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到着前夜

おはようございます、4連投目!

 エリステン・ルーヴァに着く前日、作戦会議をすることになった。


「私の天頂の眼ゼニスヴィジョン座標補足ポインターで都笠さんの場所は分かります。近づけば近づくほど詳細に位置が分かる」


 綾森さんが説明してくれる。なにやらGPSのようだな。


「街に入って行商を装いつつ日を稼いで機会を窺う。城の中に突入するのは流石に無理だから……なんとか移動の時を狙いたいね」


 コンテッサさんが言う。

 流石に僕等だけで城に突撃は絶対に無理だろう。


「まあそれしかないな」

「いざ決行と成ったら、アタシとアスマ卿はすぐに街を出てガルフブルグに引き返す。アタシたちは荒事には役に立てないからね」


 コンテッサさんが言って、綾森さんが頷いた。

 コンテッサさんも一応多少は戦えるらしいけど、竜殺しさんにはとてもかなわない、ということらしい。綾森さんは言うに及ばずだ


「スミト、お前等の脱出は俺が何とかしてやる」


 ヴァンサンのスロット能力は説明を受けた。

 確かに彼の能力ならば、僕等を助けることも、どうしようもなければ殺すこともできるだろう。

 場所を選ぶが荒事には役に立つ、というバスキア公の評は正しいと思うし、この能力が先祖代々の固有スロット能力ならば、重用されるのも分かる。


「とにかく、だね。長居は禁物だ。アンタらの顔を知っている連中はいないだろうが、それでも長くいればいるほど成功率は下がると考えていい。時間はアタシたちの味方じゃないよ」


 コンテッサさんが言う。

 確かに、20世紀の東京のように手配写真が回っているなんてことはありえないとしても。

 時間を置くことは全く意味がない。

 

 それにソヴェンスキの人を引き込むやり方とやらが何だかはわからないけど。

 薬とかの洗脳とかだと……魔法で解除できなければ都笠さんをそのままで取り戻すことはできなくなる。

 助けたけど手遅れでした、では意味がない。 


「で、スミト卿、なにやらスゴイ道具をお持ちだそうじゃないか。是非眼福に預かりたいねぇ」

「まあ、僕のじゃないんですけどね」


 東京からいくつか使えそうなものは持ってきた……この中でおそらく一番役に立つのは通信機だろう。

 スマホがあるときは当たり前にしか思ってなかったけど。いざ無くなってみると、いつでも連絡を取り合えるってことの重要さが身に染みる。

 

