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青山公園、対空迎撃戦・上

2連投します。

 ワイバーンが大きく羽ばたいて高く飛び上がった。


「あっちへ!」


 都笠さんが木々が茂った青山公園を指さす。向こうには広いサッカーコートらしきところも見えた。

 ここは、開けた場所で態勢を整えて迎え撃つ、というガルフブルグのセオリーを信じよう。

 ワイバーンの動きを見ながら走る。


 新国立美術館の上を旋回したワイバーンがまっすぐこっちに飛んできて、そのまま軽自動車を放り投げた。

 今までのように降り落としてくるのではない、滑空の勢いのまま投げつけてくるような感じだ。

 真横に飛んだ軽自動車が地面で轟音を立てて跳ね、転がる岩のようにこっちに向かってくる。


「危ない!」


 飛びずさった僕等の間を車が転がり、白いガードレールをなぎ倒して、そのまま青山公園の低い鉄柵も吹き飛ばして、公園の中に転がり込んだ。

 真上をワイバーンが飛び去る。新幹線が間近を通った時のように、一瞬遅れて風が吹き付けて、コートの裾が舞った。

 ワイバーンが道路わきに止まっていた黒塗りのタクシーを持ち上げて旋回してくる。


「急ごう!」


 青山公園に入った。

 正面にはまっすぐに伸びる登り坂があって、土と緑の芝のまだら模様の丘に続いている。

 左手はバスケットのコートとトイレらしきレンガ造りの四角い建物がある広場、右は広いサッカーコート。


 サッカーコートで迎えうつか。一瞬足を止める。


「来るぞ!」


 と同時に、ライエルさんが警告を発した。

 上から落下音がする。見るとタクシーがゆっくりと降ってきて、ほんの数メートル横の自販機にぶつかった。自販機をウッドデッキごと押し潰して車が爆発する。


「うわっ!」

「きゃあ」


 間近で起きた爆発音で耳が痛い。熱風が頬を刺す。火を噴いたままタクシーがぐらりと傾き、サッカーコートの入り口の方に転がっていく。

 ワイバーンが自慢げな感じのような、外れて不満げなような、甲高い咆哮を上げてまた飛び去って行く。次の爆弾を取りにいっているんだろう。


「走って!上に開けたところがある!」


 都笠さんがいって、正面の丘のようなところに走りだした。皆もそれに続く。

 急な石段を駆け上がると、太い木が何本も立っている広場があった。短く生えた草以外は土がむき出しになっている。木の根が土を持ち上げていて走りにくい。

 ワイバーンが風切り音とともに上空を横切っていった。車は降ってこなかった。木が邪魔になったのかもしれない。


「あっち!」


 都笠さんが右を指さす。その先には鉄の柵があった。

 黒く太い、鉄格子を思わせる均等に並んだ鉄の柱。高い柵の先端は尖っていてこちらに向けて反っている。いかにも進入禁止、という感じだ。

 その向こうには確かにだだっぴろいスペースが広がっている。


 柵には白い看板がつけられていた。

 警告。許可なき立ち入り禁止。

 英語と日本語だ。自衛隊かなにかの管理地なのか、ここは。六本木どまんなかにこんな場所があるとは。


「風戸君!魔法で穴開けて」

「了解!」


 今は許可を求めようにも相手がいないし、処罰する人もいないからまあ許してもらおう。銃を構える。


「私に任せてくれ!【邪悪なるものよ、正義の使徒の一撃の前にひれ伏せ】」


 僕よりライエルさんが早かった。斧が赤い光を帯びる


「うりゃあ!」


 ライエルさんが雄たけびを上げて斧を振る。金属がひしゃげる音を立てて頑丈な黒い柵が薙ぎ払われた。

 柵の隙間を抜けると、コンクリートで簡易に舗装された広いスペースがあった。ぽつんとショベルカーが取り残されている。

 遮蔽物はなくビルや公園の木が周りに見える。何のための場所なんだろうか。


「ご主人様!」


 ワイバーンが車をもってまっすぐこっちに突っ込んでくるのが見えた。

 こうしてみると、確かに開けた場所の方がいい気がする。少なくとも、どこから来るのか分かるし、攻撃の準備もできる。

 まだ距離がある。呪文の詠唱をする時間はあるな。

 

