QFRONTビルに突入する
御無沙汰しております。
超絶お待たせしました。エタってはおりません。
再開します。待っていてくれた皆さんに百万の感謝を。
QFRONTビルの中を思い出すけど。
元は大きめの書店だったけど壁を作ったりしているから、2階以降は決して広い作りじゃない。多人数での侵入はしない方が良いな。
「狭い中ではあまり多くの人では行ってもダメです。アーロンさん、同行してもらえますか?」
「ああ、任せろ。むしろおいていかれたら腹が立つぞ」
「あと、アルドさん、何人か前衛を貸してもらえますか?」
僕は管理者を使っている間は集中しないといけないし、カメラを見るなら目の前に画像が浮かんでいるから戦いになると厳しい。
それに全員でビルに入って逆包囲されちゃまずい。
アルドさんが頷いて、後ろの二人に目配せした。
「アフレイト、サンドラ、お前たちは龍殺し殿のお供をせよ」
アルドさんが言うと、後ろに控えていたうち、僕と同じ年位の二人の男が頭を下げて進み出てきた。
二人ともがっしりした筋肉質な体で、いかにも歴戦の戦士って感じだ。
それぞれ剣と鉈のような片刃剣を持っている。
「竜殺し殿には及びませんが……足手纏いにはなりません」
「ありがとうございます。あと、すみませんが皆さんで周囲を守ってください。外にもあいつらがいるかもしれない」
まだ周囲に司教憲兵がいる可能性はある。
時間がたてば探索者が戻ってきてこっちの方が数で優位に立てると思うけど……まだ今は姿が見えない。
万が一にも逆包囲されるわけにはいかない。
「お任せください。ここは必ずや我々が守ります……御武運を」
アルドさんが一礼してくれた。
◆
セリエとレインさんに防御を掛けてもらってQFRONTビルに入った。
アーロンさんとアフレイトさんがそれぞれ武器を構えて周りを油断なく警戒する。
ギルドの入り口になっているカウンターのところはめちゃくちゃに荒らされていて、何人かの探索者の遺体が転がっている。
あいつらの姿は無い。
「やってくれるわね、テロリストが」
都笠さんが吐き捨てるようにいう。
「風戸君はカメラをきちっと見てね。不意打ちされない様に」
都笠さんが89式の銃口を周囲に向けつつ言う。
「了解、ガイドする」
「ガイド?」
アーロンさんが怪訝そうに聞いてくるけど。
「管理者、起動、監視カメラ制御」
唱えると、複数のウインドウを開けたパソコンのようにカメラの映像が浮かんだ。
一階だけじゃなく2階と3階の分まで見えるけど、今は1階と2階の分に集中する。
天井の防犯カメラは壊れたり撤去されたり、飾り布とかで隠れてしまってるものもあるけど、それなりの数が生き残っている。
ある程度敵の動きはこれで察せられるな。1階には敵はいないっぽい。
盾を構えたアーロンさんとサンドラさんが2階への階段に向けて近づく。
「待ってください」
2階の階段を上ったところに何人かがいる。待ち伏せしてるな。
「階段を上がったところの左右に2人づついる。3人は武器を持ってるけど、一人は持ってない……魔法使いかも」
「なんでそこまで正確にわかるんだ?」
アーロンさんがこっちを振り向かないままで聞いてくるけど。
今は細かい説明をしても仕方ない。
「まあそう言う能力なんですよ」
狭い階段を上るところを上から狙い撃つ、セオリー通りの待ち伏せか。
「あたしが一番速いわ……解放」
都笠さんが兵器工廠から筒状の手榴弾のようなものを取り出す。
「なにそれ?」
「閃光発音筒よ。防御が掛かっててもこれなら効くはず。
アーロンさん、これを食らったらあいつらはしばらくは動けなくなりますから、先行してもらえますか?」
「ああ、分かった」
「じゃあ、全員目を瞑って耳を塞いでいて」
アーロンさんが頷くのを見て都笠さんが言う。皆が言われる通りに耳を塞いだ。セリエが獣耳を伏せて僕に寄り添ってくる。
都笠さんが手すりの死角から上を覗いてパッと階段の下に飛び出した。手榴弾を上に投げつけてすぐにまた戻る。
一瞬の間があって階段の上で真っ白いフラッシュのような光が煌めいた。
遅れて耳をつんざくような音が轟く。耳を塞いだ手の平越しにも突き刺さるように頭の芯に響く音だ。
「行くぞ!」
「あいよ、旦那」
アーロンさんが首を振って、リチャードとアーロンさんが階段を駆け上がっていく。
何度か剣劇の音が聞こえて、階段の上の敵は制圧された。
◆
2階に上がった。
2階は改装されて湾曲したガラス面に沿って廊下が作られていて、広間とか小部屋になっている。
