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決闘

遅くなりました。申し訳ないです。

 エスカレーターの方からコツコツという足音が聞こえてくる。

 不意打ちするのは気が引けるけど、手段を選んでいる余裕はない。息を殺していると足音が止まった。


「やれやれ、下賤なものは卑劣なことを考えるものだな。不意打ちのつもりか。

隠れているのは分かっているぞ。出てきたまえ」


 バレバレらしい。

 仕方ないので立ち上がった。倒れた棚の後ろに潜んでいたセリエも立ち上がる。


「探索者とか言っていたが隠形もできないのか?素人丸出しだ」


 そういわれると返す言葉もない。

 戦ったり武器の稽古とかはしたけど、隠れるとかそういうのは全然やってなかった。というより、アーロンさん、リチャードはどっちもいわゆる戦士タイプでそういうことを教えてくれなかった。


「不意打ちは失敗だな。で、どうするのかね」


「……見ての通り、2対1だ。

僕たちは手柄には興味はない。ユーカを返してくれ。僕らはそれで引き下がる

アンタは名誉と手柄を手に入れられる。お互いに損はないはずだ」

 

 今の最優先はユーカを助けること。それを受けてくれるなら……無意味な戦いは避けられる。

 ガルダが手を広げて首を振る。いちいちオーバーアクションだな、こいつは。


「それはあり得ない。わが主の意向に反するからな。

それに、君たちが条件を出せる立場だと思っているのか?ユーカはこちらの手にあるのだぞ」


 主の意向か。そこまでしてなぜユーカに拘るのかわからない。

 なんかサヴォア家の隠し財産とかでもあるんだろうか。


「そして君たちは分からないだろうが、この階にはゾラを待機させてある。

つまり、2対2というわけだ。ゾラ!どこに居る!」


 勝ち誇ったような顔でガルダが言う。さっきの騎士はゾラというらしい。

 5階に声が響くがもちろん返事はない。


「……」

「……いや、多分2対1だと思うよ」


 僕としてはオルミナがこの声を聴いているかと思うと気が気じゃない。


「……」

「こないでしょ」


「どういうことだ、貴様らまさか……」

「……さあね」


 ここで情報をご親切に教えてあげる必要はない。それに、勘違いしてくれてる分には損はしない。はったりは大事だ。


「信じられん話だが……まあいい。

貴族は下賤な民より強くなくてはならぬ。強いからこそ、民を従えることができるのだ。それを見せてやろう」


 ガルダが黒い刀身のサーベルを構える。

 新宿に封緘シールを置いて手柄にする、というのが主目的かと思っていたけど。向こうがユーカに拘る以上、交渉の余地はもうない。やるしかないか。こちらも銃剣を構える。


「私に勝てると思うのかね?貴様らの様な探索者など、2対1でも後れを取る私ではないぞ」

「やってみなけりゃわからないだろ」


「……なぜ奴隷の為にそこまでする?

奴隷は主人の為に命を懸けるものであって逆はありえない。

金が惜しくなったのならば払ってやるぞ、どうだ?」


「……金じゃない。

僕にとって、セリエやユーカは売り物じゃない」


 ガルダがあきれたように首を振る。


「わからんな」

「わかんないだろうね」


 僕の感じ方は現代人のもので、ガルダの考えはガルフブルグのもの。

 分かりあえるはずもない。


「セリエ。下がって援護をたのむ。僕が負けたら……」


 僕が負けたら逃げろ、と言ってもよく考えれば意味がないと思ってやめた。

 セリエがユーカをおいて逃げることはありえない。ここは、絶対に負けられない。


「……ご主人様の勝利を信じています。

【彼の者の身にまとう鎧は金剛の如く、仇なす刃を退けるものなり。斯く成せ】」


 セリエが呪文を唱えると、僕の体に青い光がまとわりついた。


「あの時の恥をすすがせてもらうぞ。

【我が後ろに控えし従僕、盾を構え、主のもとへ参じよ】」


 ガルダの体には白い光が纏いつく。

 防御プロテクションの青い光とは違う。


「……耐魔法障壁カウンターマジックです」


防御プロテクションじゃないんだな?」


「君程度の剣が私に当たると思うのかね?