「これを使います。綾森さんは分かりますか?」

「まあ一応……何とかね。携帯電話とは違うんですよね」


 綾森さんがボタンを押しながら言う。携帯電話なら兎も角、無線機はあまり使ったことない人の方が多いかな。

 これで連携できればそれだけで有利だし、リアルタイムで連絡を取り合えるのはあいつらには思いもつかないだろう。

 管理者アドミニストレーター無しでも、一日くらいなら電池で十分使える。


 ヴァンサンに説明するのは骨が折れたけど、すぐに使い方と即時で意思疎通できる便利さには気づいたようだった。


「これが塔の廃墟の遺物と言うわけか、確かになんというか……俺たちの想像を超える代物だな。スロット能力でもこれほどの物はないぞ」


 電池切れとか、電波が通じないことが有るとか、色々と欠点もあるのは確かだけど。

 でもこの世界においては強力な武器になることは間違いない。


「こういうものを使えるとはな……確かに大公がお前を重要視するのも分かる」


 ヴァンサンが初めて感心したって顔で僕を見た。


「一応確認するが……スズが城から出てきたら、お前等がまずはスズを助けに行く。状況に応じて俺が援護する。それでいいな」

「ええ」


 正直言って、その場でどう転ぶかは分からない。

 無線で連絡を取り合いつつも、最終的には出たとこ勝負になりそうだ


「改めて言っておくが、もしスズを助けられない場合は、俺があいつを殺す。お前もその覚悟を決めておけ。いいな」


 ヴァンサンが静かな口調で言った。

 ユーカが僕の横でこわばって、後ろに立っているセリエが息を飲む。


「もしお前があいつらの手に落ちそうになった場合もだ」


「そんなのヤダ!」

「ご主人様にそのようなことはさせません」


 セリエとユーカが強い口調で言い返す。

 ヴァンサンが鬱陶しそうに二人を見た。


「奴隷風情が貴族たる俺に口答えとは………というとお前は怒るんだったな」


「そうならないためにも成功させよう。頼むよ、セリエ、ユーカ」、

「ふん。お前等のことは兎も角だ、お前等を殺して俺だけが逃げかえった、では大公にも我が家の者にも合わせる顔がないだろうが」


 ヴァンサンが顔を背けつつ言う


「成功させたいのは同じですね」

「ああ……そうだな」


「じゃあよろしく」

「お前も土壇場で判断を誤るなよ」



 作戦会議が終わって、コンテッサさんは別荘からでて宿の部屋に戻った。

 僕等もそれぞれに宛がわれた部屋に戻る。

 ベッドと机と小さな棚しかない、ガルフブルグの宿ではよくある部屋だ。わずかな彩りで壁にタペストリーが貼ってあるのは、コンテッサさんの趣味らしい。


 別荘の中はどういう原理か分からないけど、ドーム状の天井から昼は太陽のような光が差し込んできて、夜は光が月明りのように小さくなる。

 これは太陽のサイクルと連動しているらしいけど、その辺の理屈はコンテッサさんも分からないんだそうだ。

 昼夜の感覚が狂わないのは助かるな。


 窓からは薄く白い光が入ってきていて部屋をわずかに照らしてくれていた

 セリエが整えてくれたベッドに入ろうとした時、ドアがノックされた。


「はい」

「……ご主人様、入ってよろしいですか」 


 セリエの声だ。


「いいよ」

「失礼します」


 ドアが開けられて、ホールのランプの明かりがと一緒にセリエが入ってきた。

 

「あの……お側に……」

「いいよ、おいで」 

 

 いちいち断らなくてもいいんだけど、いつまでたってもセリエはその辺はこだわる。

 セリエがベッドの僕の横にちょこんと腰かけた。

 このシチュエーションはもう何度もあったんだけど、でも肩が触れるたびにやっぱりちょっと胸が高鳴る。


「あの……ご主人様」

「うん」


 セリエの栗色の眼が僕をまっすぐ見つめた。


「ありがとうございます」

「何が?」


「ついてくるな、と言わないでくださって……ありがとうございます」

「ああ、それはね……」


「ご主人様がスズ様を自分でお救いになりたい、と思われたように、私もただ待つのは……嫌でした。ご主人様のお側以外、私の居場所はありませんから」


 実を言うと一緒に来てくれる?と聞こうと思ったけど。でもやめた。

 都笠さんにもいわれたけど、それを聞くことは多分思いやりでも親切でもなんでもない。


「ご主人様……何があろうとも、必ずやお守りします。何かありましたらお嬢様を……あの」

「そんなことをするつもりはないよ。成功して、全員で帰る」


 何がいいたいかは分かったけど……その言葉は遮った。

 口にするとなんか縁起が悪いし、なによりそんなことになったら僕にとっては失敗に近い。

 セリエが僕を見上げた。


「あの……ご主人様」

「キスする?」


 セリエのキスをねだるときの雰囲気は流石になんとなくわかってきたけど。


「……いえ、あの。無事戻ったら……その時に」


 セリエが頬を染めて俯いた。


「わかった。なら戻った時に」 

「あ……あの……でも、やっぱり少しだけ………」

 

 セリエが僕をまた見上げて目を閉じた。獣耳に触れて軽く唇を触れさせる。

 抱きしめると、セリエが甘えるように体を擦り寄せてきた。暖かくてやわらかい肌が触れ合う。

 

「じゃあ、お休み」

「はい、ご主人様」


 セリエが一礼して出て行った。


 戦場で最後まで生き延びるのは、生きて戻って好きな女を抱きたい、憎いあいつより前に死ぬわけにはいかないと思う奴、だったかな。アーロンさんが言っていたことを思い出す。

 なにかが大事なら死んではいけない。守りたいなら戦うしかない

 世の中の構造はもっと複雑なんだろうけど……でも、今ここの局面ではやるべきことは単純な話だ



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