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園遊会で決闘を挑まれる

おはようございます。3連投目です

「少しよろしいでしょうか、バスキア大公」


 話が途切れたタイミングで、東屋に戻ってきた人が声を掛けてきた。

 長めの赤い髪をカチューシャの様な髪留めで止めた男性だ。年のころは20歳くらいだろうか。

 ガルフブルグの人は髭を生やしている人が多いけど、髭がないあたりなんとなく若々しく見える。


 いい加減見慣れて来た、スーツを思わせるガルフブルグの礼装に身を固めて、肩には髪の色と同じ赤い色の外套をかけている。

 腰には意匠を凝らした剣を挿していた。いかにも豪華な貴族って感じで、顔立ちも相まって、何となく育ちの良さを漂わせている。


 赤い外套には龍の顔と翼を意匠化したような紋章の刺繍が入っていた。飛龍ワイバーンと戦った時をなんとなく思い出してしまうな。

 此処にいるってことはバスキア公旗下の貴族なんだろう。


 腰に差している剣や出で立ちから騎士とかそっちの人だろうなってことは分かった。

 細面の整った顔立ちで涼やかな青年剣士……と言いたいところなんだけど、髪と同じ色の赤い目の目つきはなんとも尊大で、全部台無しにしている感がある。

 僕の顔をじろじろと見て小さく笑った。なんか失礼な人だな。


「なんだ?」

「わが名はヴァンサン・カッシール・ロンドヴァルド。ロンドヴァルド家の嫡男」


 僕の方を見て、というか見下ろすようにして彼が言う。用事は僕になのか?


「名高き竜殺しにして不死の討伐者。お前の腕を見たい、一手、手合わせ願いたい」


 願いたいと言ってはいるけど……有無を言わせないって感じの口調だ。

 それはそれとしても、これは晩餐会の時にやっていいことなのか?


「許可を頂きたい。バスキア大公」


 バスキア公が少し考え込んで、僕を見てその人を見た。


「まあ……いいだろう」

「感謝します」


「ちょっと待ってくださいよ」


 ヴァンサンとやらが一礼して東屋の外に出て行った。

 できれば止めてほしかったんだけど……というか僕の意思は無視なのか。


「スミト……すまないが相手をしてやってくれ」


 いつもは自信満々って感じだけど、本当にすまなそうな口調でバスキア公が言った。



 冷たい水を一杯飲んで芝生の広場に移動した。少しは酔いが醒めた気がする。

 何か騒動が起きているのが分かったんだろう。貴族たちがぞろぞろと集まってきて何事かささやき合っていた。


「双方、防御プロテクションをかけよ。お前等はいずれも我が国を担う者だ。故に一太刀入ったらそこで終わりとする。スロット武器以外の使用は許さない」


 バスキア公が僕等の顔を見て言う。周りに他の貴族がいるからか、口調が重々しい。

 ヴァンサンの従士らしき人が彼に防御プロテクションを掛ける。見慣れた青い光が薄く彼を包んだ。


 あちこちにコアクリスタルのランプが設置されていてそれなりに明るいけど、それでも青いオーラが夜の暗闇の浮かびるように見える。

 こういっては何だけどレブナントを思い出すな。


 ヴァンサンのスロット武器は、刃が長くて柄が短い薙刀というか、長い柄を持つ剣というか……長剣と薙刀の中間のような武器だ。赤い刀身には炎のような文様が彫られているけど、ユーカのフランベルジュのように火の属性とかは持ってないらしい。

 スロット武器を地面に刺すとこっちに歩いてきた。


「どうかしましたか?」

「素性も知れないお前ごときが……バスキア公のお気に入りとは許せん」


 試合前の挨拶かと思ったけど、出てきたのは敵意丸出しのセリフだった。


「……お前の化けの皮を剥げば目を醒ましていただけるだろう……覚悟しておけ」


 ヴァンサンが小声で言って踵を返した。

 そのまま赤い外套をおつきの人に放り投げて剣を引き抜く……なんか腹立ってきたぞ。


「勝っちゃっていいんですか?」


 バスキア公に小声で聞く。それなりに偉い貴族だろうし、勝ってからごたつくのも面倒だ。


「それに関しては何の問題もない。気遣いは要らねぇよ」


 こともなげな口調でバスキア公が言う。いいのかい。


「ご主人様……」


 セリエが不安そうに僕を見る。


「大丈夫だよ。殺し合いじゃないんだし」


 なんか唐突に面倒事になったけど……防御プロテクション付きの状態で一撃入れたら終わりだから生き死にの勝負じゃない。

 それにスロット武器だけでの一騎打ちなら、ヴェロニカぐらいの相手じゃなければ、そう遅れは取らないと思う。それでもセリエは不安そうだ。


「大丈夫だから。防御プロテクションを掛けてもらえる?」

「はい……失礼します」


 セリエが僕の手を胸に抱くようにして詠唱をする。防御プロテクションの光がオーラのように僕にも纏いついた。

 ちらりと目をやると、ヴァンサンや他の貴族が僕等を見てなにやら言っている。はっきりは聞こえなかったけど、眉を顰めるって感じでおそらくあまり好意的な内容じゃないことはなんとなく分かった。


