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戦いの幕切れ・上

 こんばんわの夜更新です。

「クソ野郎だったけど……まあ、あんまりいい気はしないわね」


 都笠さんが静かに言った……気持ちは分かる。

 こっちを振り返って都笠さんがため息を一つついた


「手を出さないでいてくれてありがとね、風戸君……不利なのはわかってたけど、あたしの手でケリを付けたかったからさ」

「よかったよ……よく当てれたね」

 

 正直言うと僕でも目で追うのがやっとだったくらい速かった。

 右に飛ぶのが分かってたんだろうか。


「あいつにソヴェンスキに連れていかれた時に、何度か司教憲兵アフィツエルと戦わされたのよね……酔っぱらってたみたいに記憶がはっきりしないところもあるんだけど」


 都笠さんがそう言いながらショットガンを兵器工廠アーセナルに仕舞う。


「あいつはいつも一歩目は右にステップして踏み込んできた……あれが一番自信がある動きなんでしょうね。

でも本当に……当たって良かったわ」


 都笠さんの声が震えていた。当たり前か。

 あの速さだ。完璧なタイミングだったけど、わずかでもタイミングがズレれば外される可能性はあった。

 そもそも左に飛ぶこともありえただろうし。


 とりあえず周りに敵はいなくなったし、いつの間には向こうから聞こえていた戦いの音も聞こえない。

 レオニダードの遺体から紋章らしきものの刻まれた首飾りを拾う。形見くらいにはなるだろう。

 アンドレアの方に目をやるけど、ヴェロニカが倒されたので完全に諦めたらしく俯いていた。

 

 向こうはどうなったんだろうと思ったけど……通路を塞いでいる瓦礫の山の方に行こうとしたら、足音がして傷だらけのアーロンさん達が姿を現した。



 盾を構えたアーロンさんが僕を見て安心したように息を吐いた。

 リチャードやアフレイトさん達、それにその後ろには大剣を握ったジェレミー公とフェイリンさん、それにラティナさんの姿も見える。


「スミト……大丈夫か?」

「そっちこそ大丈夫ですか?」


「あまり大丈夫じゃないから、出来ればセリエに治癒をお願いしたい」


 アーロンさんだけじゃなく、アフレイトさんとサンドラさんもあちこちに切り傷があって鎧や服が真っ赤に染まっている。 

 レインさんも魔力の使い過ぎなのか疲れ切ったって感じの表情だ。


「そっちはどうですか?」

司教憲兵アフィツエルは少なくとも目に付いた奴は全員倒した……危ない所だったが、ジェレミー公に助けられたよ」


 そう言ってアーロンさんがジェレミー公の方を向く。


「こちらこそ助かったよ」

「数が減ったからこそ、こちらからも仕掛けられたのですからねぇ」


 フェイリンさんが相変わらず緊張感がないほんわか口調で言うけど、フェイリンさんもあちこち傷だらけだ。

 どうやら上からも打って出たらしい。結果的には挟み撃ちになったわけか。


「助かったよ、竜殺し。おそらく君が来なければ……あと数時間も持たなかっただろう」

「アリガトウ、スミトさん。あの放送、気分がアガったヨ」

 

 ラティナさんが手を振ってくれる。


「オルドネス大公もブレーメン様もご無事だ。この速さでくるとは、一体どういう魔法を使ったのかわからんが……感謝する」


 ジェレミー公がしみじみとした口調で言う。


「竜殺し殿。私は3人、サンドラは2人……奴らを討ち取りました」


 傷だらけのアフレイトさんが言う。


「店主にその旨、確かにお伝え頂きたいと思います」

「わかりました。責任もって」


 そう言うと二人が顔を見合わせて笑った。

 


「ご主人様……一つお聞きしてよろしいでしょうか」


 一通り皆に治癒ヒーリングをかけ終わった後にセリエが真剣な口調で僕に声を掛けてきた。


「あの女に刺されるのは……」

「覚悟してた。流石に無傷で勝てるとは思ってたなかったからね」


 速度で負けている相手を倒すなら、動きをどうにか止めるしかない。

 後ろに回復を担ってくれるセリエがいたからこそやれたやり方だった。

 