「この距離ならあたしにまかせて」 


 銃を構えようとした僕と呪文の詠唱に入ろうとしたセリエを都笠さんが制止した。


「流石に化け物でもね、これならどうかしら!解放オープン!」


 兵器工廠アーセナルから現れたのは、巨大な三脚に据えつけられた、長大な銃身を持つ恐ろしくごつい銃だった。

 映画とかで見る、武装車両やヘリに取り付けられてるような感じのものだ


「ブローニングM2重機関銃ヘビーマシンガン!近代兵器の力、思い知りなさい!」


 轟音を立てて銃声が響いた。

 89式の軽い銃声とは全く違う、空気の振動が伝わる銃声。衝撃が空気を揺るがし、ユーカが耳を押さえる。

 次々と飛ぶ太い火線がまっすぐに滑空して来たワイバーンを捕らえた。この距離なら届くとは思ってなかったのかもしれない。


 何か硬い壁にぶつかったかのように、もんどりうってワイバーンがバランスを崩した。足に抱えていた車が爆発し、甲高い悲鳴が上がる。

 ワイバーンが滑空の勢いのまま錐もみの状態のように地面にたたきつけられる。丘の木をなぎ倒し、さっき穴をあけた柵にぶち当たった。


 即死ではなかったようだけど、遠目にももう飛べる状態じゃない。体や翼のあちこちに穴が開いている。

 ワイバーンが首を伸ばして甲高く遠吠えを上げた。


「せめて止めは!」


 ゼーヴェン君が走り出したところで、ワイバーンの姿が崩れた。どうやら死んだらしい。

 ワイバーンの巨体が黒い渦に消えていって、後にコアクリスタルが残る。


「ああ……」


 ゼーヴェン君ががっくりと肩を落とす。コアクリスタルを拾ってきた顔にはあからさまに悔し気な表情が浮かんでいた。

 まあこれで終われば何もしてないようなもんだし、気持ちは分からなくもない。ただ……


「ただね……」

「これで終わりじゃないような……」


 あの赤坂通りでの車の爆撃のペースを思い出すと、もしかして……

 ゼーヴェン君にとってはどうか分からないけど、僕としてはあまり当たってほしくない予感がある。

 と思っていると。


「……ご主人様、あれを」


 セリエが六本木ヒルズの方を指さす。


 そこにはこちらに飛んでくるワイバーンの姿があった。

 ……嫌な予感は当たった。もしかして2体いるんじゃないか、と思っていたけど……やっぱりか。



 もう一体のワイバーンが上空を旋回している。顔をこちらに向けて……睨んだのが分かった。

 死体は残っていないけど、僕らが同族というか相方を殺したことはわかるのか。


 ひと声ワイバーンが叫んで、何の恨みか、僕の方に猛スピードで急降下してきた。呪文を構えようとしたけど、速い。間に合わない。

 大きく開けた顎を躱し、姿勢を低くする。頭の上を羽根が通過していく。


 躱した、と思った瞬間、目の前に黒いものがうつった。

 それが何かわかるより前に強烈な衝撃が来て目の前に火花が散った。


「うがっ!!」

 

 一瞬の間があって、背中に強烈な衝撃が来た。体が転がって、肩だの足だのが堅いものにぶつかる。

 目の前に地面が見える。倒れてるんだ。ていうか、何が起きた……


「ご主人様!」

「風戸君、早く立って」

 

 躱したと思ったけど……多分、通り抜け際に尻尾で殴られたんだ。

 セリエが駆け寄ってくる


「ご無事ですか?」


 頭がクラクラするのと、口の中に血の味がする。全身ぶつけたらしく、体中が痛い。

 立ち上がろうとしたらアバラから刺すような激痛が走った。


「ご主人様?」

「……大丈夫じゃないな」


 顔をしかめた僕を見てセリエが呪文の詠唱を始める。


「【彼の者の負いし傷は、我が祈りによりて癒されるもの、斯く成せ】」


 セリエが手をかざすと、全身の痛みが溶けるように引いた。


「ありがと」

「いえ……当然です」


 脇腹はまだ痛む。完全に痛みは消えたわけではないけど、動けないほどじゃない。

 そもそもあのサイズのものがあのスピードのものがぶつかってるんだから、トラックにはねられるようなもんだ。ライエルさんの防御プロテクションが無ければ間違いなく死んでたな。


