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魔法のアップグレードを試みる。

 セリエ達も戻ってきたので、ちょっと遅い昼ご飯になった。

 日差しが強いから、少し場所を変えて気が何本か生えて木陰になっているところに移る。


 アウトドア用の折り畳みの机やいすを並べて、馬車の屋根とつなげて緑色の簡易テントを張るとちょっとしたキャンプ気分だ。


 都笠さんとアデルさんは満足げにエールを飲み、僕等はワインを飲んでいる。

 エールの炭酸の爽やかさが無いのは残念だけど、ひんやりした酸味のあるワインもなかなかにいい感じだ。

 レインさんもワインの方がいいようで、アーロンさんが注いであげたワインを飲んでいる。

 セリエとユーカはジュース派で、二人で果物ジュースを入れた瓶を仲良く分け合っていた。


 食事はサンヴェルナールの夕焼け亭で用意してもらったサンドイッチや、浅く酢漬けした野菜、ナッツやドライフルーツとかで、これがカラフルな日本製の弁当箱に入れてある。


「これは私からだ。皆感謝するように」


 アデルさんが合図すると、おつきの人が馬車から大きな幅広の鍋のような持ってきてくれた。

 キャンピングテーブルの上にドンと置いて蓋を取ると、トマトのような酸味のある香りとハーブの匂いがふんわりと漂う。

 ちょっとどろりとした赤いスープの中に白い何かが浮いていた。


包み煮パピロットだ」

「おお!これって結構並ぶんだろ?」


 リチャードが器をのぞき込みながら言って、アデルさんが自慢げにうなづく。

 アデルさんのお付きの人が、器にそれぞれ取り分けてくれた。スープをスプーンですくってみると、白いものは水餃子のようなものだった。


「これ……餃子?」


 都笠さんが首を傾げる。


 そういえば、最近は小麦の皮で野菜や肉を包んだものを煮たものが流行っていると聞いたけど、どうやらこれらしい。


 スプーンですくって口に入れる。ちょっと小さ目に作ってあるから一口で食べれるのがいい。

 こってりとした酸味のある熱いスープと野菜の味がふんわりと口の中に広がる。皮の中はチーズと粗挽き肉と乱切り野菜っぽい。

 ソースにトマト風の味がついていることも相まって、ペリメニとかラヴィオリって感じだ。具が大きめで皮が厚くて何とも食べごたえがある。


「へぇ、いいじゃない」

「美味しーい!」


 都笠さんが感心したように言う。

 ユーカが嬉しそうな声に、アデルさんが満足げな笑みを浮かべた。


「最近、新市街の店で売ってるのは聞いてたんだがな」

「おい、スミト。これもお前の世界の食い物なのか?」


 リチャードが鍋からもう一つ包み煮パピロットを掬いながら聞いてくる。 


「そうだよ。僕らの世界じゃこういう風に何かを包んで食べる料理って結構あったんだよ」

「でも、どうやって作り方がわかったんだろうな?」


 衛人君がスープを飲みながら言う。言われてみれば確かにそうだ。


「なんでも、塔の廃墟から持ち込まれた本を見て作ったらしいですよ

恐ろしく精密な絵が描いてあったから、それを見ながら作り方を試行錯誤したそうです」


 レインさんが教えてくれる。

 多分、東京の料理の本の写真を参考にしたんだろう。

 最近の料理本は細かく写真を乗せてくれているし、言葉は分からなくてもなんとなく料理の技法としては分かるのかもしれない。


 そういえば、カレーパンとかのようなパンの中に何かを入れて焼くようなものも軽食で食べられているって話も聞く。