君の魔法はその妙な手槍を構えなくてはいけないようだからな。近接戦では脅威ではない。

私が警戒しているのはその後ろのけだものの魔法だけだ」


 ガルダが顔の前でサーベルを縦に構えて一振りする。

 速さなら絶対に僕の方が上のはずだ。魔獣と違って硬い鱗とかはない。防御プロテクションもかけてないなら、当たれば倒せる。自信を持て。


「さ、かかってきたまえ」



「行くぞ!」


 先手必勝。

 一歩踏み込んで銃剣を横に薙ぎ払う。一振り目をサーベルで受け流され、返す刃はバックステップでかわされた。

 ガルダの取り澄ました表情が少し変化する。


「なるほど、速いな。感心したよ」


 スピードなら僕の方が上だと思うけど当たらなかった。こっちとしてはちょっとショックだ。


「だが、やはり素人の太刀筋だ。今から本当の剣術というものを見せてやろう」


 攻守交替とばかりにガルダが踏み込んできて突きを繰り出してきた。

 動きは見える。落ち着いてサーベルの突きを銃身で払いのける。

 次はこっちの番と思った瞬間、切っ先が跳ね上がるようににして喉を狙ってきた。あわてて体を逸らしてかわすと、切っ先が再び沈む。避けきれない。

 まっすぐ突き出されたサーベルが、胸に突き刺さるのが見えた。


「うっ」


 血が噴き出すのが見えるようだったけど。

 尖ったもので押されたような感覚がして、青白い光を放つ防御プロテクションが切っ先を止めてくれた。

 慌てて手で胸を押さえるけど穴が開いたりはしていない。でも背筋が寒くなった。

 防弾チョッキの上から撃たれたような気分だ、そんな体験はしたことないけど。


防御プロテクションが無ければ早速死んでいたな、君」


 余裕綽々という顔でガルダがサーベルを構えなおす。

 三段突きって感じで刃先が変化してきた。なんとなくオリンピックとかで見たフェンシングみたいだ。


 サーベルは目で追えた。でも刃先の動きが全く読めなかった。見えていても躱せるわけじゃない。

 ここ2カ月ほどそれなりに真面目に練習してきたつもりだけど、今の一瞬で技術ではこいつの方が圧倒的に上ってことは分かった。

 アーロンさんから言われたことを思い出す。不利な戦いなら逃げろ。逃げるのは恥じゃない。だが、もし戦わざるを得なくなったら心を強く持て。弱気は死を招く、だっけ。

 逃げるわけにはいかない。奥歯を噛み締めて心を奮い立たせる。


「くらえ!」


 もう一度踏み込んで銃剣を振る。でも、軽々と捌かれた。スピードで勝っているのに凌がれるってことは、完全に僕の動きは読まれてる。剣で勝つのは無理っぽい。


「遅いぞ!」


 離れ際にサーベルが伸びてくる。剣道の小手のように手首を切られた。

 防御プロテクションがかかっているけど、切られるってのはやっぱり怖い。防御の光が少しづつ薄くなってくる。


「【黒の世界より来るものは、白き光で無に帰るものなり、斯く成せ】」


 後ろからセリエの詠唱が聞こえた。とっさに体を伏せる。

 横に長く伸びた白い光の帯が頭の上を通り過ぎる。帯のように伸びた光がガルダにぶち当たった。あれは流石にかわせないか。耐魔法障壁カウンターマジックの光が薄くなる。


「やってくれるな、けだものめ。

【我が後ろに控えし従僕、矢を番え、我が命を待て】」


 ガルダの周りに黒い矢のようなものが浮かび上がった。攻撃系の魔法も使えるのか、こいつ。魔法剣士か。


「放て!」


 黒い矢が次々と飛んでくる。

 ジャンプして避けたところに、矢が刺さって、壁や床に穴が開く。


「きゃうっ」


 後ろでセリエの悲鳴が上がった。振り返ると肩から血が流れて白いメイドドレスが赤く染まっているのが見えた。


「……大丈夫です、ご主人様!」


「よそ見をしている場合か!」

「この野郎!」


 突きが繰り出される。防御があるからあと1回か2回は攻撃を受けてもたぶん大丈夫のはずだ。

 頭を下げて踏み込み、銃身を縦に構えてタックルを食らわせるように押し込む。サーベルと銃身がかみ合って、つばぜり合いのような格好になった。ニヤニヤ笑いを浮かべる顔が間近に迫る。

