戦うしかないのなら・上
おはようございます。
朝更新しておきます。場面転換の関係で少し短め
レオニダートの疲れた顔に何とも複雑な表情が浮かんだ。
なぜこいつがここに……と思ったけど。
この人は前に指揮官役でここにきている。ギルドと打ち合わせと称してなんどもQFRONTビルに出入りしているのも見た。
来ているのは不思議じゃないか
「ここで君に会えるとはな、カザマスミト。これも我が神……の導きか」
僅かに口ごもってレオニダートが剣を構えた。レイピアとロングソードの中間の様な、細身の片手剣だ。
こっちも銃剣を構えるけど……
「一つ聞いていいですか?」
「……なんだね?」
無視されるかと思ったけど、レオニダートがこっちから視線を外さないままに答えてくれた。
「あの時……なんで見逃してくれたんですか」
都笠さんを追って行ったあの町で、こいつは絶対に僕に気付いたはずだ。
この人にどういう意図があったのかわからないけど、この人が見逃してくれなければあの場所で戦闘になっていた。
そうなったら間違いなく包囲されて、都笠さんを助けるどころじゃなかっただろう。
「あなたとは……できれば戦いたくない」
あれが無ければどうなっていたか分からないけど、都笠さんはここにはいれなかった。
レオニダートが切っ先を下げる。張り詰めた雰囲気が少し緩んだ。
「君があそこにいた理由が分かったからだよ」
周りを伺うように左右に目を走らせて、レオニダートが口を開いた。
「……たった一人の仲間を助けるために、君たちはあそこまでやってきた。
君の国にはまだ騎士道が生きているのだ……誰かのために勇気を持って戦う、義の心が」
そう言ってレオニダードが俯いた
「それが、たまらなく……うらやましかった」
レオニダートが自嘲するようにつぶやく。
「私の国では神を信じるか、信ずるふりをして生きるしかない……私の国では失われたものだ」
「もう辞めませんか?僕はあなたに恩がある」
奇襲で塔の廃墟を占拠する計画だったんだろうけど、探索者も含めれば数はこっちの方がはるかに多い。
こっちが気付いた以上、もう奇襲の効果はない。こいつらの計画は崩壊しつつあると思う。
それに僕等が先行してきたけど、いずれはガルフブルグ側でも援軍がラポルテ村を取り囲むだろう。
そうなればこいつらはガルフブルグのど真ん中で孤立する。
「今の状況は分かってるでしょう?貴方だけなら僕が必ず助けます」
顔を上げたレオニダードが悲し気な顔で首を振った。
「そうはいかないんだ、カザマスミト。どういうことになったとしても、私は此処で戦わないことは許されない」
どういうことですか?と聞こうと思ったけど。
「おお、レオニダート……カザマスミトと会えたようではないか」
瓦礫の向こうからもう一人、白い衣装をまとった男が現れた。
◆
「神に背いたお前のような背教者にも、加護をお与えくださるとは。やはり我が神は寛大だ。そうだろう」
その男の手にはヴェロニカと同じ、双剣が握られていた。司教憲兵か。
焦げ茶色の長い髪と気取った感じで整えられた口髭、僕よりは年上そうだ。父さんくらいだろうか
装飾が多い白い衣装の腹周りが妙にたるんでいるのが分かる。
鍛えあげた筋肉って感じではなくて、不健康な感じに太り気味なところが今まで何度か戦ってきた司教憲兵っぽくないな。
「不信心の汚名を濯ぐ機会だ。その者を捕らえろ、分かっているな?」
司教憲兵が偉そうな口調で言って、レオニダートが静かに頭を下げた。
「言うまでもないが失敗するということは、お前の信仰が足りぬと言う事だ。その場合、教義に従いお前の妻子がお前の不信心の咎めを受けることになるだろう」
「……承知しております、アンドレア司教」
レオニダートが無感情に言って僕の方を向きなおった。
「つまり……こういうことだ」
レオニダートさんが少し悲し気な顔で言った。
「……クソ野郎」
何が起きているのか一瞬で理解できた。家族を人質に取っているのか
不信心者を盾にして戦う戦争の仕方と言い、どこまでも腐りきってるな。
「どうにかならないんですか」
「……君を倒さねば、わが妻子が不信心者に落とされる。おそらく憲兵たちの慰み者にされるだろう」
そう言ってレオニダートが剣を構えた。切っ先が僕を向く。
「君の騎士道には敬意を持っている、カザマスミト……だが、負けるわけにはいかないんだよ」
顔から表情が消えた……やるしかないのか。
◆
銃剣を構え直して間合いを図る。刺すような緊張感が伝わってきた。
自分の体を覆う防御の光を見る。
掛けてもらってから時間がたっているから少し薄れてきているけど、あと何回かは耐えれるだろう。
後ろでは薄笑いを浮かべながらアンドレアとかいう司教憲兵が見ていた。
もう一度レオニダートを見る。甘いのかもしれないけど……出来れば殺さずに制圧したい。
どうにか隙を見てあのアンドレアだかに魔法を刺してやりたいところだ。
監視役のようなあいつが倒れれば、この人も気が変わってくれるかもしれない。
「カザマスミト……降伏しないか」
剣を構えたままレオニダートが囁くような声で言った。
「そうすれば……敬意をもって楽に死なせる。捕らえられれば不信心者として死ぬまで奴らに使われるぞ」
真剣な口調だ。僕を舐めたとかそういうのじゃないんだろうけど。
「生憎とこっちにも負けられない理由があるんで」
当たり前だけど、ハイそうですかと殺されるわけにはいかない。
自分が死んで悲しむ人がいるなら、大切な人がいるのなら、生き延びるために戦う義務がある。
ただ、ここまで言うってことは余程の手練れなんだろうと言う事は分かった。
出来れば助けたい気持ちはあるけど。
でも戦うしかないのなら、覚悟は決めないといけない。
「そうか……そうだろうな」
レオニダートがかすかに笑って頷いた。
レオニダートが、アーロンさんが練習の時にやるように顔の前に剣を立てて一振りする。騎士の儀礼だ。
「では、始めよう」