 誰かが教えているわけではないのに、食文化もだんだんガルフブルグを浸食してる気がするな。



 鍋に入っていたトマトっぽいスープもパンで残らず掬い取って、食事は終わった。

 スープもちょっとこってりした感じで、ボリュームがある。

 脂っこいから体にはあまりよくなさそうだけど、ワインのつまみにはぴったりだった。


 途中からは、アデルさんのお付きの侍従さんとメイドさんも混ざって賑やかになった。

 なんというか、高飛車な貴族タイプかと思ったけど、侍従さんとかと親し気に話しているとそんな感じはない。

 でも、僕にやたらと噛みついてくるし、衛人君には当たりが厳しい。


「なんかアデルさんって、僕等にだけ対応悪くない?」

「俺もそう思うぜ、スミト先生。俺達だけ扱い悪いよな」


 都笠さんやアデルさんも酒が入ったし、今日の訓練はもう終わりな感じだ。

 完全にピクニックな雰囲気で、アーロンさんとリチャードがワインを飲んでいる。


「そういえば、レインさん。魔法について教えてもらいたいことが有るんですけど……」

「はい、何なりと」


 酒のせいかちょっとほんのり頬が染まったレインさんがこっちを向く。

 肌が白いからなのか、頬が赤いのが目立つ。


「魔法はイメージを描いて使うものなんですよね?」

「ええ。その通りです」


「なら、イメージ次第では、同じ魔法の威力を調整したり、別の効果を出すこともできるんですか?」


 今までうすうす感じていて、アンフィスバエナと近距離で戦った時にも改めて思ったんだけど。

 僕の魔弾の射手の高火力の方は、着弾と同時に爆発する。強力なダメージを与えられるものイコール爆発みたいなイメージで今の効果にしてみたんだけど、これがどうも距離が近い所では使いにくい。


 爆発範囲が広くて使う状況を結構選ぶのだ。近距離では撃つのは自爆になるから論外だし、味方を巻き込む可能性も有る。

 もし違う効果で魔法を使えるなら、何か工夫してみたいところだ。


「……理論的には可能ですが……」


 レインさんが口ごもる。


「一度固定したイメージを変えるのは難しいです」


 セリエが口を開いた。


「そういうもの?」

「例えば、私の魔法ですけど」


 セリエがジュースの器をテーブルに置いて立ち上がると、木の枝を一本少し離れたところに立てて戻ってきた。

 

「【黒の世界より来たる者は、白き光で無に返るものなり、斯く成せ!】」


 セリエが棒の方を向いて、呪文を唱える。いつもは薙ぐように手やブラシを振るけど、今日は目標を指すように手を突き出した。


 詠唱が終わるのと同時に手の先でフラッシュのような光が瞬く。

 いくつかの白い光弾がまっすぐに飛び、地面にあたって土煙を上げる。その一つが棒の根元にあたって棒が吹き飛んだ。

 こんな風にも使えるのか……でも、いつもに比べると威力がない感じはする。


「私の魔法は、光の帯で薙ぎ払う、というイメージで発動させています。

こういう風に弾のように撃つこともできるのですが……どうしてもいつもに比べると、威力も精度も下がります」

「変に違う効果を意識すると、本来の威力を発揮できないこともあるし、元のイメージまで乱れることがある。

使い分けて不安定な状態にするよりも、いつも同じように使えるようにしておくことが大事ってことだな」


 アーロンさんがワインをカップに注ぎながら言う。

 とっさに使えないとか、効果にバラツキがあると信頼性に欠けるってことか。そう考えると、精霊の追撃エレメントチェイスの炎をうまく使い分けてるユーカは結構すごいのかもしれない。


