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救助のため、夜の市ヶ谷に向かう・下

おはようございます、いつもの朝更新です。

 車は道端に止まっていた車からハイブリッドのミニバンを選んだ。ワイバーンとかとチェイスをしなければこれで十分だろう。

 それにあまり騒がしいエンジン音を立てたくはない


 四谷へのルート、ナビは赤坂御用地に沿って行く道を示したんだけど、そのルートはセリエとアデルさんの二人から却下された。

 ガルフブルグの一般論だと森とかそういう場所には門が開きやすいらしい。

 経験則を信じよう、ということになって遠回りにはなるけど路地を抜けて四谷を目指すことにした。


 走っているうちに完全に日が落ちた。月明りだけになった暗い住宅街を抜ける。

 都心とは思えない、ごく普通の住宅街だ。東京にそこそこ長く居たけど、如何に来たことがない場所が多かったのか今更ながら気づかされる。

 都笠さんの運転で大柄なミニバンがスムーズに細い路地をぬけていく。複雑なつながりの路地は迷路のようでナビがないととてもじゃなけど抜けられなかっただろう。


 ミニバンの窓からはセリエが身を乗り出して耳を澄ませてくれている。

 アデルさんはシートに座っているけど、バイクに乗れなくて不満げだ。魔獣が居たら即臨戦態勢に移れないではないか、とぼやいている。


 バイクは衛人君と同じく、スロット能力の魔法の箱マジックボックスに3台隠し持っているらしい。

 ただ、騒がしいエンジン音は目立って魔獣を引き付けかねないし、万が一にもアーロンさん達の声とか物音を聞き逃しかねない。

 

 さっきまでは魔獣のものらしき鳴き声が聞こえていたけど、ライトを消して止まっていたら遠ざかって行った。

 このメンバーなら倒せないことは無いと思うけど。でもどんな相手か分からないし、時間のロスは避ける方がいい。

 また車が走り出す。静かな夜に、ハイブリッドの独特のモーターの駆動音とタイヤの走行音がやけに大きく聞こえた。


 不意に路地を抜けて大きな道に出た。都笠さんが大きく息を吐く。

 随分長い時間走った気がするけど、時計を見るかぎり30分も経っていない。ヘッドライトに照らされた青看板には外堀通りの表示が見える。

 左に行くと飯田橋、直進すると半蔵門か。


『四ツ谷駅前です。目的地周辺、音声案内を停止します』


 広々とした交差点にミニバンが止まって、ナビの合成音声が到着を告げた。とりあえず四ツ谷駅前。

 ライトと月明りだけの暗がりのなかでもひっくり返った車とか、道沿いのめちゃくちゃに壊れたビルを見ると魔獣との戦闘があったことがうかがえる。

 この辺まではもう探索の手が及んでいるんだろう。今は幸いにも何もいない。


「セリエ……なにか聞こえた?」

「いえ、なにも」


 セリエが申し訳なさそうに言う。

 どうするか 

 

 夜の探索は何度かやったけど、静寂と暗闇には押しつぶされるような重さがあるように感じる。

 見えないところから何かが突然飛び出してくるような圧力と言うのか。余り長居はしたくないところだ。

 

「クラクション、鳴らしてみよう」

「そうね」


 もしこの辺にいるなら聞こえるはずだ。聞いて、合図してくれればそれが一番いい。

 魔獣がいたら呼び寄せてしまうけど、当てもなく探すよりはいい……それに何が出ても、ワイバーンとかヴァンパイアより強いってことはないだろう。


「鳴らすわ」


 都笠さんが言って、甲高いホーンの音が長く鳴った。音がビルの谷間でこだまするように響いて夜の闇に吸い込まれるように消えていく。

 普段の東京ならともかく今のこの状況なら相当遠くまで聞こえたはず。

 息を殺して反応を待ったけど……でも物音一つしない。かすかに遠くからそれに応じるように魔獣のものらしき咆哮が聞こえただけだ。

 セリエが真剣な顔で獣耳を立てていたけど、しばらくして首を振った。ダメか。


「アーロン達はまだ戻っていないようだ。どうする?」


 無線で連絡が取れたのか、アデルさんが教えてくれる。


「……先に進みます」


 いっそ戻っていてくれたら酒の肴の笑い話になるんだけど・

 まだ戻っていないと聞いた以上。ここまで来て、収穫なしで戻るわけにはいかない。



 外堀通りに入った。

 さっきまでの路地はいつ何が出てくるか分からなかったけど、片側2車線の広い道路だと見通しもいいし万が一の時にでも車なら逃げやすい。

 迷路のような狭い路地を走っている時と比べると、車内の空気はほんのわずかだけど緊張感が薄らいでいる。


 墨を流したような暗い道をミニバンのハイビームが照らし出す。

 なぎ倒された街路樹や街灯、それに巨大な何かで踏み荒らされたような生垣。ここにも何かが出たんだろう。

 左側は黒い壁のようなビルが並んでいるけど、左側は開けていて白く輝く月が見える。


 黒い闇の中に斜めに倒れた青看板が浮かび上がった。ミニバンが少しスピードを緩める。

 右にカーブする道。右に行けば市ヶ谷、左に行けば靖国通り。


「この辺に防衛庁があるのよね」


 都笠さんが重い沈黙を破るように言う


「アーロンさん達を見つけたらさ、ついでに高機動車か軽装甲機動車を一台拝借して……」

「すみません」


 軽口を言う都笠さんをセリエが止めた。



「あちらを」

 

 ミニバンが静かに止まった。

 セリエが指さす方向を見る。ガラス越しだと見難かったけど、外に出ると分かった。漆黒の空に薄く白い煙が上がっている。

 大きな火事が起きている感じじゃない。焚火だろうか。


「公園が有るみたいね……外濠公園っていうのかしら」


 都笠さんがナビを覗き込みながら言う。


「セリエ、頼める?」

「はい、勿論です」


 そういうとセリエが手を出してくる。いつも通り指を絡ませ合った。

 セリエがちょっと嬉しそうに笑って呪文を詠唱すると、白い光を放つファミリアが暗い夜空に飛びあがる。鳥がくるりと僕等の頭上を一回りして煙の方にまっすぐ飛んで行った。


 流星のように光る使い魔は、星明り以外に明かりが殆どない夜空には目立つ。

 見えにくそうにセリエが目を細めると、使い魔が高度を下げた。

 

「川と森が見えます……網のような壁に囲まれた場所に……」


 そう言ってセリエがほっと息を吐いた


「アーロン様たちが居られます。お怪我をされておられますが……ご無事です」


 安心したようにセリエが言う。ユーカと都笠さんがかるくハイタッチした。


「ふん、無駄足ではなかったか」


 アデルさんがそっけなく言うけど、硬い表情に少し笑みが浮かんでいた。

 正直言って……考えたくなかったけど、魔獣にやられている場面も想像したけど……そうじゃなくてよかった。


 夜にけがをしたままこのあたりで野営は余りにも危険だ。魔獣の群れに襲われれば対抗できない。

 幸い周りに魔獣の気配はない。急いで回収しておさらばしたいところだ。都笠さんとユーカが車に乗り込む。

 使い魔を戻して、と言おうとしたその時、セリエが小さく息を吸った。

 

「どうしたの?」


 つないだ手が強張る。使い魔が空に高く舞い上がったのが見えた。


「セリエ?」

「居ます……ソヴェンスキの兵士が……」



続きは少しお待ちを

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