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竜の棲む街、六本木

2連投のつもりでしたが3連投になりました

 様子をうかがうために一度412号線に出た。

 路地から少し顔を出して周囲の様子をうかがうけど、広々とした2車線の所々に車が止まっているだけで特に動くものは何もいない。


 出た所は予想通り谷町ジャンクションのすぐそばだった。首都高の高架が道が頭の上で分岐している。

 車道に立って首都高を下から見上げることなんてなかったけど、太いT字や十字の鉄骨が巨大な首都高の高架を支えている。なかなか壮観だ。

 合流した高架や歩道橋が絡み合うロープのように複雑に重なり合い、空に蓋をしたようになっている。これならワイバーンもこっちは見えないだろう。


 高架の向こうには二つの白いビルがそびえてるのが見える。その一つが目指すホテルだ。

そろそろ日が傾いてきている。


「あそこよね」

「そのはずだけど」


 地図で見たホテルの場所はあそこで間違いないはずだ。ほぼ目の前に近い。


「できれば夜になる前に若と合流したいのだが、可能だろうか」


 ライエルさんが言う。

 ゲートから出てきている魔獣は夜になると活発に活動する、というのは僕も聞いている。

 そういうのを抜きにしても、今は東京は電気があふれた明るい大都会じゃない。視界が悪い中で戦闘になればそれだけで不利だ。

 出来れば合流したうえで、どこかなるべく安全な場所を確保したい


 車の陰や首都高の高架の柱の陰に隠れつつ進む。

 谷町ジャンクションの下はガードレールや、小さい公園のようなスペースの植え込みがあったりして身を隠す場所が多いのは有り難い。


 先頭は都笠さんだ。今は武器をハンドガンに持ち変えている。

 ハリウッド映画で見るような動きで銃を構えながら様子を伺い、僕等を先導してくれている。ここら辺はいかにも自衛隊で訓練を受けたって感じだ。

 その後ろを僕とセリエ、ユーカが続き、ライエルさんが殿しんがりを務めてくれている。

 

 ホテルまで歩いてもう5分ほどってところで、前を行く都笠さんが何か手でサインを送ってきた。

 そんなものの知識は全くないけど、なぜか言いたいことはなんとなく分かった。止まれ、だ。

 足を止めて、後ろを姿勢を低くして歩いているセリエ達を手で制する


「……解放オープン


 黙ってみていると、都笠さんがハンドガンを腰のベルトに挟んで、別の銃を兵器工廠アーセナルから取り出した。

 長い銃身を持つ銃だ。映画で見たことが有るような、スナイパーライフルっぽい。都笠さんが銃を構えてスコープを覗いている。


 暫く見ていると、都笠さんが手招きした。中腰のままで近寄る。


「どうしたの?何か撃つの?」

「そうじゃないわ。これ、覗いてみて」


 そう言ってライフルを渡してくれる。

 ずしっと重い。僕の銃より小さいけど重い。構え続けるのは結構大変だな、これ。


 都笠さんに言われる通りにスコープを覗いてみると、望遠鏡のように遠くの景色が見える。

 小さな円のような狭い視界に映っていたのは、ホテルの前にたむろするかのように群がるリザードマンだった。


 

 ライフルを返すと、都笠さんがもう一度スコープを覗き込む。

 リザードマンはさっきも戦った。大して強い魔獣という印象はなかったけど、見る限り数が結構多い。あれを蹴散らしてホテルに入るのは厄介だ。


「……ちょっと気になるわね」

「なにが?」


「ホテルに入ろうとしてないのよね。ほら、見て」

 

 改めてスコープを覗くと。

 言われてみると、正面のガラスドアが割れているっぽくて、リザードマンは入ることはできるはずなのに、中に入ろうとする気配はない

 なんというか、ホテルの前で有名人の出待ちをするかのように、遠巻きにしている感じだ。


「中になにか……」

「いるのかもね」


「一般的には、魔獣はより上位の魔獣がいる場所には近づきません」


 いつの間にか近寄ってきていたセリエが説明してくれる。ユーカとライエルさんも一緒だ。

 ドレスコードで入りません、なんてこともあるわけはないし。確かに中に入らないってことは、中に何かがいる可能性が高い気がする。

 都笠さんと顔を見合わせていると、唐突にレシーバーの呼び出し音が鳴った


「うわっ」

 