「風戸君!」

「スミト殿!」


 見ると、反転したワイバーンがこっちにまた突っ込んできていた。車を使った爆撃はもうやめたのか。

 都笠さんの銃声が立て続けに響き、ユーカの炎の壁が次々と立ち上がるけど。炎の壁を突き破るように飛ぶワイバーンを止めることはできない。逃げるのは無理だ。


「伏せて、セリエ!」


 セリエの頭を抱えて地面にぴったり伏せた。

 その真上を轟音をたててワイバーンが飛び過ぎる。一瞬安心したところで、今度は体が引っ張られるようにして宙に浮いた。


「うわっ!」

「お兄ちゃん!」


 一瞬体が浮いて、何かが裂けるような音がした。後ろに引っ張られる感じが無くなって地面に落ちる。

 振り返ると、飛び去っていくワイバーンの後ろ足の爪にコートの切れ端らしき黒い布が引っかかっていた。鉤爪が翻ったコートの裾に引っかかったのか。


 アンフィスバエナの酸のブレスと、さっきの地面にこすった時とでボロボロだったのが幸いしたらしい。

 袖と襟だけが残って、完全に襤褸切れのようになったコートを脱ぎ捨てる。


「捕まらない様に気を付けて!」


 今のが意図的なのか偶然かわからないけど。

 上空から放りなげられたら、さすがに防御プロテクションがかかっていても助からないだろう。というより、まだかけてもらってない。


「みんなに防御プロテクションかけて!」


「はい、ご主人様!

【彼の者の身にまとう鎧は金剛の如く、仇なす刃を退けるものなり。斯く成せ】」

「【私の名において命じるわ、盾よ、あの子を守りなさい】」

「【正しきものに加護よ、有れ】」


 セリエ、オルミナさん、ライエルさん、三者三様の詠唱が終わり、皆が青白い光を纏う。とりあえずこれで一安心か。


「【わが身は鋼!砕けはしない!】」


 ゼーヴェン君は自分に防御プロテクションを掛ける。自己防御プロテクション・ザ・セルフという自分用の防御を使えるらしい。


 とりあえず交戦体制は整った。ワイバーンがまた旋回して突っ込んでくる。息を着く暇もない。


「食らいなさい!」


 都笠さんがM2を構えて引き金を引いた。立て続けに弾丸が飛ぶ。

 一体目の片足のあいつに比べて少しサイズが小さいからなのか、まっすぐ突っ込むのは危険だととわかっているのか、ワイバーンが左右に切り返すように飛ぶ。

 左右の動きを追いきれない。火線が空を切る。


「こいつ!速過ぎ!」

「スズ様!逃げて!」


 重い機関銃では素早く飛び回るワイバーンを追うのは難しい。

 というより、あんな風に飛び回る飛行機は現代では存在しないのだから、機関銃で撃つ相手としては文字通り想定外だ。


「危ない!」

「お姉ちゃん」


 都笠さんがM2を置いたまま横に飛んで頭を抱えて伏せた。

 猛スピードで通り過ぎたワイバーンとM2重機関銃が衝突した。重たげな機関銃がトラックとぶつかった軽自動車のように吹き飛び、音を立てて転がって行く。


「セリエ!魔法でなんとかできない?」

「はい、ご主人様」


 セリエが呪文の詠唱に入る。

 魔弾の射手や都笠さんの銃のような、点での攻撃はあのスピードを捕まえられないけど、セリエの光の帯のような面での攻撃なら当てれるかもしれない。


「メイベル!」

「わかりました」 


 メイベルさんも杖を構えて呪文の詠唱に入る。

 ワイバーンが高々と飛び上がった。今度はどっちからくる?

 今度は上空でくるりと反転して急降下してきた。あのでかい図体でなんであんな軽やかに飛べるんだかわからん。


「くそっ!」


 横からきてくれる分にはなんとか迎撃できるけど直上からくると狙いにくい。飛びずさって角度をつけて銃を構えるけど。

 呪文詠唱に入っていたからか、メイベルさんとセリエの反応が遅れた。

 

 まずい。




続きは多分明日。

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