廊下に人影はないけど、カメラの画像を見ると部屋に潜んでいるのが見えた。4人だ。
「二つ向こうの部屋の中にいる。待ち伏せだ」
都笠さんが頷いてガラスに寄って射線を確保する。こっちに視線を送ってきて、アーロンさん達が意図を察したように頷く。
都笠さんのアサルトライフルが火を噴いた。
急ごしらえの壁はそこまで厚くない。銃弾が壁を貫いて、中から悲鳴が上がる、
司教憲兵が飛び出してきたけど、来たところで銃弾とユーカの炎が炸裂する。
体制が崩れたところをアーロンさんたちが容赦なく切り伏せていった。
「なぜ……わかるのだ?」
床に倒れた司教憲兵が聞いてくるけど。
「ここで戦ったのがお前らのミスだ……塔の廃墟は僕らの領域だよ」
もしガルフブルグの建物とかでの戦いならこうもいかないだろうけど。
管理者が使えるここなら僕等の方が圧倒的に有利だ。
ただ。
「早くいかないと不味いな」
上の階のカメラを見る限りオルドネス公たちは7階のカフェに立てこもっている。
もし先に其処まで行かれて人質に取られたら形勢逆転になってしまう。
フェイリンさんやジェレミー公、ラティナさんがいるとはいっても司教憲兵は手ごわい。
急がないと。
◆
三階。右の部屋というかパーテーションで区切られたところに何人かが居る、
ここは客室みたいに使われていたはずだ。
この階は窓に面している廊下が少ないから視界が悪い。天井からランプがいくつか釣り下がっている、
4階への階段に向かう廊下の奥に陣取るように何人かの司教憲兵が何人かいるのが見えた。
隠れるつもりは無いらしく、机とか椅子とかをバリケードのように積み上げている。オーソドックスに時間稼ぎするつもりか。
都笠さんが牽制するかのように何発かバリケードに撃ち込むけど、流石にそれだけじゃ崩れる気配は無い。
カメラの映像を確認するけど、周りの部屋に人影はなかった。
「他に待ち伏せは無い」
「時間は掛けられないぞ」
アーロンさんが言う。
今は何もしてこないけど、狭い廊下をやみくもに突進したら魔法を撃ち込まれかねない。何もしてこないのが逆に不気味だ。
「魔弾の射手でも撃ち込もうか?」
「魔法は温存して。グレネードを使うわ。爆発が起きたら切り込んでくれますか?」
都笠さんがアサルトライフルを構えていう。アーロンさんとアフレイトさんが頷いて剣を構えた。
都笠さんが89式を吊るしたまま、別のアサルトライフルを構える。
銃口の下の筒からグレネードが飛んだ。
暗い廊下の向こうで赤い光が閃いて鈍い爆発音が響く。爆風が吹き抜けてきた
「行くぞ!」
アーロンさんとアフレイトさんが走り出す。その後ろに付くようにリチャード達が続く。
走り始めたアーロンさんが突然足を止めて天井を見上げた。
「みんな!下がれ!」
アーロンさんが叫ぶ。
とっさに後ろに飛ぶと同時に、頭上から爆発音がして目の前に何か大きなものが降ってきた。
◆
堅いものが折れる音とぶつかり合う音が轟いた。
濛々と埃が上がって視界が真っ黒に染まる。口を手で押さえた。
「管理者、起動!電源復旧!」
詠唱が終わると同時に監視カメラの映像が消えて、電気の明かりがついた。まばらだけど、なにもしないよりはいいか。
何が起きたのかと思ったけど、目の前には瓦礫の山が来ていた。頭上には大穴が開いている。
4階の床を崩してきたのか。無茶苦茶するな。
天井の瓦礫や上の階から落ちてきたらしき家具が山のように詰みあがっている。
壁のようにそびえる瓦礫の山を越えようとしたけど、上からもう一つコンクリートの塊が降ってきた。
「ご主人様!」
どこかからセリエの声が聞こえる。無事らしい。
改めて見ると最後尾に居たから周りにはだれもいない。僕だけか。
「僕は大丈夫!」
「今そちらに!」
向こうの方から銃声と魔法の爆発音が聞こえる。
「僕は大丈夫だ。あとで会おう!」
「でも……」
セリエの不安げな声が聞こえる。
合流したいところだけど……こっちに近づいてくる足音が聞こえた。まずはそれに対処しないと。
銃剣を構えてそっちを向く。瓦礫の破片と埃の向こうに人影が浮かんだ。
「君か……」
背の高い男が暗がりから姿を現す。
僕より少し年上っぽい顔には疲れたような表情が浮かんでいる。
灰色の髪を後ろで束ねて簡素な白い革鎧に身を固めたそいつには見覚えがあった。
……レオニダートか。
とりあえず区切りまで4連投ほどになると思います。
今年度中にエンディングまで行くつもりで書き溜めてます。
引き続き応援お願いします。