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帰り道でも再びワイバーンとカーチェイスをする

 ミニバンが赤坂通りに飛び出した。路地に比べれば道幅が広くなったけど……


「……思ったより狭いわね」


 片側1車線の道路で所々に車が障害物のようにたたずんでる。地図で見た時はもう少し広いと思っていたけど。六本木通りに比べると圧倒的に狭い。


「風戸君」

「なに?」


管理者アドミニストレーターのレベル上げて、次はストリートビューを見れるようにしておいて」


 RPGのレベルアップのように言われても困るぞ。どうやって階層を上げるかは僕もよくわかってない。


「善処しとく」

「気づかれました!」


 セリエが悲鳴のような声を上げた。同時にワイバーンの咆哮が車内まで聞こえる。


「できる限り牽制するよ。ユーカ、後ろは頼むね」

「うん、お兄ちゃん」


 ユーカが座席を倒してリアウインドウから後ろを睨みつける。


「ご主人様、お気をつけて」


 セリエの手を振りほどくとサイドウインドウを銃床でぶん殴った。ガラスがばらばらに割れる。

 窓から身を乗り出すと、空中を飛ぶワイバーンが見えた。


「ライエルさん、支えて下さい」

「任せてくれたまえ。【正しきものに加護よ、有れ】」


 防御プロテクションの青白い光が体に纏いついた。

 箱乗りのように身を乗り出す。ライエルさんが僕のベルトを掴んで支えてくれる。


「スピード上げるわ、注意して」


 声と同時にスピードが上がった。左右に蛇行して、車の間を縫うようにミニバンが走る。

 車体が左右に曲がるたびに車体が振られるように大きく傾ぐ。乗り心地がいいからその分足回りは柔らかい、ってことなんだろうか。

 ランクルではこんなことはなかった。これがチェイスには向いてないと都笠さんが言った理由だな

 顔の間近を街路樹や標識がかすめていく。プロテクションがかかっていても怖いものは怖い。


「もう少し安全運転で!」

「文句は逃げきれてから聞くわ!」


 ワイバーンの巨大な翼を広げた姿がうっすら雲のかかった空に見える。片足だ。昨日のあいつか。

 うっかり近づいてきてくれないかと思ったけど。さすがに警戒しているらしく、今日は急降下はしてこない

 

