言葉の力
お早う御座います、朝投稿の3連投目。
長くなったので分けました
立て続けに銃声が響いた
一瞬体がすくむけど……撃たれたのは僕等じゃなかった。
都笠さんの周りを囲んでいた司教憲兵と兵士たちが苦悶の声を上げて膝をつく。
足から血が噴き出しているのが見えた。
都笠さんがいつも通り流れるような動作で弾倉を入れ替えると、ヴェロニカに銃を向けた。
いつものすました顔じゃない、愕然とした顔でヴェロニカが都笠さんを見て双剣を構えようとするけど、都笠さんの方が速かった。
棒立ちになっていたヴェロニカに次々と弾がつき刺さる。
フラッシュのように当たったところで光が弾けた。
血を飛び散らせながらヴェロニカが倒れる。
「よくもやってくれたわね。このあたしを……ムカつくわ、ほんとに」
都笠さんが白い外套を邪魔くさそうに脱いで地面に叩きつけた。周りを銃口で威嚇しながらこっちに駆けよってくる。
ヴェロニカが立ち上がった……防御ではないようだけど、なにかしら防御手段があるっぽいな。
「……人形師が解けたのですか?」
「今ので死んでないわけ?全く、しぶといわね、クソ女」
鎧に血の跡が散っているけど……痛みを感じているような感じではない。
治癒か何かでも使えるんだろうか。ヴェロニカが首を振って、またいつもの薄笑いに戻った。
「信じられませんが……状況は変わりませんよ。あなたが囲まれているというこの状態は。手荒な真似はしたくありません。武器をお捨て下さい」
「お姉ちゃん!」
「きてくれてありがとね、ユーカ、セリエ」
都笠さんが目を周りを威嚇するように銃口を動かしつつ言う。
ユーカが都笠さんに甘えるように体を摺り寄せた。セリエが軽く会釈する。
「大丈夫?」
「ええ、大丈夫よ。ありがとう、風戸君」
目線をヴェロニカたちから切らないままで都笠さんが答えてくれる。
「ところで……助けに来てくれたのはうれしいけどさ、逃げ道は考えてるのよね」
周りはいつの間にか通行人はいなくなっていたけど、いつの間にか兵士たちに取り巻かれていた。50人はいるだろうか。
道もすべて塞がれていた。でも……来る以上は準備はしてある。
「もちろん……ヴァンサン、こっちは成功だ。頼む」
『よし。よくやった。次は俺の番だな。少し持たせろよ』
セリエに合図すると、セリエが懐から取り出した発煙筒を炊いた。赤っぽい煙が青い空に伸びる。
「狼煙?」
都笠さんが上を見上げる。
『確認した。すぐにつく』
ヴァンサンの声がインカムから聞こえた。
周りの兵士たちが槍を持って一歩間合いを詰めてくる。
前に旧市街で戦った時に分かったけど、数は力だ。この人数を僕等だけで制圧するのは無理だろう。
ヴェロニカの余裕な顔もそれが根拠なんだろうけど。
「大人しく降伏しないのであれば、貴方の大事なその二人が……」
ヴェロニカの口上を遮るように、風が吹き抜けて広い路地を黒い影が横切る。
上を向くと白く輝く竜が羽ばたいていた。
◆
空中を舞う竜が一度旋回して、そのまま急降下してきた。風が鳴る。
翼や尻尾が道をとりまく家にぶち当たって煙と白い石がばらばらと飛び散った。街路樹がなぎ倒されて、兵士たちが慌てて四散する。
強行着陸する飛行機よろしく、広い道の真ん中に地響きを立てて竜が舞い降りた
「なにこれ?」
「スミト!無事か!」
ヴァンサンが竜にまたがっている
話には聞いていたけど……実際に見るとデカさに圧倒されるな。サイズだけならワイバーンより一回りは大きい。
ヴァンサンのスロット能力は従魔使役。
セリエの使い魔の上位互換でコントロール可能な形代を作り出す能力らしい。セリエのそれとは大きさがケタ違いなだけで。
「セリエ、ユーカ!先に行って!」
声を掛けると弾かれた様に二人が竜に向かって走り出した。
竜が威嚇するように大きく尻尾を振り回す。太い尻尾の先端が石畳をコンクリートを剥がすように削り取って、白い敷石と黒い土の破片と巻き込まれた兵士の体が宙に舞った。
都笠さんが兵士たちに向かって引き金を引く。