 ……やっぱり腹立ってきたな。地面を一蹴りして気合を入れ直す。

 セリエの手をほどくと、セリエが一礼して下がる。銃剣を構えてヴァンサンと相対した。


「じゃあ始めろ」



 バスキア公の合図と同時に、ヴァンサンが剣を掲げるように構えた。

 大きめの刃と長い柄。小回りが利く武器じゃない。振り回すか、振り下ろすか。


「行くぞ!」


 一声気合の声を上げると、ヴァンサンがまっすぐ切りかかってくる。小細工なしの真っ向からの切り込みだ。

 振り落ろされる一太刀目を後ろに下がって避けた。間髪入れず剣が跳ね上がるけど、それは銃剣で抑え込む。剣と銃身がぶつかり合う鋭い音が響いた。

 手に衝撃が来る。武器の威力は僕のと同じくらいか。


 舌打ちしてヴァンサンが一歩下がって、下がり際に足を交差して体を捻った。右から振り回してくるな。

 読みよりワンテンポ遅れてヴァンサンが体を反転させた。

 全身を使った薙ぎ払い。防御プロテクションの青い光が渦を巻くようにうねる。


 平均よりはかなり強いんだろうけど、おそらく僕のスロット武器より性能は低いっぽい。挙動は心持ち遅く見えるって感じだ。

 それに先が読めれば躱すのは難しくない。地面を蹴って後ろ下がる。風切り音を立てて剣が今いたところを切り裂いていって、バランスを少し崩したヴァンサンが慌てて構え直した。 


「避けるのは達者だな!」


 ヴァンサンが踏み込んできて剣を振り下ろす。踏み込みが深い……突きに移行してくる。

 読み通り突き出されてきた切っ先を銃身で払ってそのまま踏み込むしぐさを見せると、ヴァンサンが一歩下がって距離を取った。


「どうした、手を出さないのか?口ほどにもないぞ」


 ヴァンサンが担ぐように剣を構え直した。あの構えからだと袈裟切りのように振り下ろすしかないだろう。


「悪いけど……」

「なんだ?」


「全部見えるよ」


 なんというか、相手の動きが見える。というか、先が読める。

 切っ先から意図が伝わってくる感じだ。周りを取り巻いている人の息を詰めて見守る様子や話す声もなんとなく感じることができる気がする。


 今までにない感覚だけど……なんだかんだで色々と戦った経験が身になっているのか。

 稽古とかしているときに、アーロンさんからは僕はこう見えているんだろうか。


「どう動くかもわかる」

「なん……だと、貴様」


 挑発したかったわけではないんだけど、どうもお気に召さなかったらしい。余裕っぽい表情を浮かべていた顔が険しくなる


「この俺を!愚弄する気か!」


 気合の声を上げてヴァンサンが剣を振り上げる。

 その不用意に振り上げられた剣。振り下ろし際に銃剣の切っ先で跳ね上げた。金属音が響いて周りから歓声と悲鳴が混ざった声が上がる。

 

 ヴァンサンが剣に振られるようにたたらを踏んだ。体勢が崩れたところをまっすぐ踏み込む。

 少しゆっくり動く視界の中。万歳するような姿勢のまま、愕然とした顔でヴァンサンが僕を見ている。

 崩れた体勢で体を捩って躱そうとしているようだけど、がら空きの白い礼装の胸板を銃床で突いた。



 銃身を握る手に手ごたえが伝わってきて、防御プロテクションの白い光が瞬いた。ヴァンサンが後ろにしりもちをつく。周りからどよめきが起きた。

 ……いつも死にそうになりながら格上の相手と戦ってたから気づかなかったけど、ちょっとは強くなっているんだろうか。


 あっけにとられたって顔で、ヴァンサンが僕を見上げた。

 さすがに銃剣を突き付けるのは気が引けるので、上から見下ろすだけにしておく。


 まさか負けるとは思っていなかったんだろうなって感じの表情だ。

 まあ僕を特殊スロット寄りの管理者アドミニストレーター使いって思っていたのなら、武器の戦いでは侮っていても無理はないけど。


「ぐッ……こんな、バカな」


 そう言ってヴァンサンが立ち上がって剣を構えようとするけど。


「待て」


 バスキア公が迫力ある声で呼びかけて、ヴァンサンが弾かれた様に固まった。


「バスキア家旗下、ロンドヴァルド騎士家の嫡男ともあろうものが、決闘の負けを認めないなどと言うつもりはあるまいな」

「いえ……そんな」


 僕と話すときのちょっと砕けた口調とは違う、大貴族らしい、圧力を感じる口調だ。

 ヴァンサンが項垂れてスロット武器を消した。


 手を出すと、ヴァンサンが悔しそうに顔をゆがめて僕の手を取った。

 立ち上がった彼が何か言いたげな顔をして、何も言わないまま顔を逸らす。そのまま、従士と何か話しながら歩き去っていった。

 周りをとりまいていた貴族たちもそれぞれ庭のあちこちに散っていく。


「あいつは俺の旗下の高位の正騎士だ。武家だからな。まあ色々思うところはあるんだろう。済まなかったな」


 バスキア公がワインのグラスを渡してくれた。


「格好良かったよ。お兄ちゃん」

「やるじゃん、風戸君……本当に強くなったわね」


 都笠さんがぽんと肩を叩いてくれて、ユーカが腰に抱き着いてくる。

 不安気だったセリエの表情も緩んでいた


「貴族の家が悪いわけじゃねえが、しがらみも多い」


 誰に言うってわけでもなくバスキア公がつぶやいた。

 ……悩ましい所なんだろうな。大公家の当主と言ってもなんでも好き勝手出来るわけじゃないんだろう。

 目を醒ましていただく、というヴァンサンの言葉を思い出す。ひょっとしたらあの近衛の編成も反感買っているのかもな、となんとなく思った。





4連投までは行きますが、サクサクかけているのでその後もう少し続くかも。

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