 見上げた僕と目があった気がする。首を傾げるような仕草をした。

 僕等が自分の足をちぎった相手ってわかるんだろうか。魔獣だって自分に傷を負わせた相手を憎いとは思うだろうし、逃がさなように見張っていたのかもしれない。


「セリエ、距離を取って動きを報告して。危なくなったらすぐ逃げて」

「はい、ご主人様」


 見ていると、ワイバーンが一気に高度を下げる。

 街路樹を器用に避けるように羽ばたいて道に止まっていた軽のワゴンを軽々と持ち上げた。そのまま高く舞い上がる。魔弾の射手の射程距離圏外だ。


「駄目だ……遠すぎる」


 上を取れる、距離をコントロールできる、ってのは本当に有利だ。空を飛べるっていうのは強すぎてズルいぞ。

 ワイバーンが振り子のような軌道で飛んで、勢いをつけるように車を放り投げる。

 放物線を描いて車が降ってきた。スローモーションのように見える車に狙いを定める。


「【貫け!魔弾の射手デア・フライシュッツ!】」


 空中で弾丸が車を打ち抜く。降ってくる車が爆発して赤い炎と黒い破片が飛び散った。


「メイベル!お前の魔法なら届くだろう!」

「はい、旦那様!」


 メイベルさんがリアウインドウの側によるのが見えた。昨日見た限り、かなり強力な魔法を使えるみたいだし、今の最大火力はメイベルさんかもしれない。


「【古より天にありしと伝わるもの、雷を従えし大鳳。その羽ばたきは千里に轟き、その輝きは千尋の果てに届かん】」


 詠唱の声が聞こえてくる。

 そして、ワイバーンがもう一度車を投げてきた。今度はオープンカーだ。


 今回はさっきより振りが大きい。このままだと車の上を飛び越える。野獣なみの脳みそしかないのかと思ってたけど、道をふさごうとしているのなら結構賢い。


「させるか!【貫け!魔弾の射手デア・フライシュッツ!】」


 弾丸が車を貫き、車が爆発して破片をまき散らした。 

 ワイバーンがこっちをじろりと睨んでもう一度高度を下げる。

 車の中からはメイベルさんの呪文の詠唱が聞こえる。つーか詠唱が長いぞ。


「まだ?」 

「【来たれ、群れなす雷鳥トォゥフ・ド・ラグベイド!天の止まり木を舞い降り、汝がこの地にもたらすは雷の惨禍!】」


 ようやく長い詠唱が終わって、車の後ろに青白い光が走る。青白い稲妻でできた、鳥のような形をしたものが現れた。

 一瞬の間を置いて、雷の鳥の群れが次々と空中に飛び上がる。


 ワイバーンが羽ばたいて逃げようとするけど、それを追うように群れがワイバーンにまとわりつき、次々と体当たりを食らわせた。

 当たる度にストロボのように白い稲光が輝き、ワイバーンが悲鳴を上げる。


 昨日の魔法とは違うものらしいけど。誘導機能付きだし威力は十分っぽい。詠唱が長いだけのことはある。

 ワイバーンが大きく羽ばたいて上空に飛び去った。

 とりあえず一難去ったか。車にしがみついて一息をつく。


「風戸君!つかまって!」

「へ?」


 都笠さんの声が聞こえた。前をむくと、空から1台の黒塗りのセダンが降ってきているのが見えた。



 放物線を描いて降ってきたセダンが、ビルにぶち当たり重い音を立てた。

 上空を見るとワイバーンらしき巨大な影が悠々と飛び去って行った。いつの間に。


 レンガのような赤い石材とガラスの破片をまき散らしながら、道路をふさぐように黒塗りの高級セダンがコンクリの路面に突き刺さる

 ボンネットから落ちてひしゃげ、一瞬の後に火が噴きあがる。爆音が耳を打って、熱い風が頬を焼く。

 ブレーキが踏まれて体が前に振られる。


「捕まって!」


 都笠さんの声と同時にミニバンが加速した。燃えているセダンと路駐しているスポーツカーに向けて突進する。

 顔を覆うと同時に、ガシャンと音がして車が揺れた。

 道をふさぐ2台の車の間をこじ開けるようにミニバンが突っ切った。


「うわっ」


 破片が体をかすめて、防御プロテクションの青い光が明滅する。ルーフバーにつかまってかろうじてバランスをとった。 


 後ろを見ると、30mほど後ろにワイバーンが追走するようについてきていた、いつの間に。

 さっきの雷撃で追い払ったと思ったんだけど。というか……あまり考えたくない、いやな予感が胸をよぎる。


 銃を構え直そうにも態勢が崩れて車にしがみついているのが精いっぱいだ。

 ライエルさんがベルトとスーツの裾を掴んでさせてくれているけど、掴んでくれてなければ振り落されている。

 障害物のように点在していた車が減って、ミニバンがスピードを上げた。周りの景色が飛ぶように後ろにすっ飛んでいく

 