 慌ててレシーバーを取り出し受信ボタンを押す。静かなうえに緊張したところで突然なったから、心臓が止まりそうになった。

 物陰に身を隠してホテルの方を見たけど、リザードマンの群れがこっちに突撃してくる、なんてことは無かった。

 ほっと溜息をつき通話ボタンを押す。


「はい、こちらスミト」


 都笠さんがハンドガンを、ライエルさんがスロット武器と思しき長めの戦斧を、ユーカがフランベルジュを構えて周りをぐるっと見渡す。


『ジェレミーだ。たった今、メイベルから連絡があった』

「はい」


『潜んでいた塔の中にゲートが開いて大型の魔獣が現れたとのことだ。

今は身を隠しておられるようだが一刻を争う。急いでくれ』


「……やはりそうか。なんてことだ」

 

 嫌な予感ってのは案外当たる。

 スピーカーから聞こえたジェレミー公の声を聴いてライエルさんが顔色を変える


「何とかならんか?スミト殿。このままでは若が」


 ライエルさんの顔には焦りがありありと見える。

 今すぐにでも助けに走りたい、って感じだけど、ホテルの周りのリザードマンの数を考えると馬鹿正直に突撃してけ散らすのは厳しい。


「突入するだけなら……」


 周りを見渡すと車が何台も止まっている。これで強行突入もできなくはないとは思うけど。


「ただね……何も内部の情報がないのに行くのはあたしは嫌だわ」


 都笠さんが考え込むように言う。

 中に何がいるのかさっぱりわからないのは確かに困る。強力な魔獣っていうならなおさらだ。できれば中を見たいけど……


「セリエ、使い魔ファミリアで中を見れない?」

「……申し訳ありません。私の使い魔は鳥なので……」


 セリエが都笠さんの問いに申し訳なさそうに言う。

 猫とかだったらホテルの窓とかから侵入して中を覗けるかもしれないけど、鳥では難しいか。


「じゃあ、僕が近づいてみるよ」

「中を見れるの?」


 都笠さんが聞いてくる。


管理者アドミニストレーターで、防犯カメラの映像を見れるんだ。近づけばなんとか使えるかもしれない」


 管理者アドミニストレーターは二階層になってかなり効果範囲が広くなった。ホテル内に侵入しなくてもギリギリまで近寄れば使える可能性も有る。

 ……こういう時の為にもう少し自分の能力をきちんと把握しておくべきだったな。


「ご主人様、危険です。おやめください」

「そうだよ、お兄ちゃん」


 セリエとユーカが心配げな顔で言う。


「でも、中を見るならそうするしかないと思うよ」

「そんな……」


「勇敢だ。感服するぞ、スミト殿。さすが、英雄と呼ばれるに相応しい」

 

 ライエルさんは感心した風だ。

 僕としてはそんな呼び名は正直どうでもいいんだけど。強行突入したくなければ、多分僕が偵察するしかない。

 

