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副都心線を歩いて新宿三丁目へ向かう。

 今一つ寝れなかった夜が明けて翌日。

 ガルフブルグに帰るというアーロンさん達をスクランブル交差点のゲートで見送った。3人とも前のように簡易な旅支度をしている。


「本当にユーカちゃんを戦わせる気か?」

「……僕も気が進まないところもあるんですが。でも本人が行く気満々ですし」


 ユーカが横でうなづく。

 アーロンさんは心配そうだ。正直僕も大いに不安だけど、今更撤回はできない。


「で、どうやってシンジュクに行くんだ?俺たちも一度行ったが、かなり魔獣とぶつかるぞ。

ハラジュクに封緘シールが出来たからあの時よりは状況はマシだと思うが」

「地下から行くつもりです」


 僕は答える。

 地上が危険なら地下から行ってみよう。


「地下、とは?」

「ここには地下を走る乗り物があったんです。そのための道をいこうかと思います」


「道はお分かりになるので?」


 セリエが不安げに口をはさんできた。


「路線図がわかるからね、渋谷から新宿までは地下鉄がつながってる。

道に関しては管理者アドミニストレーター階層地図フロアマップ表示インデイケイションで何とかなると思う」


 地図が無くても、地下鉄は基本一本道だし、線路をたどれば何とかいけるだろう。

 でも当たり前だけど、地下鉄の線路を歩いたことなんてないわけで。地図があればより安心だ。


「地下鉄とはなんですか?」

「地下のトンネルを走る乗り物。車みたいなもんだね」


 セリエもアーロンさんも首をかしげている。


「この世界では迷宮を地下の移動手段にしていたのか?」

「いや、そうじゃなくて。人間が掘ったんです」


「わからんな。この世界の人間はドワーフのような能力をもっていたのか?」


 ……説明するのが面倒になってきた。

 文明レベルが違う相手に現代日本のテクノロジーを解説するのはなかなか難儀だ


「機械を使って地下を掘ることができたんです。

僕が管理者アドミニストレーターで動かしているあの車も機械です」

「魔道具のようなものか?」


 魔道具ってのは今度はこっちが分からないけど、ここで聞き返すとますます話しが迷走しそうだ。

 とりあえず、魔法で動く道具と解釈することにした。


「まあそんなところです」

「なるほどな。あの階段の下はそんなものがあったのか。

そういうルートを思いつくのはお前だけだよな」


 アーロンさんが感心したように言う。

 まあ、そりゃそうだ。この世界のことを知っているのは僕だけだし。


「まあいい。とにかく気をつけろよ。お前の強さは認めるが経験の浅さだけが心配だ。

魔獣を侮るな。思いがけない攻撃をしてくる相手もいる。

戦いになるなら気を強く持て。だが本当に危険を感じたら逃げろ。逃げることは恥じゃないぞ」

「ユーカちゃん、気を付けてね。スミトさん、セリエさんご無事で」


 アーロンさんとレインさんがゲートの方に歩いていく。


「スミト、気をつけろよ」


 一人残ったリチャードが僕に低い声で注意してくれる。いつもはあまり見ないまじめな顔だ。


「わかってるよ」

「……アーロンの旦那はあまり疑ってねぇが。

こういう大事な仕事がある時期に突然ガルフブルグから呼ばれるってのはタイミング的におかしいんだ。魔獣以外にも邪魔が入るかもしれねぇ。用心しろよ」


「ありがとう」

「いいってことよ。じゃあまたな」


 リチャードがいつもの人懐っこい笑みを浮かべて手を振りゲートの方に歩いて行った。



 渋谷から新宿に行くための地下鉄路線は二つ。

 半蔵門線で青山一丁目まで行って、その後大江戸線に乗り換えるコース。

 もう一つは副都心線で新宿三丁目まで言って、新宿線に乗り換えて新宿まで行くコース。


 今回の仕事は今後街道として利用される鉄道の結節点を確保することだ。

 理想的にはJR新宿駅の上のビルのどこかに封緘シールを設置できるのがいい。

 一気に行けるかは分からないけど、やれるところまでやってみよう。


 新しい仕事に当たって、着たきり雀だったスーツは捨てて、ブランドショップから薄手の黒のロングコートとストライプのスーツを拝借した。

 普通だったら買えない価格だけど、もらってきても咎める人はいない。


 靴だけは動きやすいようにアウトドア系の歩きやすい革靴だ。スーツに合わせてなるべくシックなのをもらってきた。

 ファンタジーな鎧をつけるのもいいけど、現代日本人としてはなんかこういう格好の方が落ちつく。

 流石にネクタイは締めてないけど。


「ご主人様、とてもお似合いです」

「かっこいいよ、お兄ちゃん」


 セリエはいつも通りのタイトな黒のシャツとロングスカートに白のエプロンのメイド衣装風だ。


「動きにくくない?」

「いえ、大丈夫です。このようになってますから」


 セリエがスカートを揺らす。

 ロングスカートにスリットが入っているようで、白いニーソックスに包まれた足がちらりと見えた。どことなくチャイナドレスっぽい。

 見た目は同じでも探索用ってことか。

 