兵士たちの声と足音、竜の尻尾が石畳を抉る音に混ざって立て続けに銃声が響いた。
撃ちながら都笠さんが後退する。
兵士たちが撃たれて次々と倒れるけど、誰も下がろうとせず槍を構えてこっちに向かってくる。
「【燃えちゃえ!!】」
「【黒の世界より来るものは、白き光で無に帰るものなり、斯く成せ】」
ユーカの声が聞こえて、炎の壁が目の前にそそり立った。続いてセリエの魔法が飛ぶ。
流石に兵士たちの足が止まった。
「お兄ちゃん!早く来て」
「ご主人様、スズ様!」
「行こう!」
「最後にこれでも食らいなさい!解放!」
都笠さんの手に手りゅう弾が現れる
ピンを抜いて火の壁に向かって投げつける。壁の向こうで次々と爆発音が響いた。
竜が恐竜のように地響きを立ててこっちに歩いてくる。
「早く乗れ!」
鞍から縄梯子が吊り下げられている。それを掴んだ。
火の壁を強引に超えてきた兵士たちが弓を構えるのが見える。
「下がれ、狂信者共が!」
ヴァンサンが叫ぶと竜が大きく体を捻った。振り落とされない様に縄梯子にしがみつく。
ふり回された翼が建物を砕いて、石と瓦のかけらが散弾銃のように兵士たちに降り注いだ。兵士たちの悲鳴が上がる。
「逃がすな!殺せ!」
誰かの号令が聞こえて、土埃の向こうから矢が次々と飛んできた。羽根を振り回して竜が矢を払いのける。その隙にどうにか背中の鞍によじ登った。
ヴァンサンが小さく声を上げて顔をしかめる。竜に矢が刺さっていた。セリエの使い魔と同じく、感覚をある程度共有しているのか。
「大丈夫?」
「ロンドヴァルド家の騎士がこの程度でひるむと思うか!」
竜が大きく羽ばたいた
「行くぞ!落ちるなよ!」
「【あっち行って!アンタたちなんて大っ嫌い!!】」
ユーカが叫ぶと、炎が次々と爆発して、炎の壁が次々と立ちあがった。兵士たちの何人かが火に包まれて悲鳴が上がる。
エレベーターのように下から押されるように、竜の巨体が中に舞い上がるった。
「あとは逃げるだけだ!派手にやれ!スミト」
「いいの?」
聞き返すとヴァンサンがうなづいた。
「【新たな魔弾と引き換えに、ザミュエル!彼のものを生贄に捧げる!】」
道を見おろすと、こっちを見上げているヴェロニカが目に入った。
あいつなら遠慮はいらない。さっきは止められたけど、一発も食らわせずに帰れるか。
「焼き尽くせ!魔弾の射手!」
光弾が飛んで地面につき刺さる。爆炎が上がって馬車と周りの兵士たちが吹き飛んだ。
「いくぞ!」
竜が大きく翼をはためかせて一気に高度が上がった。
白い街並みが遠ざかって、ミニチュアのように小さくなる。緑の草原と森と茶色の街道が眼下に広がった。
気温が下がって、肌に冷たい風が触れる。興奮で熱くなった頭が少し冷えた。
「……あんな無茶やって大丈夫ですかね」
「今更お前がそういうことを言うのか?」
ヴァンサンが呆れたような口調で言う。
「まあ」
「どうせここまでやればもはや抜き差しならん。なら今更加減しても仕方ない、との大公の仰せだ」
「……戦争になるってこと?」
「すでに始まっている。塔の廃墟で我が国の探索者を殺し、スズを連れ去ろうとしたんだからな」
前を見たままヴァンサンが言う。
「だからお前が気に病む必要はない。いずれ決着をつけなければいけない相手だったのだ」
淡々と言われる。そう言われても、じゃあいいや、とはならないけど。
ただ、じゃあ何もしない方がよかったか、と言うとそうじゃないし。
結局は、起きてしまったことの責任を自分が出来る範囲で取るしかないってことだろうな。
その後。
地上に降りることは勿論できないから、ヴァンサンはポーションを飲みつつ飛びつつけた。
肌に触れる澄んだ空気、風を切る感覚と雄大に広がる雲海。頭上には360度広がる青い空。
こういう状況じゃなければ最高の空の旅なんだろうけど。
来るときは何日もかけて移動してきたけど、最短距離を空を飛んでいくと早い。
空が夕焼けに染まる頃、国境線の簡易な石の壁を越えた。
街道の遠くにガルフブルグの旗が立っている街が見える。ようやく気が抜けた
続きは昼に投稿します。