「……では、私がお供します」


 セリエが決然した顔で僕を見て言う。


「もし足手まといになるようでしたら捨てて行ってくださって構いませんから」

「あのねぇ」


 真剣な顔で言われても、そんなことできるはずがない。

 2人で行くべきかどうなのか。一人の方が動きが取りやすいのは確かではあるけど、万が一の時には二人の方が戦いやすいのも間違いない、


「二人で行った方がいいわ。風戸君。二人一組ツーマンセルは基本よ。

一人だとなにかあった時に手の打ちようがないわ」


 都笠さんがきっぱりと言う。


「それに、セリエの感覚は鋭いわよ。たぶんあたしより偵察には向いていると思う。

その獣耳は飾りじゃないわよね」


 都笠さんが獣耳をちょっんとつついて、セリエがくすぐったそうに身をよじる。


「だめです、スズ様」

「なにが?」


「耳に触っていいのはご主人様だけです」

「……ああ、そう、へぇ、ふぅん」


 都笠さんがニヤニヤ笑いで僕を見る。そんな目で僕を見るな、遺憾ながらやましいことは無い。


「そっか……じゃあ、セリエ。危険だけど……」

「ご主人様のお側に控えるのが務めですから」


 なんか場違いな嬉しそうな笑顔でセリエが答える。

 そういえば、ユーカのお父さんに仕えていたころには戦争にも行っていたって話だし。僕みたいな駆け出し探索者よりよほど修羅場をくぐってるのかもしれない



 通信機の受信音がオフになっているのを確認した。

 呼び出し音で気付かれてリザードマンに包囲されるのは余りにバカらしい。


「なんとかギリギリまで近づくよ。何かあったら連絡して」

「気を付けてね、お兄ちゃん、セリエ」


「必ず戻ってくるよ」


 心配そうに僕等を見上げるユーカの唇が震えている。頭をポンと撫でてあげる


「もしリザードマンに見つかったら、車を動かして逃げてくる。そのときは強硬突入になっちゃうけど」

「ええ、分かってる。何かあったら援護するわ」


 都笠さんが89式小銃を構えて言う。


「一応言っておくけど、無理はしないで。帰ってくるのも仕事よ」

「了解。じゃあ、行ってくる」


 姿勢を低くしたまま、物陰を伝うように前進する。後ろや横はセリエが見てくれている。

 リザードマンに気づかれないようにホテルのぎりぎりまで忍び寄る。ただ、これでうまく隠れられているか分からない。これが終わったら誰かに正式に隠密の訓練をしてもらおう。


 縦長の板のような看板に身を隠す。レストランの紹介が書かれた看板はちょっと薄汚れて爪か何かで引っ搔いたような傷が入っている。

 看板から少し身を乗り出してホテルの入り口の方を見た。もうリザードマンの群れの姿が普通に見える。一応もうここはホテルの敷地内ではあるけどようだけど……


管理者アドミニストレーター起動オン


 ためしに管理者アドミニストレーターを使ってみたけど、特にここでは何も反応がない。もう少し近づかないとだめか。


「もう少し近づくよ」

「はい……」


 改めて看板の向こうを覗くと、ロータリーや普通ならドアマンが立っていてお客さんを出迎えるであろうガラスの正面玄関にリザードマンが群れを成していた。

 軽く20体以上はいそうだ。さっき戦った限り大した相手ではないけど、数が多ければさばき切れなくなる。数は力だ。


 2階のショッピング街かカフェに入るためなのか、張り出した通路にのぼる階段がある。

 もう少し近づくのは、正直言ってかなり勇気がいる。手近な車の位置を確認する。万が一の場合はこれに乗って逃げよう。


「上に行くよ」

「はい」


 セリエの耳元でささやくと看板の裏から出て、止まったままのエスカレーターに走った。

 手摺が姿を隠してくれているんだけど、やっぱリ怖いものは怖い。ほっと一息つく。

 昇り切ったところで様子をうかがう。セリエが耳を動かしてうなづいた。何もいないらしい。


管理者アドミニストレーター起動オン


 ……ここでもダメか。 

 カラフルなタイルようなもので舗装された空中歩道には、所々に鉄のかごのようなものに植えられた植え込みがある。植え込みがだいぶ伸びているから身を隠す場所には事欠かない。


