまだに状況を正しく把握してないのか。

 まあ、どっちもでいいや


「ユーカのお母さんはお前の屋敷にいるんだろ?渡してもらう」

「探索者風情が私に命令をする気か?身の程を……」


 相変わらず偉そうなのには、流石にイラついてきた。一発ぶん殴ろうかと思ったけど。


「一応忠告申し上げるが、貴族様」


 僕の不穏な気配を察したのか、アーロンさんがラクシャスに顔を近づけた。


「ここは戦場だ……あんたが作った戦場だ。そしてあんたは負けたんだ」


「なんだと、貴様。この私が……」

「戦場に観覧席は無い。貴族だろうが、一兵卒だろうが、死は平等に降りかかる。

言葉には気を付けた方がいいぞ」


 低い声で耳元で言った。死、という言葉を出されて、流石に自分の状況が多少なれどもわかったらしい。

 ラクシャスがアーロンさんを睨みつけて、僕の方を見る。

 歯ぎしりの音が聞こえるほどに奥歯をかみしめてから、絞り出すように言った。


「………………我が屋敷に………いる」


 顔色が真っ赤になったり青ざめたりしているのが街灯の明かりの下でも分かる。

 あんまりこういう感情は良くないのかもしれないけど、率直に言ってザマあみろって感じだな。


「なるほど、ユーカの母君が……」

「しかし、スミト。状況は分かってるか?