 

「捨て身か?だがやはり甘いな」


 サーベルが滑るように動いて力点がずらされる。バランスが崩れたところをあっさりと突き放された。

 クソ強い。腹が立つが。口だけ偉そうな貴族様じゃなかった。


「力の差は分かっただろう。今ならまだ間に合うぞ」

「……お断りだ」


 もう一度銃剣を構えなおす。動きを読まれるな。攻撃するときも防御するときも同じ動きにならないように頭を使うんだ。

 剣で勝てないなら相手の虚を突くしかない。こいつは一つ僕について勘違いしている。そのワンチャンスを狙う。


「行くぞ!」

 

 もう一度、銃剣を横に薙ぎ払うが、サーベルで防がれる。カウンターの突きを体をひねって躱し、銃剣をまっすぐに突いた。

 一発目の突きはサイドステップでかわされる。それじゃだめだ。もう一回。

 二発目。ガルダがサーベルで受け止めてまっすぐ後ろへ下がる。

 それを待ってた!


「【貫け!魔弾の射手デア・フライシュッツ】」

「なに?」


 トリガーを引く。銃口が火を噴いた。

 後ろに下がるガルダを追うように弾が飛ぶ。耐魔法障壁カウンターマジックの白い光が一瞬輝き。光を突き破って黒い弾丸が肩に突き刺さった。



 弾をくらったガルダが大きく吹っ飛んだ。

 自分で言うのもなんだけど、結構威力はある。人に撃ったときは無いけど、普通の銃にも負けてないはずだ。肩に当たってるから死にはしないだろうけど。戦闘不能くらいにはなってほしい。

 見ていると、ガルダが上半身を起こした。

 

「こんな……バカな……何故だ……構えずになぜ魔法が……」

「……僕の魔法は構えなくても撃てるんだ。勘違いしたな」

 

 銃を構えるのはあくまで狙いをつけるため。魔弾の射手の発動イメージはあくまで引き金を引くことだ。後ろに下がるあの瞬間なら、構えなくても当てられる。気力も尽き掛けで、残弾数も残り少ない。一発勝負の博打だったけどうまくいって良かった。

 耐魔法障壁カウンターマジックがかかっているからか、致命傷とかではなかったらしい。ガルダが肩を押さえて膝立ちになる。赤い血がマントと床を染めていく。


「なんなんだ、その武器は……槍じゃないのか」


 そういえば、ガルフブルグには銃はないんだっけ。


「これは銃。僕の国の武器さ」

「信じられん……探索者風情にこの私が……」


 ガルダがサーベルを杖にして立ち上がろうとする。まだやる気なのか。

 顔の前に銃剣の切っ先を突きつけると流石に動きが止まった。


「……僕の勝ちだ」


 さすがにもう勝ち目はない。傷は深いはずだ。とても剣を振れる状態じゃないだろう。


「もう一度言う。別に僕はあんたを殺したいわけじゃない。ラクシャス家に恨みもない。

ユーカを返してくれ」


 ガルダが苦々しげに僕を睨みうつむく。諦めたか、と思ったが。突然大声を張り上げた。


「オルミナ!どこに居る!仕事を忘れたのか!」

「黙れ!」


 この状況でなぜここまでやるのか分からん。貴族のプライドなのかなんなのか。


「オルミナ!」

「黙れって言ってんだろうが!」


 いま来られるとややこしいことになる。

 一瞬躊躇したけど、銃床でガルダの顔を殴った。体が吹っ飛び静かになる。

 倒れた姿をみると流石に後味の悪さが湧き上がってくる。敵とはいっても無抵抗の相手を殴るのは気分がいいもんじゃない。


 とそのとき。


「はいはい。あたしはここに居るわよ」


 唐突にオルミナの声が聞こえた。

 近くに居たのか?……ていうか、なぜ今さら出てくるんだ。





相変わらずの不定期更新で申し訳ないです。

いわゆる鬱展開にはなりません。

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