 今から思うと最後にあいつの攻撃がゆっくり見えた気がする。だから、恐らく辛うじて急所だけは避けられた

 あれがうわさに聞く走馬灯とかいうやつかどうなのか。


「まあ、セリエが治癒ヒーリングを使えるから……」

「二度と……あのようなことはされないでください」


 セリエが硬い口調で僕の言葉を遮った。


治癒ヒーリングは万能ではありません。急所を刺されれば私ではお助けできません」


  セリエが真剣な顔で僕を見上げる。


「ご主人様が亡くなられたら私も後を追います」

「それは……全然意味が無いと思うけど」


「私はご主人様にお仕えする者です。どこまでもお供します……どこであろうとも」


 セリエが有無を言わさぬという口調で言った。

 唇が噛みしめられて、栗色の目に涙がにじんでいるのが見える。


「……もし私の身をお案じ下さるなら……」

「分かってる。言いたいことは分かってる……心配かけたね」

 

 命を捨ててでも戦う、というのは自分勝手な考えだ。それは身をもって知っている。

 セリエがちょっと横を向いて涙をぬぐった。


 軽く抱き寄せてあげると、甘えるように体を摺り寄せてくる。柔らかい体に触れると高ぶった気持ちが落ち着く。

 ようやく戦いが終わったって気分になった。



 ビルの外に出てみたらアルドさん達が出迎えてくれた。

 アフレイトさんとサンドラさんがアルドさんと何か言葉を交わして握手をしている。


 外には司教憲兵アフィツエルは殆どいなかったらしい。周りにいる探索者達もさほど傷を負った様子は無い。

 スクランブル交差点にいた一般兵は降伏していた。さすがに一般兵は司教憲兵アフィツエルほど狂信的じゃないらしいな。


 門の向こうがどうなっているのか気になったけど、ラポルテ村側にはまだ兵士たちがいる可能性がある。

 安易に向こうに行くわけにもいかない。


 とりあえず警戒していたけど、次の日の昼頃、門が反応した。

 見張っている全員に緊張感が走ったけど、門から出てきたはガルフブルグの旗を掲げた兵士だった。


 兵士が僕らを見て安堵したように一礼する。

 その後ろから、巨大な斧槍ハルバードを携えた壮年の騎士、バスキア公の近衛のナンバー2であるヴァラハドさんが門を抜けて出てきた。

 僕を見て引き締まった厳しい顔に笑みを浮かべる。


「無事に勤めを果たしたようだな……流石だ、竜殺しよ」

「そっちはどうなったんですか?」


「ラポルテ村は奪還した。ソヴェンスキの兵士たちは降伏したよ。こっちはどうだ?オルドネス公は?」

「無事です……ただかなり犠牲も出ましたけど」


 渋谷にいた探索者やオルドネス公旗下の兵士たちにはかなりの数の死者が出ている。


「そうか……では、これで終わりだな」


 素っ気ない口調でヴァラハドさんが言う。

 戦いなんだから犠牲はあって当然ってことなんだろうけど……必要以上に嘆いてもどうにもできないってことなんだろうという気がした。


◆ 


 ……その後は比較的あっさりと片が付いた。

 塔の廃墟の制圧の失敗はすぐにバスキア公に伝えられた。


 奇襲で党の廃墟を制圧し、4大公の一人オルドネス公を人質にする目論見が外れたからなのか、ソヴェンスキ軍は数日後に撤退したらしい。

 北の国境を侵したイーレルギアとやらの軍勢も、ダナエ姫の旗下の騎士たちの抗戦を破れないうちにバスキア公が派遣した援軍が合流。

 ソヴェンスキの撤退と歩調を合わせるように撤退して、戦いは終わった。



 書いていたら長くなったので分けました。

 連投はあと一話。

 

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