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サヴォア家の旧領を訪問する・中

おはようございます。

朝更新です。

 式が終わったら、バスキア公とルノアール公はすぐに帰っていってしまった。

 国のトップだから忙しいんだろう。


 その後はパーティになった。立食形式で割と気軽な感じだ。

 テーブルには豪華な料理が並んでいる。パレアの料理とはちょっと違っていて、派手さは無い素朴な感じの料理だな。


「スミト殿、スズ殿」


 乾杯が終わってワインを飲んでいたら声を掛けてきたのはヴァレンさんとシェイラさんだった。

 ユーカとセリエも後ろに控えている。


「今日のこの日を迎えられたのは……何もかも君たちのおかげだ。改めて礼を言わせてほしい」

「ありがとうございます、スミトさん、スズさん」


 二人が頭を下げてくれた。


「我らはこの恩を忘れることはない……ただ」

「我が家は貴方たちに十分な俸禄や地位を与えることはできません。恥ずかしいことですが……貴方達なら四大公家のどこでも望む待遇で迎えられるでしょう」


 そう言って、シェイラさんが口ごもった。


「……ですから、もっと良い仕官先があれば」

「今はそういう話は止めましょうよ」


 都笠さんを顔を見合わせて答える。

 セリエはいつも通り表情を崩さないけど、シェイラさんの後ろではユーカがものすごく不安げな目で僕等を見ていた。



 パーティには近隣の村とかを管理する役人の人も来ているようで、結構にぎやかだ。

 シェイラさんとユーカ、セリエたちはその人と話をしているから、今は都笠さんと二人で食事している。

 最初は僕等も挨拶周りに付き合わされていたけど、ようやく落ち着いて食事ができる。


 都笠さんは今日はシェイラさんと同じ感じの、男性的なガルフブルグの礼装を着ている。

 完全にファンタジー風になってるな。


 とは言え、パレアではいわゆる日本の洋服を着ている人も結構見かけるけど、こっちにはそう言うのは1人もいない。

 ジャケットを着ている僕の方が浮いているな。周りから見られている気がする。


「どうぞ」


 セリエと似た感じの白黒のエプロンドレスを着たメイドさんがカットしたパイのようなものを皿にに乗せてくれた。

 ジャガイモっぽいのと茄子っぽい野菜、トマトのような酸味のあるミートソースとホワイトソース、それに表面を焦がしたパン粉をかさねたミルフィーユのような料理だ。手間がかかってるな。


 イモはしっとりと柔らかく、茄子にはソースの味がしみ込んでいる。焦がしたパン粉とチーズが香ばしい。

 ちょっと味が濃い目だけどボリューム満点で食べ応えがある。

 

「こっちも美味しいわよ、風戸君」


 そう言って都笠さんが皿を指さす。

 鶏肉を焼いたのに、これまた焼いたリンゴが添えられている。前にユーカがサヴォア家の領地はリンゴが名物だって言ってた気がする。

 柔らかい甘みと酸味のある焼きリンゴとちょっと濃い目の塩味の鶏肉が上手く合っていた。

 

「カザマスミト様にツカサスズ様。一言ご挨拶をよろしいでしょうか」


 焼きリンゴをかじっていたら、誰かが声を掛けてきた。

 


 振り向いてみると、エマヌエルさんだった。

 ワイングラスを片手に持っていて、酒が入ってるのか顔は既にちょっと赤い。


「改めて、名高き龍殺しのお二人に会えて光栄です」

「こちらこそ」

 

 エマヌエルさんとガルフブルグの儀礼で乾杯をする。


 エマヌエルさんの後ろには同じような正装に身を固めた男が控えていた。

 20歳少し過ぎって感じで僕より少し下だろうか。さっきの式の時にもいたな。

 こっちは背筋がしゃんと伸びて、がっしりとした鍛えあげた体格だ。恐らくスロット持ち。戦士系っぽい。


 顔立ちや髪の色が似ているから息子さんだろうという気がする。

 実直そうというか純朴そうな雰囲気で、緊張したように唇を引き結んでいた。


「なんというか、今回のことは申し訳ないですね。すみません」


 結果としてはこの人を今の領地から押し出す形になったわけで。

 そこはやっぱり申し訳ない気がする。


「いえいえ、バスキア大公のご下命ですし、それに先の戦での活躍はお聞きしておりますぞ。

疾風のような速さで、たった4人で塔の廃墟を強襲。司教憲兵アフィツィエル共を次々と薙ぎ倒しオルドネス公をお救いしたとか。

我が国の英雄のためならこの程度なんということはありません」


 エマヌエルさんが言う。

 なんか誇張されてる気がしなくもないけど、まあいいか。


「それにですな……新領は王陛下の直轄地を頂けることになりましたのでね。何の文句もありませんよ」  

 

 役得って感じでエマヌエルさんが笑みを浮かべる。

 この辺は僕にはよくわからないけど、ここよりも王様も直轄領の方が格上なんだろう。


 バスキア公が教えてくれたけど、なんでも王様が王家の直轄領から譲ることを強く主張したらしい。

 だからこの話もトントン拍子にまとまったんだそうだ……サヴォア家への詫びのつもりなのかもな、となんとなく思う。


「ところで、よろしければ息子を紹介させていただきたい」


 エマヌエルさんが言うと、後ろにいた男の人がすっと進み出てきて一礼してくれた。


「お初お目にかかります。龍殺し、カザマスミト様、雷鳴の戦乙女ヴァルキュリオ・ド・トゥネル、ツカサスズ様。

ロシュフォード家嫡男、バティストと申します」


 彼が畏まった口調で言う。都笠さんが微妙な顔をした。


「その名前……やめてくれません?」

「これは王がツカサスズ様に与えられた称号です。それを付けぬは不敬に当たります」


 この二つ名は王様が作ったのか……多分悪気はないんだろう。

 この人にも悪気はなさそうだ。生真面目って感じの顔には緊張した表情が浮かんでいる。

 しかし、改めて比較すると、竜殺しは結構マシな二つ名な気がするな。

 

「まあ……わかりました。よろしくおねがいします」

 

 都笠さんが答える。

 彼が真剣な顔で都笠さんを見つめて、意を決したように跪いた。


「あの……何してるんです?」

「貴方の果敢な戦いぶりと美しさを尊敬しております、ツカサスズ様。

分を弁えぬことを百も承知で申し上げます……貴方をぜひ私の妻にお迎えしたい」



 場がざわついて全員の視線がこっちに集まった。

 都笠さんが周りを見回して、跪いているバティストさんを見下ろす。


「あー、あたしはですね……貴族の妻として家を守るってタイプじゃないんですよ」

「無論です。貴方を家に押し込めるなど、とんでもない。そのようなことをしたらバスキア公にお叱りを受けます」


 見た目そのままのかしこまった口調でバティストさんが言う。


「私は龍殺し殿には及びませんが、スロット能力はあり、戦働きも出来ます。

先日のソヴェンスキとの戦いにも参陣いたしました。遠目ではありますが、お姿も拝見いたしております」

「ああ……そうなんですね」


 あの戦いに参加していたのか。

 バスキア公旗下のスロット持ちならいても不思議じゃないな。


「私が貴方の背中をお守りします……是非、私の背中を守っていただきたい」

「息子は聖騎士……治癒ヒーリングを使える剣士です。貴方の横に立つものとして不足はないかと思います」


 エマヌエルさんが言う。どうやら結構真剣な話らしい。

 都笠さんが困った顔で僕を見るけど……僕を見られてもどうしようもないぞ。






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