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戦うしかないのなら・下

 おはようございます。

 朝更新していきます。

 レオニダートを見る。

 防御プロテクションのものっぽい光が体を薄く覆っている。


 牽制するように突き出された剣と銃剣がぶつかって金属音を立てた。

 少し遅く見える感覚。僕の方がスロット武器の性能は上っぽいな。

 

「では行くぞ!」


 レオニダートが剣を振り下ろしてくる。躱したところで、追いかけるように切っ先が追いかけてきた。

 見切れないほどじゃないけど、切り返しが鋭い。


 突きが混ざった立て続けの斬撃を受け止める。切っ先が体を掠めて防御プロテクションの光が薄くなった。 

 斬撃の切れ間がない。守勢でいたら押しつぶされる。


 飛んできた突きを強めに弾いて銃剣を突き出す。

 レオニダートの剣がそれを払いのけた。こっちの方が速いはずだけど、反応が速い。


「速いが……若いな。カザマスミト」


 またレオニダートの突きが伸びてくる。払って突き返すけど、絡みつくよう動いた長剣が銃剣を逸らした。

 長剣がこっちを向く。ヤバい。

 考えるより早く体が動いた。体を逸らす。


 切っ先が今まで喉があったところを貫く。

 刃が僅かに右に動くのが見えた。ひざを折って体を低くする。横凪ぎにされた剣が虚空を切り裂くのが見えた。

 硬い床を転がると瓦礫が棘のようにスーツ越しに刺さってきた。


 体を起こして銃剣を構え直す。

 こっちの方がスロット武器の分速かったから切り返しがかろうじて見えたけど、同じくらいの速さだったら躱せなかった。

 

「行くぞ!」


 気合を入れて心の中の怖さを振り払う。

 突きをもう一度繰り出すけど、こっちの動きを読み切っているように長剣の切っ先が絡みつくように動いた。

 また突き返される。とっさに銃剣を引いた。銃剣と剣が触れ合って金属音が響く。


 さっきのも反応された……突きは見切られてるんだろうか。

 銃を振り回そうとするけど、牽制するかのように切っ先が動いた……多分こっちが銃を振り回すより、あいつの突きの方が速い。モーションが大きい振り回しは出来ない。


 レオニダートが間を取るように一歩下がった。ようやく一息つける。

 改めてレオニダートを観察する。


 恐ろしく守りが固い。手を出すと待ってましたとばかりに切り返しの突きが飛んでくる。

 かといって攻めないと主導権を握られる。

 

 今までいろんな相手と剣を交えたけど、アーロンさんもジェラールさんも太刀筋は直線的で力強い、いわば剛の剣だ。

 だけどこの人のは違う。柔らかくこっちの切り込みを受け流して突き返してくる。


 しかも恐ろしく精度が高い。突きが喉や心臓とかの急所を狙ってくる。

 スロット武器の性能はともかく、純粋な剣技ならこの人が一番の使い手だ。


 なんとかアンドレアに魔法を刺してやれればと思ったけど、下がって魔法を打とうとしても、こっちの動きを察するように踏み込んで突いてくる。

 とてもじゃないけど構えて詠唱する隙はない。


「何をしているのだ。怠惰を神はお赦しにならんぞ」 


 アンドレアが言って、押されるようにレオニダードが踏み込んできた。こっちも踏み込む。

 

 銃身と刀身がかみ合って鍔迫り合いのようになった。

 でも、こっちの方が速いし相手の方が技術は上だ。動きは止めない。

 両手で銃身を押すとレオニダートが軽やかに下がった。


 離れ際、こっちが突くより早くレオニダートの剣が振られる。

 仕切り直して息を突く暇もない。こっちの少しの気のゆるみも察するように突きが飛んでくる。


 下がりたくなるけど下がっちゃだめだ。

 気合を入れて突き返すけど、また長剣が絡むように動いて突きを逸らした。


「なかなかいいではないか、背教者よ。さあ、やるべきことを果たせ。妻と娘のためにな」


 アンドレアがまた後ろから言う。

 煽るような口調にレオニダードが不快気に顔をしかめて踏み込んできた。


 突きが銃剣を躱して切っ先が伸びて来た。とっさに体を捻る。肩口に刺さった。とがったもので押される感覚がして防御プロテクションの光が薄れた。

 もうあと耐えられて一発くらいだろうか。


「……気は変わらないか?」


 レオニダードが囁くような口調で言う。


 技で劣っていても、僕の方が弱くても、勝敗はそれだけでは決まらない。

 有利なところで勝負する。速さなら僕の方が上だ。

 

