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異世界人侮りがたし、と再び思い知る。

三連投、一投目、いきます。

「どうしようかね。連絡が取れないのは痛いな」


 管理者アドミニストレーター階層グレードが2に上がった時点で、これまではできなかった通信回線復旧コミュニケーションラインコネクトができるようになったので、スマホの電話回線も使えるようになった。

 ただ、喜んだのもつかの間。実のところ、これはあまり意味がないということがすぐにわかった。


 というのは、こちらの回線が復旧しても、そもそもかける相手がいない。どこにかけても電気がないから電話がつながらない。

 一応電話帳にあるすべての相手にかけてみたけど、もちろんすべて圏外でつながらなかった。


 つくづく、東京にいた頃の便利な生活は、精緻に組み上げられたインフラに支えられていたなって思う。電話はそれ一台では何の意味もない。

 ちなみにインターネットは使えないので、これはまだ階層グレードが足りないってことなんだろうと理解している。


「無線機はどう?自衛隊じゃよく使ったけど」

「ああ、それはいいかもね」


 電機関連工事の仕事をしていたから、タクシーとか運送業さんとか、無線機を使うような業者とも取引があってセッティングとかをしたことがある。


「今のは中々性能がいいからね。渋谷から六本木のあたりまでなら通ると思う。ただ……」

「そうね。動力をどうするかって話よね」


 電話機を使う、無線機を使う、という話になれば。どちらにせよ、機械を使う以上電源という問題はどうにかしなくてはいけない。


 管理者アドミニストレーターに関する情報漏れを避けるため、ということを考えると、パレアからレナさんを呼んでもらうのが一番いいんだけど。

 今からパレアに使者を出してこっちに来てもらって、とやっていればまず間違いなく1日はかかってしまうだろう。

 今回はおそらくその一日を待ってもらう余裕はなさそうだ。


 管理者アドミニストレーターのことは教えてたくないんだけど、この際そういうこともいってられないか

 どんなに口止めしても情報漏れは避けられないだろう。ある程度そこらへんは覚悟するしかない。



 ジェレミー公に無線機の話をすると意外、というか衝撃の答えが返ってきた


管理者アドミニストレーターだろう?使える者が何人かいるが、それで大丈夫かね?」

「え?」


 マジデ?なんで知ってるんだ?


「何で知っているんだ?という顔だな」

「ええ」


「君があの鉄の車をこのギルドの入り口の乗りつけたのと、ギルドで管理者アドミニストレーターのことを聞いたということは私の耳にも入っているからな。

そこから推測したが、どうやら間違っていなかったようだな」

「はあ、なるほど」


 そういえばすっかり忘れていたけど、ギルドでそんなことを聞いたような気がする。

 あの時は僕もこっちに飛ばされてすぐだったし、情報漏れがどうだのと頭を回す余裕はなかった。 それに管理者アドミニストレーターの能力が利便性が高いことはあの後分かったことだしなぁ。

 しかしすでにバレていたとは。色々と悩んだ僕がバカみたいだ。


「だが、あの鉄の車は誰にも動かせなかった。

それにこれもなんだかわからなかったよ。この小さな窓に文字が現れるだけだった」


 ジェレミー公が見せてくれたのはHDDプレイヤーだった。

 これは確かに単独では何の意味もない。録画してあるものをテレビにつないで操作しないと、これ自体はただの銀色の平たい箱に過ぎない。

 