今は逃げる方がいいぞ。どうしても今しなければいけないことか?」


「……すみません。でも今でないと」


 できれば、今身柄を確保しておきたい。もし、この機会を失ってどこかに隠されたらどうしようもなくなってしまう。

 手が届くかもしれないものを取り逃したら……後悔は初めから諦めていた時より大きい気がする。


 アーロンさんが渋い顔で僕を見る。その目は、今は一度退け、と言っていた。でもそうもいかない。

 セリエがいつの間にかユーカの手を引いて僕の後ろに来ていた。都笠さんはハンマーの側で僕等の方を見ている。

 しばらく睨み合って、アーロンさんが首を振った。


「……身を寄せることができるような貴族は居るか?」


 アーロンさんが真剣な顔で言う。


「お前の気持ちは分かるが、今の状況は、門を強行突破してでも逃げるべき状況なんだ」

「……でもですね」


 言いかけた僕をアーロンさんが遮った。


「聞け。衛視がいない今の方が異常なんだ。

ここはバスキア公の街区だ。ここの衛視が出てきたとしたら……こいつの私兵と戦うのとははわけが違う。

下手をすればバスキア公を敵に回すことになるんだぞ」


 そう言ってアーロンさんが僕をじっと見る。


「退路がない戦場に突っ込むのは勇敢とは言わない。

いいか、もう一度聞くぞ、誰か助けてくれる当てはあるか?」


 当てがないなら、今すぐ逃げるべきだ、ということか。

 身を寄せるというか、頼れる相手と言えば正直独りしか思いつかない。


「ブルフレーニュのダナエ姫なら……」


 アーロンさんが驚いた顔をして、リチャードが口笛を吹く。


「あの美人のお姫様と知り合いなのかよ」

「ダナエ姫とはな……まあいい。なら、誰か話を繋げる相手は居るか?」


「ダナエ姫の直属で、僕等と同じ東京の人間がいます。筝天院籐司郎さんという人です

僕らの名前を出せば協力してくれると思います」


 正直言って保証の限りではないけど、今頼れるのはあの人しかいないな。

 同郷のよしみが役に立つと思いたい。


 オルドネス家は準騎士に誘っては貰ってるけど。ジェレミー公はともかく、直接面識がある人が居ない。

 貴族と言えばあとはゼーヴェン君か、アデル姫しか思いつかない。

 ゼーヴェン君はもう結婚してロヴァール家にはいないかもしれないし、アデル姫には嫌われてそうだから頼むのも無理だろう。


「よし、リチャード」

「あいよ、旦那」


 アーロンさんがリチャードに耳打ちすると、リチャードが馬にまたがる。

 僕等の方に軽く手を振って馬にかるく拍車をかけると、馬が嘶いて黒い夜の道を走り去っていった。


「リチャードをブルフレーニュ家に使いに出した。行くなら急ぐぞ」

「はい」


「だが、本当に危険なら逃げる。いいな?自分が死んだらどうしようもないぞ」

「分かってます」


 この先どう転ぶか分からないけど、あとはもう幸運を祈るのみか。



 とりあえず、出血のある従士は簡単に治療した。流石に死なれるのは後味が悪い。

 そのあとはアーロンさんが当て身を食らわせて塀の間の影に放り込む。とりあえずしばらくは時間稼ぎになるだろう。


 ハンマーを動かすべきか、乗り捨てて歩くべきか。かなり迷ったけど、ハンマーで移動することにした。

 東京ならともかく、静かな旧市街でエンジン音を響かせて走るのは自分の居場所を教えているようなもんだ。

 でも、万が一強行手段で逃げないと行けなくなったら、ハンマーの機動力と頑丈な車体は大きな武器になってくれる。


 アーロンさんとレインさんは馬で着いてきてくれている。アーロンさんが少し先行して様子を伺ってくれた。


 ハンマーの荷台には僕とセリエとラクシャスが乗り、ユーカは助手席に座った。

 目を覚ましたら、いつものベッドじゃなくて見知らぬ旧市街の石畳の上、しかも周りは戦いの後で怪我人だらけ。

 しかも、お母さんに会えるかも、と言われたわけだけど、あまりに唐突でまだ実感がわかないらしくて、ぼんやりと助手席に座っている。


 セリエは魔法使いの懐に有った気力回復のポーションを飲んでだいぶ回復した感じだ。

 都笠さんの指示で、耳をそばだてて音に神経を集中している。エンジン音がして近づいてくる音は判別しにくいから、セリエの聴力はかなり当てになる。

 ただ、時々ラクシャスを今にも食い殺さんばかりの恐ろしい目で睨んでいた。


 屋敷への道はラクシャスに案内させた。

 流石に諦めたのか、何か思うところがあるのか、道のりについては割と素直に口を割った。


 ラクシャスの指示通りにしばらく走ると、格子状の鉄の塀に立派な生垣の屋敷が見えてきた。格子の飾りにはさっき見たラクシャス家の紋章が刻まれている。

 とりあえず嘘は言ってなかったらしい。



 門のところに辿り着くと二人の門番がいた。静かな夜に、エンジン音をさせながら近づいてきてるんだから、警戒されるのも当然か。

 ハンマーの白いハイビームで照らされた門番が眩しそうに顔を隠している。


 揃いの短めのマントを着ていて、片手には身長を少し超えるくらいの長さの槍をもっている。

 もう片手に持った盾にはさっきの従士と同じ紋章が染められていた。


「止まれ!」

「何者だ!」


 車から降りた僕に向けて、門番が槍を構えようとする。僕も銃剣を構えた。一瞬緊張した雰囲気になるけど。

 その後からセリエに蹴飛ばされるように促されて降りてきたラクシャス見て察したんだろう。門番が諦めたように首を振って、槍を下した。


「おい!何をしている!」

 

 どうやら屋敷に来れば門番とかが自分の為に戦うと思っていたらしい。それで形勢逆転でも狙ったんだろうか。


「なぜ戦わん!貴様ら!この役立たずが!」


 ラクシャスが杖で石畳を叩いて怒鳴りつけるけど、門番が顔を見合わせて曖昧な笑みを浮かべる。

 スロット武器持ちでは無さそうだけど、それ以前に問題として、そもそも戦意がなさそうだ。なんというか人望のなさがうかがえるな。


「忠誠を示さんか、馬鹿者!」

「門を開けてくれますか?」


 怒鳴るラクシャスを無視して、門番が素直に格子状の鉄の門を開けてくれる。ラクシャスが顔を真っ赤にして歯ぎしりをした。




続きは明日の昼頃。最終的には5連投になるかも。

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