「いや……行けるんじゃないかな」


 黙って聞いていた都笠さんが口を開いた。


「発想の転換よ、風戸君。魔法と思わなければいいのよ」

「というと?」


「だってさ、それは銃なんでしょ?」

「気分的にはそうだけど」


 僕の魔法は、銃の弾を撃つイメージが根本にある。

 だから引き金を引く、というのが文字通り発動のトリガーになってるんだけど。


「じゃあ見てて。解放オープン


 都笠さんが立ちあがって兵器工廠から取り出したのはショットガンだった。

 ター○ネーターが使っていそうな、銃身の下のポンプを引くと次が撃てる奴だ。


「まずこれね」


 言って、少し離れたところに立っている木に的代わりの布を巻くと、くるりと長いショットガンを一回転させて腰だめに構えた。

 一瞬の後に銃声が響き、的が穴だらけになる。いわゆるショットガンでイメージされるとおりの散弾だ。

 リチャードが感心したように口笛を吹く。


「あいかわらずすげえな、スズちゃん」

「で、次はこれね」


 銃身の下から次の弾を入れて、ポンプを引く。

 次の弾は的に大きな穴を空けて、後ろの木の幹を大きくえぐった。


「なにこれ?」

「最初のは散弾、次のはライフルスラッグ弾」


 ショットガン、というと散弾しか思いつかなかったけど、違う弾もあるのか。


「つまりね、銃ってのは弾を変えれば別の弾が打てるのよ。

風戸君もそういうイメージを持てばいいんじゃない?」

「はあ……なるほどね」


 爆発する弾とは別の弾を込めて撃つ、そういうイメージで撃てばいいのか。

 試してみる価値はあるかもしれない。銃を出して、深呼吸する。

 構えて、頭の中でマスケット銃に弾を込めるイメージ、いつもと違う弾を込めるイメージを描く。


「【新たな魔弾と引き換えに!ザミュエル、彼のものを生贄に捧げる!】」


 今込めている弾はさっきの都笠さんが見せてくれた、単発の高火力のライフルスラッグ弾。

 爆発せずに相手にあたる弾。


「打ち砕け!魔弾の射手!デア・フライシュッツ


 木を狙って引き金を引くと。銃口から飛んだのはいつもの赤い弾じゃない、灰色の弾道を引く弾丸だった。

 それが木にぶつかったところで大きく膨れ上がる。

 タイヤのようなサイズの巨大な砲丸のようになった灰色の弾が、音を立てて巨木の幹に食い込んだ。

 ばきばきと木が音を立てる。弾が消えると同時に、木がこっちに倒れてきた。

 地響きを立てて木が倒れる。ずしんと音がして、木の葉が飛び散り、鳥が舞い上がった。


「はー」


 思ったよりはうまく行った。


「すげえな、スミト先生」

「やるじゃん、風戸君」


 衛人君と都笠さんが小さく拍手してくれる。


「すごいな、これは……」


 着弾したところで効果が出るのは爆発と変わらないようだけど。重い砲弾をぶつけるような感じだろうか。

 硬いうろことかを持つ魔獣にはこっちの方が効果的かもしれない。それに、これなら近距離でも遠慮なく打てるのはいい。爆発に仲間を巻き込むこともないし。


「……でも、威力だけ言うなら、いつもの爆発する方が高そうね」


 都笠さんがつぶやいた。

 銃を下ろして倒れた木を見る。確かに、単純な威力だけで言うなら、いつもの爆発させる弾の方が高いと思う。

 今までの感じだと、多分、爆風で一本どころか数本なぎ倒す位はできるはずだし。


「まだイメージを固めきれていないんだろうな。だが……」

「同じ魔法でこれだけ違う効果を生み出せるなんて」


 アーロンさんとレインさんが感心したように言ってくれたのはちょっと自信になる。


「素晴らしいです、ご主人様」

「お兄ちゃん、凄いね!」

「うん。有難う」


 イメージ次第では違う効果の弾を撃てる、というのが分かったのは大きい。あとは僕の訓練次第か。


「正直言って、お前とスズが言っていた、そのジュウとやらのことは俺達にはよくわからんが……これを見る限りだと複数のイメージを使い分けるのも、お前ならできるのかもしれないな」

「だが、あんまり欲張るなよ、スミト。名のある魔法使いでもなかなか出来る奴はいないぜ」 


 確かに。

 今のは呪文詠唱以前に、頭の中でイメージを描くのに結構時間がかかった。これじゃまだ実践でとっさには使えない。

 イメージに迷いが入ったら、いつもの爆発の方も威力が下がってしまうかもしれない。


 でも、今後どうなるか分からないけど、強くなれるに越したことはない。

 もう二度とあんな思いはしたくない。あの時は幸運にも犠牲はでなかったけど。

 セリエやユーカ、都笠さんが目の前で死ぬなんて場面を見たくないなら、少しでも強くならないと。




明日、設定回をアップします。なんと風戸君、セリエ、ユーカ、都笠さんの挿絵付きです。

一応言っておきますと、書籍化、とかではありません。まったくありません。


修行編は今回で終わりです。ストーリーの続きは書いてる途中です。近日中にアップします。



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