 車についてはおそらく階層グレードの問題だろうと思う。

 レナさんの5階層グレードファイブ管理者アドミニストレーターは電化製品のすぐ近くにいないと機能を維持できない。

 どういう仕組みなのかはわからないけど、車を動かせるのは5階層グレードファイブでは無理ってことだろう。


「……やりますね」

「無論だ。

塔の廃墟のものは我々には何が何だかわからないものばかりではあるが、ガルフブルグよりはるかに進んでいることくらいはわかる。

そして、それを使うスキルがあるというなら、探すのは当然だろう」


 相変わらず彼らの着眼点は鋭い。やはり異世界人侮りがたし、だ。


「君がつかえているということは我々も使えるはずだ……と思ったのだがな

なかなかうまく行かんものだ」


 スキルの素性がバレてもうまく使えるわけではないか。

 管理者アドミニストレーターは使いこなせば便利だけど、よく考えればあガルフブルグの人にとっては意外に使いこなすハードルはかなり高い。


 僕が管理者アドミニストレーターを上手く使えているのは、スキルそのものというおり現代知識があることの方が大きい。

 当面は今一つ役に立たないスキルの状況に変わりない気がする。もう少し知識が普及すればまた別だろうけど。


「ほかに管理者アドミニストレーターのことを知ってる人は?」

「塔の廃墟のギルドの関係者の一部くらいだろうな」


 まだ限定された人しか知らなそうだけど、人の口に戸は建てられない。知れ渡るのも時間の問題だろう。

 まあ習得できても有効に使えるかは別問題なわけだけど。


「すでにスロットを埋めている探索者で新たに管理者アドミニストレーターを習得できるものはまずいないだろう。

ただ、このスキルの価値と存在が知られれば、特殊スロットを使わずにおいておいた単独スロットシングルスがこれを習得することはあり得るだろうな」


 そういえばレナさんもそんな感じだったな。


「特殊スロットのみを持っているものはあまり使いでが無くて放置するものが多かったのだよ。攻防スロットや魔法スロット、回復スロットは使いようがあるのだがな」


 確かにそうかもしれない。スロット武器を作れる、回復や魔法を使えるってのは分かりやすく役に立つ。


「僕が黙ってたことに腹を立てたりはしないんですね」


 これほど色々便宜を図ったのに、なぜ黙っていた、と言われても不思議じゃないんだけど、意外にそこらへんは気にしてないようだ。


「それは無論教えてくれればそれは嬉しかったがね。

君は探索者だ。そして、自分の、とくに貴重なスロット能力をひけらかす馬鹿者はいない。

教えないのはむしろ当然だろう」


 当然といった口調だ。能力を明かさない、というのは当たり前なんだろうか。準騎士とかで誰かの配下になれば別だろうけど。


「だが、今後はこのキカイとやらの使い方を教えてくれるとありがたいな」

「……考えときますよ」


 管理者アドミニストレーターの正体がバレた以上、現代の機材に関する知識はまさしく僕の生命線だ。安易には教えられない。


「じゃあ、今回必要なものを探してくるので、その間に一つお願いがあるんです」

「なんだね?」


伝書鳩キャリアピジョンで、なるべく周りのことを詳しく書いてもらってください。

あと、送ってくる紙は今いる建物の中の、何か書いてあるものをつかってもらってください」


 僕の言葉にジェレミー公が不思議そうな顔をする。


「何故だ?」

「ああ、なるほど、いいアイディアね」


 都笠さんは僕の意図が分かったらしい。


「僕等の世界では書いてあることからけっこう情報が分かるんですよ」


 どこに潜んでいるか分からないけど、送られてくる紙に会社名でもホテル名でも何かが書いてあれば少しは手掛かりになる。


 というか、今どこにいるのかさっぱりわからない。

 霞が関のトンネルの近くのどこかで身を潜めている、といわれてもあの辺はオフィスビルやホテルがどれだけでもある。

 漠然とし過ぎていて、殆ど手掛かりにならない。


「わかった。指示通りにしよう」



 無線機は、用途不明なものを固めておいてあるギルドの倉庫である西武の1階に大量に置かれていたので、その中から一つ長距離用の物を選んだ。

 他にも電化製品の箱が山ほど積み上げられている。管理者アドミニストレーターの使い手が増えたらこの辺もガルフブルグに持ち込まれるかもしれない。


 無線機が管理者アドミニストレーターで稼働することを確かめて、今度は首都高に上った。

 渋谷料金所のスロープを上ったところで、無線機の調子を確かめてみる。


「あーあー。テストテスト。聞こえますか?」


 レシーバーの方は電池で動かすことにした。

 管理者アドミニストレーターで動かしてもいいけどそれは最後の手段。とりあえず避けられる消耗は避けた方がいい。

 久しぶりに聞くザザッという雑音の後に。


『よく聞こえる……信じられないことだが』


 ジェレミー公の声がレシーバーから聞こえてきた。


「それはよかったです」


 とりあえず、通信実験は成功だ。連絡が取れず孤立するのはこれで避けられる。

 なんとなくクリアに聞こえる気がするのは余計な電波が飛んでないからなのか、それとも単なる気のせいだろうか。


『しかし……素晴らしいというか驚かされるよ。これは魔法ではないのか?』

「僕等の世界の機械ですよ」


 ファンタジー世界の人が現代の電化製品に接すれば魔法にしか思えないだろう。進歩した科学技術は魔法の様である、という言葉もあった気がする。


伝書鳩キャリアピジョンより速く、しかも直接話ができる。これなら誤認もしにくい。

このように遠方の物とすぐに連絡が取りあえるものが合えば……戦も楽になるのだが」


 しみじみといた感じでジェレミー公が言う。

 確かに無線機があるのとないのじゃ、戦争の時は全然戦い方が変わるだろうな。できれば平和に利用されてほしいもんだけど。

 

「そちらの管理者アドミニストレーターの効果が切れるとこっちから連絡出来なくなるんで、注意してください」

『分かった』


「では、僕等はもうすこし様子を見ていきます。以上オーバー


 とりあえず一度無線を切った。

 渋谷料金所から六本木の方に歩く。すこしアップダウンがあったあと、道路が交差したトンネルがあり、そのまましばらく歩くと高架の上に出た。

 

 地下鉄の線路を歩いた時もそうだったけど、首都高に降りる、なんてことはしたことがない。

 左右に防音壁があるけど、僕の背よりもかなり高くて、かなり圧迫感がある。

 はるか向こうには六本木ヒルズがそびえたっているのが見える。こうしてみるとホントデカいな。

 