 ユーカはハーフパンツに厚手の頑丈な布で作ったワンピースのようなものを着て、腰にベルトを締めている。活動的な女の子って感じだ。


「おはよう、スミト」


 約束通り、オルミナさんがスクランブル交差点に現れた。

 黒のボンテージ風味のタイトな革の胴鎧で、むき出しの肩を丈の短いマントのようなもので隠していた。

 腕には編み上げの長手袋のようなものをつけている。大胆にスリットを入れた皮のスカートも合わせて全部黒。スリットや肩口の透けるような白い肌が映えている。


 あらためて見ると胸がやっぱスゴイ。長い金髪は編み上げて布でまとめている。白いうなじがきれいだ。

 色気を発散させる大人の女性って感じだ。

 オルミナさんが僕の格好を頭からつま先までじっくりみる。


「あら、スミト、あなたも放浪願望者ワンダラーなの?」

「なんですか、それ?」


 聞いたこともない言葉だ。


「最近ガルフブルグに行ってないの?」


 オルミナさんが不思議そうに聞いてくる。


「僕らはここのところずっとこっちにいるんですよ」


 生まれてから一度もガルフブルグにはいったことがないんだけどね。


「なら知らないかもね。

ゲートのこっち側、つまりこの塔の廃墟にあこがれてる連中のことよ。

此方の世界から持ち込まれた服を着て、化粧をして、カレーやパスタを食べる、そんなのね」


 なんじゃそりゃ。異世界に居る異世界文化カブレってやつか

 ……言ってて意味が分からなくなってきた。


「最近ガルフブルグじゃ貴族の子弟様を中心にはやってるのよ。

そんな格好してるのもいるわ。でもスミトの着こなしのほうが締まってていいわね」

「そりゃどうも」


 オルミナさんが大人っぽく笑いながら肩に触れる

 スーツは毎日着ていたからそういわれるのかもしれない。

 服というのは、着続けると体になじんでくるというか、似合うようになってくるものらしいし。


「ご主人様、そろそろまいりましょう」


 ちょっと怒ったような口調でセリエが促す。

 さて、行こうか。



 地下鉄の入り口を降りると、渋谷駅前の地下一階の広いスペースには封緘シールの魔法陣が引かれていた。

 アーロンさんによると、地下の捜索はほとんど進んでいないらしい。


 これは、そもそもあまり実入りがなかったことが大きな理由なのだそうだ。

 確かに地下深くまで潜っても、地下鉄のホームくらいしかないし、そこで売れそうなものはせいぜい売店の品物か自販機の中身程度。リスクを冒す価値はないだろう。


 それと、御多分に漏れず、ガルフブルグでも地下迷宮ってやつは魔獣の巣窟になっているそうで、地下に潜るのはかなりの覚悟がいる。

 そんなわけで、渋谷近郊の地下鉄区域は、浅い階の探索後は封緘シールが施されて、あとは放置されているわけだ。


 ただ、僕の推測だけど、地下にはあまり魔獣は出てない気がする。

 東京の地下は網の目のように地下鉄が走っている。

 そんな地下にゲートが開いて強力な魔獣が出たらもっと大事になるはずなのだ。例えば地面に穴が開ているとか、そんな風な。

 しかし、車で渋谷あたりを走り回った感じ、そういうのは一切なかった。なら、大物は出ないんじゃないだろうか。

 まあ地下深すぎて表に出てない、ということもあり得るのだけど。大江戸線とかはシェルター並みに深いところにあるので確実ではない。


 ただ、地上から行こうが、地下から行こうがリスクはある。なら自分の推測に賭けてみるのもいいだろう。 

 無理っぽければ早々に撤退して、地上から行くルートを考えよう。


 ホームセンターからくすねてきたマグライトと、コアクリスタルをエネルギー源とするランプを掲げて、暗い階段を下りる。

 今回は副都心線を使うルートで行くことにした。足を滑らせないように用心深く周りを照らしながら地下に降りる。


 エスカレーターは動いていない。管理者アドミニストレーターをつかえば動かせるのかもしれないけど、ここで消耗するのもバカバカしい。

 暗闇の中階段を下り、人気のないホームにたどりつく。

 ホームドアを乗り越えて線路におりた。

 地下水がしみてきているのか、水たまりができている。


管理者アドミニストレーター起動オン階層地図フロアマップ表示インデイケイション


 長い地下鉄の線路の地図が目の前に浮かんだ。

 地下鉄を使えば10分足らずの距離だけど、さて果たしてどうなることやら。





引き続き不定期更新になりそうです。

申し訳ない。

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