 銃剣を槍のように構える。短く一歩踏み出して突きを出した。

 待ってましたとばかりにレオニダードの剣が絡むように動くけど、構わずそのまま踏み込む。


「何?」

 

 レオニダードの突き返しが腹に刺さって防御プロテクションの光が消えた。

 同時にこっちの突きがレオニダードの肩に突き刺さる。姿勢が僅かに崩れた。相打ちで十分。 


 勢いそのままに連続して突きを繰り出す。速さと手数でで押し切ってやる。

 戦いは波のようなもの。下がったら押し流される。そして押せるときは一気に押しつぶす。

 銃剣がレオニダードの受けをくぐって、肩と腕に一回づつ刺さった。防御プロテクションの光が切っ先を弾く。

  

「くっ!速い!」


 銃剣の切っ先がもう一度レオニダードに突き刺さる。防御プロテクションの光が消えた。硬い鎧を貫く手ごたえが伝わってきた。

 けど浅い。致命傷じゃない。顔をゆがめてレオニダートがゆっくりと体を捻る。


 引き金に指を掛けた時にこれを引くことの結果が頭をよぎった。

 でも次のチャンスがあるかは分からない。躊躇すれば……負けるのはこっちだ。


「貫け!魔弾の射手デア・フライシュッツ!」


 詠唱して引き金を引く。ゼロ距離で黒い弾丸がを受けてレオニダートが吹っ飛んだ。



 レオニダートが床に転がった。苦し気な声があがる。血が吹き出して床が赤く染まる。

 防御プロテクション無しの状態で魔弾の射手の近距離射撃を胸に受けた……致命傷だろう。


「……すみません」

  

 ……どうにか助けたかったけど無理だった。そんなことをする余裕はなかった。それをするには強すぎた。

 レオニダートが僅かに起き上がろうとしたけど、またその体が床に倒れた。


「結局傷一つ負わせられないとは、無能め……信心を持たぬから何も成し遂げられぬのだ」

 

 アンドレアがレオニダードを見下ろしながら言う。


「不信心の報いはお前の妻と娘が負うことになる。確かなかなかの器量だったな」


 薄ら笑いを浮かべてアンドレアが言って、もう一度体を起こそうとしたレオニダードが力尽きたように倒れた。


「重い罰になるだろう。罰は私自らが……」

「助けます!必ず!」


 この戦いに負けるわけにはいかなかった。僕にも大事なものはある。

 これが偽善なのも分かっている。だけどやれることはあるはずだ。


「恩は忘れてない!名前を教えてください!」


 レオニダートが体を起こして僕を見た。


「……アンナ……娘はクリステルだ」

「分かりました、必ず!」


 絞り出すようにレオニダートが言って、崩れるように倒れる。

 床に転がったままのレオニダードのロングソードが溶けるように消えた。



「なんだ?この男の妻と子を助けるとか……そんなことをするつもりなのか?」


 小ばかにするような口調でアンドレアが言った。


「自分で殺しておきながら、善行きどりか?いい気なものだな、カザマスミト」

「そのくらいは分かってるさ」


「今戦った敵のためになにかするとは……信仰を持たぬ者の考えは理解できんよ」

「お前みたいなゲス野郎には永久に分からない。分かってもらいたくもない」


 アンドレアが双剣を構えて僕を見た。


防御プロテクションは消えたな。この背教者にも少しは価値があったか。

一応教えておいてやる。私には加護ブレッシングが掛かっている。君は裸同然だが、私は違うというわけだ」


 アンドレアが勿体ぶったような口調で言う。

 ソヴェンスキでヴェロニカを撃った時、あいつは魔弾の射手の直撃に耐えた。

 何だか分からないけど、多分、司教憲兵アフィツエルにはなにかそういう防御系のスロット能力があるんだろう。


「最後に慈悲を与えよう。今すぐに武器を捨て跪くがいい。

そうすれば信徒としての地位を与えてやる。抵抗するなら不信心者ニヴェリエとして扱うことになるぞ」

「人の後ろでコソコソ隠れてたくせに、口だけは威勢がいいな」


 アンドレアが勝ち誇ったような顔で笑って大袈裟に首を振る。


防御プロテクション無しで司教憲兵アフィツエルたる私に勝てるつもりかね」


 アンドレアの人を見下したようが視界に入った。血が逆立ちそうになるのを深呼吸して押さえる。

 敵であっても敬意を払うべき人はいる。そして単なるクソ野郎も。

 いまだに人と戦うのは慣れない……でもこいつは違う。


「それ以上喋るな。息が臭いんだよ。さっさとかかってこい」




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