 セリエとユーカが防音壁の切れ目から高架の下を覗き込んで、怯えた感じで道の真ん中に移動して来た。

 自分でも見下ろしてみると……結構高い。落ちたらひとたまりもない。


「どう思う?」


 首都高はところどころ瓦礫や止まったままの車が転がっているが、路面は思ったよりは荒れていない。走れなくはなさそうだけど。

 

「……下道のほうがいいわ」


 はっきりとした口調で都笠さんがいう。


「やっぱりそう思う?」


 防音壁ではさまれた首都高の路線はさながら細い谷を歩いているような感じだ。

 それに道の真ん中の鉄の分離帯がある。4車線を幅広く使うのは無理だろう。


「人力飛行機でも、確か時速は40キロ近く出るからね」


 意外に速いな。テレビとかで見てるとそんな早く見えないんだけど。


「空を飛ぶ魔獣ってのが何だかわからないけどさ」

「……人力飛行機より遅いってことはないか」


 アクセル全開でまっすぐ走れるなら、飛行モンスターをぶっちぎることもできるかもしれないけど。

 真ん中の分離帯と邪魔な車輛を避けながらそれをやるのは難しい。

 それに、横道に逃げられないってのはかなりのリスクだ。


「それにさ、あたしたちは別に首都高使わなくてもいいでしょ」

 

 確かに。

 異世界住人のガルフブルグの探索者にとっては、わかりやすい道を選ぶ必要があると思うけど。ある程度は道がわかってる僕らとしては、リスクを冒して首都高を走る意味はないか。


「ただ、見通しが悪いのはちょっと怖いな」


 首都高の上なら空も良く見えるけど、空から来る敵を見張るには東京の空は見通しが良くない。

 高層ビル、電線、そして首都高の高架。障害物だらけだ。上から奇襲されるのは避けたい。 


「そうなのよね……」


 周り道する手もなくはないけど、例えば乃木坂とか赤坂の方から霞が関に回っても必ずしも安全とは限らない。

 ゲートがどんどん開いて、遠回りしたあげく連戦を繰り返しただけ、というオチもつきかねない。

 魔獣がどこにどう出るか分からない以上は、最短ルート行くのがベストだろうか。


 今回は前の新宿の時と違って実質的に制限時間がある。

 行っては見たものの死体の回収をしただけでした、では任務失敗だ。地下鉄を使ってもあまり効率のいいルートはなさそうだし。さてどうしたものか


「自衛隊員さん、ドローンとか使えない?」

「あいにく使ったことないわ」


 稼働自体は管理者アドミニストレーターでできるだろうけど、操縦できないんじゃ話にならない。

 2人で考え込んでいると。


「あの……ご主人様」


 黙って聞いていたセリエが遠慮がちに声を掛けてきた。


「どうかした?」

「上空を見張るのでしたら……私がお役に立てると思います」


「そうなの?」


「はい。私の使い魔ファミリアなら空から見張れます」

「なにそれ?」


 初めて聞く名前だ。スキルだろうか。


「お伝えしてませんでしたでしょうか。私のスキルです」


 ……そういえば支援系のスキルを持っている、とは初めて会った時に聞いていたけど。

 防御プロテクションや攻撃魔法、回復魔法とかその辺は実戦で使ってるから知ってるけど、それ以外はあまり意識してなかった。

 言われたと言われれば聞いた気もするけど。使われる機会が無くて忘れていた。


「……そんなの持ってたっけ?」

「申し訳ありません。決して隠していたわけではなく……」


 セリエが申し訳なさそうに頭を下げる。


「いや、僕が聞いてなかっただけだと思う」

「……あのね、風戸君。戦力の把握と正しい評価は生存率を上げるのよ、分かってる?」


 呆れたように都笠さんが言う。全くごもっとも。


「で、セリエ、それはどんなスキルなの?」

「はい。

使い魔ファミリアは、魔力で作り出した鳥や獣のような形代ゴーレムを作り出し、それを操作するスキルです。

視覚や聴覚を共有できますから、上空から魔獣が現れれば、それを確認できると思います」


「魔法で作る空撮ドローンみたいな感じかしらね」

「まあ、上空から偵察できるならおあつらえ向きではあるけど。他には?」


「はい。使っているときは視界や聴覚を使い魔ファミリアに移すので動けません。消耗も激しいです。

それに使い魔が傷を負うと私も傷を負いますので……」


 術者は動きは取れない、そして傷を共有するわけか。そこまで便利じゃない、というかリスクはあるな。

 特に、空中から襲ってくる魔獣がいることを考えると危険は大きい。ただ、上空を警戒できるのはとてもありがたい。危険はありそうだけど……


「うーん。頼んでいいかな?」

「ご主人様のお役に立てますのならば喜んで」


 セリエが嬉しそうな顔でうなづく。


「動けないことについては……車の中で移動中なら問題ないか。危ないって思ったらすぐに引っ込めてね」

「はい、ご主人様」


「じゃあ下道で行くのは決定。セリエが使い魔で見張るってことで」

「それで行きましょ」


 都笠さんも頷く。これで方針は決まった。なら、さっさと出発しよう。


次は明日か明後日には投稿します。

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