 フロア一枚をはさんだ下にはリザードマンの群れがいるのだから正直言っていい気分はしない。数が多いせいか爪がコンクリと当たる硬い音と鳴き声が此処まで聞こえてくる。

 なんというか、ゾンビものの映画とかの主人公になった気分だ。


 一番近い植え込みの側に駆け寄り様子を伺う。

 ホテルの入り口が見える。あと20mほどだろうか。何もいないっぽくても薄闇の陰に何かが潜んでいそうなプレッシャーはある。

 ちょっと歩けばすぐの距離なのに異常に遠く感じる。カフェの看板とオランダのビールの看板が割れたガラスの向こうに見えた。


 此処までくると、ホテルの中から聞こえる音もわかる。

 何か硬いものがぶつかり合うような音。というか、何かをなぎ倒しているような音だ。ガラスが割れる音も聞こえる。


 そして、耳を澄ましていると、ホテルの中から咆哮が響いた。

 ワイバーンの肌に震わせるような太い咆哮とは違う、甲高い金属的な声だ。どちらも恐ろし気ってところは共通している。背筋が寒くなる。


『大丈夫?風戸君』

 

 通信機から小さく都笠さんの声が聞こえた。この方向は向こうにも聞こえたらしい。


「大丈夫」


 息を止めて、もう一つホテルに近い植え込みに移動する

 この辺までこれば使えるか……というか、これ以上近づくなら目視した方が速いというレベルになりそうだ。


管理者アドミニストレーター起動オン


 頭の中に、文字が浮かぶ。電源復旧パワーレストレイション防災設備制御セイフティシステムコントロール、そして監視セキュリティカメラ制御コントロール

 ようやく届いた。セリエの顔を見て頷く。


監視セキュリティカメラ制御コントロール


 発動と同時に疲労が重くのしかかってきた。いつでも飲めるようにジェムを袋から取り出しておく。


 カメラが薄暗いホテルのホールの映像を映す。

 前と同じように、目の前の空中にディスプレイが浮かぶように映像が映る。


 格子状に木の板が張られた上品な壁。空中回廊というか中二階のように張り巡らされた通路。高い吹き抜けの天井と吊るされたシャンデリア。いかにも高級ホテルのロビーって感じだ。

 電気がないからちょっと暗くて見にくいけど、何がいるかはすぐわかった。ロビーの中央には窓から差し込む光に照らされて、なにか巨大な影が見えた。

 細長い図体が吹き抜けに立ち上がっている……これは蛇だろうか。それとも竜族ドラゴンなのか。

 頭らしき部分は吹き抜けの二階を軽く超えていて、吹き抜けの廊下を探るように動く。


 と、その時、二階の通路で何かが光った。カメラをズームする。

 人だ。白っぽいマントのようなものがひるがえる。さっきの光はスロット武器を出した時の光か。蛇の顔がそっちに近づく。


 片方の肩に白いマントをひっかけた背の低い男、というか男の子が映像に映っている。何か叫んでいるようだけど声はもちろん聞こえない。

 その後ろにはきれいな銀髪をツインテールにしたちょっと背の高い女の子がいる。多分この子がメイベルさんだろう。

 戦いが始まった。もう一刻の猶予もないな


「中にいるのはデカい蛇だ。もう戦闘中。早く行かないとまずい」

『状況をもう少し』


 都笠さんが冷静に聞き返してくる。


「たぶん敵はデカい蛇だ……体長はわからないけど2階までは軽く届いてる……顔を2階に向けているから今なら奇襲できるかも」

『わかった。

ホテルの近くにトラックがあるわ。黒い塗装の奴。そこで合流しましょ。気を付けて』


「了解」


 此処までこればもう用は無い。

 もう一度あたりを確認するけど敵の姿は無い。


「走るよ、セリエ」

「はい」

 

 立ち上がって階段まで走った。階段の下には誰も居ないから、そのまま全力で走り階段をかけおりる。

 向こうから走ってくる都笠さん達が見える。しかし、こういう時はオルミナさんの鍵の支配者キーマスターがあるといいんだろうなぁ。あんまり同行してほしい人ではないんだけど。



続きは明日か明後日にアップします。

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[一言] はやくオルランド公の戦闘が見たい 別世界線のライエルさん 最初はオルミナ同行かと思ってました
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