決着をつけるということ
今日は夜更新。
場面転換の関係でかなり短めです
都笠さんの後ろにはユーカもいた。無事だったのか。
「燃えちゃえ!」
ユーカが叫んでフランベルジュを振りぬく。赤い炎の塊が飛んだけど、ヴェロニカが軽やかに下がって躱した。
炎の塊が床で弾けて熱い空気が吹き付けてくる。
ヴェロニカが都笠さん達とこっちを見る。
都笠さんがユーカに何か囁くと、ユーカがフランベルジュを下ろして一歩下がった。
「解放」
長いショットガンを兵器工廠から取り出して、都笠さんがヴェロニカに向かい合う様に立つ。
「不意打ちとは卑劣ですね」
「アンタがそれを言うわけ?」
都笠さんが吐き捨てるように言った。
「それに、あたしの世界じゃテロリストには威嚇射撃はしないのよ」
都笠さんがそう言ってショットガンを構える。ヴェロニカが剣を構えて都笠さんと向かい合った。
正直言って助かった……ほぼ体力も魔力も限界だ。まだ終わってないんだけど、少し気が抜ける。
「あんたはあたしが倒す」
「……その塔の廃墟の雷鳴の弩は、狙いをつけて引き金を引き、矢弾が放たれるまでに間があります。
その点では普通の弩と変わりありません」
都笠さんが凄みのある口調で言って、ヴェロニカが静かに応じた。
ソヴェンスキにいる間に銃の分析をしたんだろうか。
「残念ですがその弩は私には当たりません……死にますよ」
淡々とした口調でヴェロニカが言う。
都笠さんが全く動じる様子も無くヴェロニカを睨み返した。
二人の間には10歩ほどの距離がある。この距離なら当然銃の距離圏内だ。
ただ、速さだとヴェロニカの方がかなり上のはず。ヴェロニカならこの距離を簡単に詰めてしまうだろう。
助太刀したいけど、都笠さんが邪魔するなと言わんばかりに僕を横目で見た。
サンシャインの時に起きたことを言っていたことを思い出す。あの時の借りを返すと言っていたあの目だ。
向こうから聞こえる戦いの音がはるか遠くのように感じる。
セリエが横で息を呑んで二人を見ていた。
二人の間に張りつめた空気が漂った。離れた僕のところまで刺すような緊張感が伝わってくる。
両方とも全く動かない。
ハンドガンなら兎も角、重くて小回りの利かないショットガンじゃあいつの動きにはついていけないだろう……初弾が全てだ。
スピードの差を考えれば……初弾を躱されたらおそらく都笠さんは勝てない。
手を貸すべきなのは分かっている。
都笠さんだって一騎打ちが不利なのも分かってるはずだ。
でも、そう言う理屈じゃなく、手出ししてはいけない時があるのは何度も戦っていると肌で感じる。
ただ、目の前で都笠さんを殺されるわけにはいかない。
体力的には限界が近いけど、いつでも割り込めるように銃身を握って気力を奮い立たせる。
恐ろしく長く感じた間が過ぎて……前触れなくヴェロニカが動いた。
目にも止まらない速さで踏み込みながら右にサイドステップする。
同時に銃声が響いて、動きを読み切ったようにショットガンの弾丸がヴェロニカに突き刺さった。
◆
ヴェロニカがよろめいた。驚いたように都笠さんを見る。
「なぜ……」
「そう、あんたは……いつも最初は右に飛ぶ。いつも」
追撃のように立て続けに銃声が響いて、散弾を受けたヴェロニカが後退した。
血が噴き出して白い鎧を赤く汚す。あいつの加護でもショットガンの連射を食らえば持たないか。
「同じ手はもう食わない」
ヴェロニカがもう一度踏み込もうとするけど、それを制するようにもう一発、銃声が轟いた。
ヴェロニカがカーテンを掛けられた壁際まで吹き飛ぶ。
「あんただけは許さない」
ガラスが割れる音がして、もう2発散弾を撃ち込まれたヴェロニカの体がカーテンの向こうに消えた。
◆
小さな悲鳴が上がって、鈍い何かが潰れるような音がした。
ガラスに空いた穴から風が吹き込んできてカーテンが舞う。都笠さんが窓の外を見下ろして息を吐いた。
何かを呟いて都笠さんが胸に手を当てる。
セリエが大きく息を吐いて、ユーカが都笠さんの方に駆け寄る。
……いつの間にか戦いの音はやんでいた。
あと1話で連投は終わりますが、続きは書き始めているのでさほど間を置かず投稿します。本章の締めまで一気に行く予定。
今年中に完結までいくつもりです。引き続き応援いただけると幸いです。