 ワイバーンが口を大きく開けて咆哮を上げた。空気がびりびりと震える。

 赤坂通りに並ぶ街路樹を上を余裕綽々という感じで滑空してくる。しかも銃を構えるとすっとスピードを落として距離を取ってくる。


「くそ!」

「【燃えちゃえ!】」


 赤坂通りのビルの谷間に真っ赤な炎の壁が次々とそそり立つ。その一つがワイバーンの顔を焼いた。

 バランスを崩したワイバーンが失速してマンションのべランダに突っ込む。重い衝撃音が響いて、マンションから瓦礫の破片が飛び散った。


「大丈夫?お兄ちゃん?」

「ナイス、ユーカ!」


「くっ、この俺に何かすることはないか?」


 意気込みは買うけど、ゼ―ヴェン君に飛び道具はない。チェイス中には何もできない。


 高々と咆哮を上げて、マンションのベランダから再び飛び上ったワイバーンが、急上昇して旋回する。そのまままた滑空するように追いかけてきた。


 距離が見る見るうちに詰まる。地面を走るフル乗車のミニバンと、空中を飛ぶワイバーンじゃ直線スピードでは勝負にならない。

 ただ、どうやらエアロブレスは空中では吹けないらしい。それが救いだ。

 あれを空中から撃てるなら僕等はとっくにブレスでぺちゃんこに潰されてるだろう。


『まもなく乃木坂トンネルに入ります』


 ナビが声を掛けてくる。


『目的地まであと3キロ以上、道なりです』


 普段なら大した距離じゃないけど、今は恐ろしく遠い距離に感じる。


「トンネルよ!」


 目の前に暗い洞穴のような四角いトンネルの入り口が見える。

 顔に風が強く吹き付けてきて、回りが真っ暗になった。後ろを振り返ると、ワイバーンがトンネルぎりぎりで急上昇していくのが見えた。

 白いHIDライトが闇を照らしだす。


「この洞窟はどこへ続いているのだ?大丈夫かね?」


 一旦車内に戻った僕に、ライエルさんは不安げに聞いてくる。


「大丈夫ですよ、すぐ出れます」

「このまま振り切れたりしないかしらね」


 都笠さんが言う。

 ワイバーンからすれば突然洞窟に入って僕等の姿が消えたわけだし。どこか見当違いの所へ行ってくれないか、と思うけど。

 右に緩やかに曲がるトンネルが途中から長方形から円筒状に代わる。遠くに白い出口の明かりが見えてきた。


 逃げ切れるか、などと期待をした時、ゴンと鈍い何かがぶつかり合う音がした。

 出口の手前のトンネルの円筒状の天井が大きく凹んで、割れ目から太陽の光が細く差し込む。天井のパネルが落ちてきてコンクリで跳ねる。ひしゃげた天井から車が見えた。

 こっちの出口を読んで落としてきたのか。


「まさか……」

「つーか、ホントに賢いな、あいつ」


 トンネルを出てすぐの交差点にワイバーンが舞い降りてきたのが見えた。まっすぐいければ表参道だってのに。

 野生動物程度どころじゃない。トンネルの出口まで分かるとは。獣の野生のカンなのかもしれないけど。

 ワイバーンが胸を張るようにして翼を広げた。エアロブレス!


「捕まって!」


 都笠さんの声と同時にミニバンが煽られるように揺れる。左に振られた車体がトンネルの壁にぶつかった。頭をドアにぶつけた。目の前に火花が飛び散る。


 トンネルの外に車が飛び出した。明るい太陽の光で一瞬目がくらむ。

 蛇行するミニバンが左のガードレールにぶつかって、反動で右に曲り、そのまま右の下り坂に入った。


「重ーい!のよ!だれか降りなさい!」


 都笠さんが悪態をつきながらハンドルを切る。

 2車線の下り坂を左右にふらつくようにミニバンが駆け下る。ガードレールにぶつかって金属音と衝撃が右から左から、交互に響く。


『ルートを外れました。再検索を行います』


 ナビの明るい女の子の声と、ガリガリという金属のこすれる音、タイヤとコンクリートがこすれ合う音。絶叫マシンのように車が揺れる。

 

「きゃぁ!」

「くそっ、大丈夫なのか!」


 メイベルさんがユーカか良く分からない悲鳴が上がる。ゼーヴェン君が悪態をつく。ライエルさんが必死で座席にしがみついているのが見えた。


 ひっくり返りそうになりつつ、坂を下り切った広い交差点でようやくミニバンが止まった。

 スライドドアがきしむような音を立てて開く。


「青山公園で迎え撃つわ!ついてきて!」


 都笠さんが89式小銃を構えて車から飛び降りる。続いてゼーヴェン君とライエルさん。リアハッチから、セリエ達が下りてくる。

 僕も飛びおりる。すぐ通信機をオンにした。


「オルミナさん!聞こえますか?」

『……ええ、聞こえるわ。あたしの方からもワイバーンが見えるわよ』


「地図の3番に来て下さい。大至急!」

 

 合流ポイントが読めなかったから地図のいくつかの場所に数字を振って送っておいたんだけど。

 青山公園の前は3番にしておいた。番号を振ったところで合流できるのは幸いか。


『……20数える間に行くわ』


 言い残して通信が切れる。

 右に青山墓地、正面には青山公園。あの墓に入る展開にはなりたくないぞ。

 左には波を打つような外見の、ガラスで作られた新美術館。開けた青空、遠くにはヒルズがそそり立っている。


 青山公園の方に走っていくと、交差点のど真ん中の空中に黒い線が横に走った。その線が上下に膨らんで黒い水面のようなものを形成する。来たか。


「ナニコレ?」


 足を止めた都笠さんがそれを見ていると。その黒い水面、というか門からまず白い足がにょっきりと出てきて、オルミナさんが姿を現した


 前と同じような、モデルのようなすらりとした長身、グラビアアイドルのような巨大な胸に細い腰、体にフィットした黒い革鎧にスリット入りのスカート。

 青みがかった銀髪をアップにしていた。手にはレイピアを下げている。


 オルミナさんだ。新宿であって以来だな。僕の顔を見て大人っぽいってかんじの笑みを浮かべる

 

「久しぶりね、スミト。会いたかったわ……でも」


 オルミナさんが視線を上にやる。


「あいさつは後にした方がよさそうね」


 羽ばたき音がして。片足のワイバーンが軽自動車を足につりさげて僕等を見下ろしていた




続きはもう少しお待ちください。

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